1,273 / 1,548
第十九部・マティアスと麻衣 編
どうして御劔佑と一緒にいるんです?
しおりを挟む
昼休みになって休憩室で弁当を広げると、あまり快く思っていない女性社員の笠島が話し掛けてきた。
「私、年末年始にバリ島に行ってきたんです。あっちにクッキー置きましたので、ご自由にどうぞ~」
「ありがとう」
朝、目立つ所に、シーサーのような絵が描かれたクッキーが置かれてあるのを見た。
その前に社員たちが集まって「お土産だって」と言い、麻衣も一枚もらったのを、笠島も見ていたはずだ。
(私がもらったの、見てたでしょ。お礼も言ったのに何で話しかけてくるの。めんど……)
「どうして」と疑問に思うが、尋ねなくても分かっている。自慢したいだけだ。
笠島は麻衣には彼氏がおらず、一緒に旅行に行く相手もいないと思っている。
なので長期休みがあると、どこかに行った〝証〟をひっさげて、必ず麻衣にマウントをとってくるのだ。
「日焼けしたくないのに、日焼けしちゃったんです~。彼は色白のほうが好きって言ってくれてるのにぃ~。岩本さんは元から色白だからいいですよね。お餅みたい」
〝お餅〟という単語の裏で、「デブ」と言われているのは分かっている。
笠島は麻衣の一年後輩で、かれこれ六年近くの付き合いだ。
我ながらよくこの女の嫌みに耐えてきたと思うが、こういう手合いは無視するに限る。
へたにやり返したら騒ぎ立て、こちらが悪者にされかねない。
麻衣は信司が作ってくれた料理の残りを詰めたお弁当を食べ、気のない返事をする。
「どうも。大変だね」
「岩本さんはどこに行きました? 家で読書とかしてました? やっぱり初詣に北海道神宮行っちゃいます?」
笠島はバリ島に行った自分と麻衣を比較し、楽しそうに笑う。
(ああ、くそ。腹立つな。御劔さんの家に行ったって言ってやりたいけど……)
だが言っていいのか分からない。
恐らく佑は構わないと言うかもしれない。
だが言えば〝友達の彼氏の自慢する女〟になりそうで嫌だ。
確かに御劔佑という存在は凄いし、彼と付き合っている香澄も凄い。
けれど自分が佑の友達になれたのかは分からないし、他人の褌で相撲を取るような真似をしたくない。
だが腹が立つのは確かなので、少しだけ自慢する事にした。
「私は東京に行ったよ。うなぎとか、ザ・エリュシオン東京でアフターヌーンティーとかレストランで鉄板ステーキとか、美味しかった。ドイツ人のイケメンとも友達になれて、なかなか有意義だったと思う」
思いも寄らない反撃があり、笠島は表情を固まらせる。
「へ、へぇ……。良かったですね。まぁ、外国人なんて言ったら、皆美形に見えますよね。っていうかそれ、初夢じゃないです?」
現実ではないと言われ、さすがに腹が立った麻衣は、笠島をチラッと見てからスマホをだした。
「結構イケメンだと思うよ。見る?」
そしてアロクラ、マティアスと四人で写した写真を見せる。
「っすご……っ」
笠島は、圧倒的な美貌を誇る双子と、誠実そうな正統派ドイツイケメンのマティアスを見て顔色を変える。
「ちょっと見せてください」
彼女は麻衣からスマホを奪い、穴が開くほど写真を見てから、やにわに他の写真も見ようとスワイプしだした。
「ちょっ……」
普通なら、スマホの写真を見せられても勝手にスワイプしない
笠島の異常な行動に慌てた麻衣は、すぐにスマホを取り返そうとした。
……が、少し遅かった。
「えっ……!? 御劔佑!?」
佑と香澄、麻衣の写真が表示され、東京の景色やラグジュアリーなホテル、観光した場所、御劔邸の中、佑の私服姿や、佑が香澄と笑ってる写真が次々にめくられていく。
「いい加減返して! 他の写真まで見ていいなんて言ってないよ。常識知らずだから、こういうのやめたほうがいいよ」
麻衣は笠島の手からスマホを取り上げ、自分の席に座る。
「なっ……なんで? 岩本さん、どうして御劔佑と一緒にいるんです?」
笠島の声の大きさに、休憩所にいる他の人までがこちらに注目し始めた。
(はぁーっ、めんどくさ!)
