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第十九部・マティアスと麻衣 編
仕事始めの休日
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信司はビールを飲んでからマティアスに忠告した。
「女の人って若い時にきちんとイベント事を祝われないと、あとから恨むってよく聞くんだ。最低限、誕生日と結婚記念日は押さえておくとか。俺が知ってるケースだと、『やっぱり婚約指輪が欲しかった』って言う女性とか、金がなくて結婚式を挙げられなくて、ずっと心残りになっているとか……」
マティアスは信司の言葉を柔軟に受け入れ、頷いた。
「俺はすべて全力で取り組みたい。マイ、不満があったらいつでも言ってくれ」
「もー」
麻衣は思わず怒ったフリをしつつ、内心「ありがたいな」とニヤついていた。
そうやってダラダラ飲み食いして、夕方になった。
夕食時に信司がまたキッチンに立ち、揚げ物や豆乳鍋を作ってくれた。
そして三人はどんどんビールの缶を空けていく。
「あぁー……。明日から会社、だるぅ……」
すっかりいい気分になった麻衣は、マティアスに寄りかかって愚痴を吐いている。
信司は洗い物をしてから、二十時すぎに帰っていった。
「頑張れ、マイ。何なら会社まで送っていくぞ」
「ん~。それはいい」
マティアスがつけている香水のラストノートを吸い込み、麻衣はぐったりと彼に寄りかかる。
ここまで酔っ払ったのも、久しぶりだ。
「……信司は味方になってくれるって分かったけど、もし両親が嫌な思いをさせたらごめんね。何を言ったとしても、私を心配しての事だと思う。偏見はあるかもしれないけど、基本的にとてもいい人なの」
「分かっている。突然ドイツ人が現れて、大切な娘と結婚して東京に連れて行くと言うなら、どんな親だって警戒するだろう。まじめに気持ちを伝えて了承を得たい」
「ありがとう」
「いいや。マイが家族に愛されているのが嬉しい。その分、責任はしっかり取りたい」
「……ん」
自分を選んでくれたのがマティアスで、本当に良かったとしみじみ思った。
沢山ビールを飲んだのにまったく顔色を変えていないマティアスを見て、麻衣は笑いかける。
「これからどうぞ宜しく」
そしてぎこちなく、自分からマティアスにキスをした。
**
東京、月曜日。
年始イベント担当組は、仕事初めになっても二日分休みが延びるシステムだ。
香澄は最初の二日を休む事になっていた。
「いってらっしゃい」
日曜日もたっぷり抱かれた香澄は、怠くて堪らない体を引きずって玄関で見送りする。
「いってきます」
佑は優しい目で香澄を見つめ、キスをした。
「いい子で待っていてくれよ。出掛けてもいいけど、離れの護衛に声を掛けること」
「はい」
同じ過ちは二度と繰り返さないと誓っている香澄は、しっかり頷く。
「じゃあ、いってきます」
佑は最後にポンポンと香澄の頭を撫で、玄関を出て行った。
玄関のドアが開いた時、一瞬外の空気が入って頬をかする。
(何しよっかなぁ)
今日から斎藤が来るとして、彼女の手伝いをして過ごすべきか。
初売りに行きたい気持ちもあるが、どうしても欲しい物がある訳ではない。
(佑さんが沢山服を買ってくれるから我慢しないと。無駄に買い物しちゃ駄目だ)
だが人間の欲求には購買欲もありそうだ。
ついブラブラ歩いて買い物したくなったり、ネットショッピングしたくなる。
「大人しく漫画でも見てようかな」
今まで佑の世話にならない、唯一の場所だと思っていた電子書籍の棚だが、誕生日にギフト券コードを五十万円分受け取ってしまった。
その他にもバリアブルカードをぎっしりもらったので、ついつい読みたかった漫画を大人買いしてしまった。
「そう言えば、綾野雪路先生って新刊出したんだっけ?」
大学生の時に気まぐれに買った小説がきっかけで、大ファンになったミステリー小説家がいる。
京都在住の大御所だが、『館』を扱ったシリーズや、近年ではアニメ化した大ヒット小説もあり、一ファンとして嬉しく思っている。
本棚は趣味が丸見えになってしまうので、漫画は電子書籍で買っていた。
だがその作家の本はどうしても紙で読みたく、東京に越してきてから、わざわざこちらで揃えてしまった。
「女の人って若い時にきちんとイベント事を祝われないと、あとから恨むってよく聞くんだ。最低限、誕生日と結婚記念日は押さえておくとか。俺が知ってるケースだと、『やっぱり婚約指輪が欲しかった』って言う女性とか、金がなくて結婚式を挙げられなくて、ずっと心残りになっているとか……」
マティアスは信司の言葉を柔軟に受け入れ、頷いた。
「俺はすべて全力で取り組みたい。マイ、不満があったらいつでも言ってくれ」
「もー」
麻衣は思わず怒ったフリをしつつ、内心「ありがたいな」とニヤついていた。
そうやってダラダラ飲み食いして、夕方になった。
夕食時に信司がまたキッチンに立ち、揚げ物や豆乳鍋を作ってくれた。
そして三人はどんどんビールの缶を空けていく。
「あぁー……。明日から会社、だるぅ……」
すっかりいい気分になった麻衣は、マティアスに寄りかかって愚痴を吐いている。
信司は洗い物をしてから、二十時すぎに帰っていった。
「頑張れ、マイ。何なら会社まで送っていくぞ」
「ん~。それはいい」
マティアスがつけている香水のラストノートを吸い込み、麻衣はぐったりと彼に寄りかかる。
ここまで酔っ払ったのも、久しぶりだ。
「……信司は味方になってくれるって分かったけど、もし両親が嫌な思いをさせたらごめんね。何を言ったとしても、私を心配しての事だと思う。偏見はあるかもしれないけど、基本的にとてもいい人なの」
「分かっている。突然ドイツ人が現れて、大切な娘と結婚して東京に連れて行くと言うなら、どんな親だって警戒するだろう。まじめに気持ちを伝えて了承を得たい」
「ありがとう」
「いいや。マイが家族に愛されているのが嬉しい。その分、責任はしっかり取りたい」
「……ん」
自分を選んでくれたのがマティアスで、本当に良かったとしみじみ思った。
沢山ビールを飲んだのにまったく顔色を変えていないマティアスを見て、麻衣は笑いかける。
「これからどうぞ宜しく」
そしてぎこちなく、自分からマティアスにキスをした。
**
東京、月曜日。
年始イベント担当組は、仕事初めになっても二日分休みが延びるシステムだ。
香澄は最初の二日を休む事になっていた。
「いってらっしゃい」
日曜日もたっぷり抱かれた香澄は、怠くて堪らない体を引きずって玄関で見送りする。
「いってきます」
佑は優しい目で香澄を見つめ、キスをした。
「いい子で待っていてくれよ。出掛けてもいいけど、離れの護衛に声を掛けること」
「はい」
同じ過ちは二度と繰り返さないと誓っている香澄は、しっかり頷く。
「じゃあ、いってきます」
佑は最後にポンポンと香澄の頭を撫で、玄関を出て行った。
玄関のドアが開いた時、一瞬外の空気が入って頬をかする。
(何しよっかなぁ)
今日から斎藤が来るとして、彼女の手伝いをして過ごすべきか。
初売りに行きたい気持ちもあるが、どうしても欲しい物がある訳ではない。
(佑さんが沢山服を買ってくれるから我慢しないと。無駄に買い物しちゃ駄目だ)
だが人間の欲求には購買欲もありそうだ。
ついブラブラ歩いて買い物したくなったり、ネットショッピングしたくなる。
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今まで佑の世話にならない、唯一の場所だと思っていた電子書籍の棚だが、誕生日にギフト券コードを五十万円分受け取ってしまった。
その他にもバリアブルカードをぎっしりもらったので、ついつい読みたかった漫画を大人買いしてしまった。
「そう言えば、綾野雪路先生って新刊出したんだっけ?」
大学生の時に気まぐれに買った小説がきっかけで、大ファンになったミステリー小説家がいる。
京都在住の大御所だが、『館』を扱ったシリーズや、近年ではアニメ化した大ヒット小説もあり、一ファンとして嬉しく思っている。
本棚は趣味が丸見えになってしまうので、漫画は電子書籍で買っていた。
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