対抗してやろうと思って、軽はずみな行動を取ってしまったのが原因だ。
麻衣は深く後悔しながら、渋々と説明する。
「札幌出身の親友が、御劔さんの婚約者なの」
「えぇぇ……?」
女性社員は驚いたあとに羨ましそうな顔をし、おもねる表情になった。
(わっ、この表情の変化。あからさまだなぁ)
麻衣の嫌そうな表情にも構わず、笠島は猫撫で声で話し掛けてきた。
「今度その親友さん、紹介してくれません? っていうか、岩本さん今度一緒に飲みにいきましょうよ~! 私、お洒落なバル知ってるんです。っていうか岩本さんだったらシメのラーメンとか好きです? もしかして太郎系ラーメンとかガッツリマシマシで食べます? ご馳走しますよ? 夜パフェもしましょうか!」
一人で盛り上がる笠島を脇に、麻衣は溜め息をついて唐揚げを口に入れる。
「私、年末年始にバリ島に行ってきたんです。あっちにクッキー置きましたので、ご自由にどうぞ~」
「ありがとう」
朝、目立つ所に、シーサーのような絵が描かれたクッキーが置かれてあるのを見た。
その前に社員たちが集まって「お土産だって」と言い、麻衣も一枚もらったのを、笠島も見ていたはずだ。
(私がもらったの、見てたでしょ。お礼も言ったのに何で話しかけてくるの。めんど……)
「どうして」と疑問に思うが、尋ねなくても分かっている。自慢したいだけだ。
笠島は麻衣には彼氏がおらず、一緒に旅行に行く相手もいないと思っている。
なので長期休みがあると、どこかに行った〝証〟をひっさげて、必ず麻衣にマウントをとってくるのだ。
「日焼けしたくないのに、日焼けしちゃったんです~。彼は色白のほうが好きって言ってくれてるのにぃ~。岩本さんは元から色白だからいいですよね。お餅みたい」
〝お餅〟という単語の裏で、「デブ」と言われているのは分かっている。
笠島は麻衣の一年後輩で、かれこれ六年近くの付き合いだ。
我ながらよくこの女の嫌みに耐えてきたと思うが、こういう手合いは無視するに限る。
へたにやり返したら騒ぎ立て、こちらが悪者にされかねない。
麻衣は信司が作ってくれた料理の残りを詰めたお弁当を食べ、気のない返事をする。
「どうも。大変だね」
「岩本さんはどこに行きました? 家で読書とかしてました? やっぱり初詣に北海道神宮行っちゃいます?」
笠島はバリ島に行った自分と麻衣を比較し、楽しそうに笑う。
(ああ、くそ。腹立つな。御劔さんの家に行ったって言ってやりたいけど……)
だが言っていいのか分からない。
恐らく佑は構わないと言うかもしれない。
だが言えば〝友達の彼氏の自慢する女〟になりそうで嫌だ。
確かに御劔佑という存在は凄いし、彼と付き合っている香澄も凄い。
けれど自分が佑の友達になれたのかは分からないし、他人の褌で相撲を取るような真似をしたくない。
だが腹が立つのは確かなので、少しだけ自慢する事にした。
「私は東京に行ったよ。うなぎとか、ザ・エリュシオン東京でアフターヌーンティーとかレストランで鉄板ステーキとか、美味しかった。ドイツ人のイケメンとも友達になれて、なかなか有意義だったと思う」
思いも寄らない反撃があり、笠島は表情を固まらせる。
「へ、へぇ……。良かったですね。まぁ、外国人なんて言ったら、皆美形に見えますよね。っていうかそれ、初夢じゃないです?」
現実ではないと言われ、さすがに腹が立った麻衣は、笠島をチラッと見てからスマホをだした。
「結構イケメンだと思うよ。見る?」
そしてアロクラ、マティアスと四人で写した写真を見せる。
「っすご……っ」
笠島は、圧倒的な美貌を誇る双子と、誠実そうな正統派ドイツイケメンのマティアスを見て顔色を変える。
「ちょっと見せてください」
彼女は麻衣からスマホを奪い、穴が開くほど写真を見てから、やにわに他の写真も見ようとスワイプしだした。
「ちょっ……」
普通なら、スマホの写真を見せられても勝手にスワイプしない
笠島の異常な行動に慌てた麻衣は、すぐにスマホを取り返そうとした。
……が、少し遅かった。
「えっ……!? 御劔佑!?」
佑と香澄、麻衣の写真が表示され、東京の景色やラグジュアリーなホテル、観光した場所、御劔邸の中、佑の私服姿や、佑が香澄と笑ってる写真が次々にめくられていく。
「いい加減返して! 他の写真まで見ていいなんて言ってないよ。常識知らずだから、こういうのやめたほうがいいよ」
麻衣は笠島の手からスマホを取り上げ、自分の席に座る。
「なっ……なんで? 岩本さん、どうして御劔佑と一緒にいるんです?」
笠島の声の大きさに、休憩所にいる他の人までがこちらに注目し始めた。
(はぁーっ、めんどくさ!)
対抗してやろうと思って、軽はずみな行動を取ってしまったのが原因だ。
麻衣は深く後悔しながら、渋々と説明する。
「札幌出身の親友が、御劔さんの婚約者なの」
「えぇぇ……?」
女性社員は驚いたあとに羨ましそうな顔をし、おもねる表情になった。
(わっ、この表情の変化。あからさまだなぁ)
麻衣の嫌そうな表情にも構わず、笠島は猫撫で声で話し掛けてきた。
「今度その親友さん、紹介してくれません? っていうか、岩本さん今度一緒に飲みにいきましょうよ~! 私、お洒落なバル知ってるんです。っていうか岩本さんだったらシメのラーメンとか好きです? もしかして太郎系ラーメンとかガッツリマシマシで食べます? ご馳走しますよ? 夜パフェもしましょうか!」
一人で盛り上がる笠島を脇に、麻衣は溜め息をついて唐揚げを口に入れる。
13
お気に入りに追加
2,544
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる