上 下
1,256 / 1,544
第十九部・マティアスと麻衣 編

麻衣の家

しおりを挟む
「こっちですよ」

「ああ」

 快速エアポートに乗って札幌駅まで着いたあと、麻衣は下りエスカレーターに向かう。

「割と大きな駅だな」

「ホームは十個ありますよ。今は新幹線のためにホーム増設中です。直通している商業施設も沢山あって、遊ぶには駅だけで済みますね。映画館もホテルもあるし」

 地元の事を話す麻衣は、少し誇らしげな気持ちになっている。

 好きになった人に自分の街を紹介できるのが、こんなに嬉しいとは思わなかった。

「ちょっと歩きますよ」

 麻衣はそう言って西改札口から出ると、地下に続くエスカレーターに乗る。

 地下一階に着くとまっすぐ進み、地下にある商業施設アッピアを通過していく。

 まっすぐ歩いて行くと、下り階段の向こうに地下鉄の改札口が見えた。

「ここか?」

「ううん。あれは南北線の改札。切符はここで買うけど、東豊線の改札口はもっと向こうです」

 そう言って麻衣はまたマティアスの切符を買い、「あっち」と歩く。

「この地下歩行空間をまっすぐ進むと、大通り、すすきのまで行けます。冬は雪道を歩かなくて済むから便利ですよ。夏も暑くなくていいですけど」

「そうか。便利だな」

 さらに進んだ所に東豊線の改札口があり、そこを通って地下鉄のホームに下りた。

 ホームに並んでいると、若い女性がチラチラとマティアスを気にしたのが分かった。

(彼に似合わないって思われてるんだろうな。格好いいもんね)

 何度目になるか分からない感情に囚われた時、マティアスが口を開く。

「札幌にはあまり欧米人がいないな」

「そうですね。観光客は割といますが、東京よりずっと少ないと思います」

 答えながら、麻衣はマティアスの立場になって考えてみた。

 ドイツから日本に来て、さらに札幌となると、周りにいる白人は当然少なくなる。

 仮に自分がドイツに行ったとして、日本人が少ない環境に住むなら、多少怖くなるかもしれない。

 言葉を話せたとしても、同郷の知り合いがいるいないでは心理的な負担が異なる。

 きっと白人だから分かり合える事があると思うし、似た価値観で愚痴を言い、ストレス発散できるのでは……と思う。

 いくら彼が日本語を流暢に話せて、日本人が白人を迫害する事はほぼないとしても、欧米圏と同じ感覚ではいられないだろう。

(東京行きを決めて良かった。札幌より住みやすいと思うし)

 自分の故郷をそう思ってしまうのは寂しいが、やはり東京にいれば佑がいるし、双子も来日しやすいだろう。

 加えてドイツ人が集まるバーなども、探せばあるかもしれない。

 考えていると地下鉄が着き、マティアスと一緒に乗る。

「二駅だからすぐですよ」

「分かった」

 御劔邸では高級ホテルのような部屋に泊めてもらったとはいえ、札幌に帰ってくるとドッと疲れが出た気がする。

 やがて地下鉄は豊水すすきの駅に着き、麻衣は安堵感を覚えつつ歩き始めた。

「五番出口ね」

「分かった」

 地上に上がると目の前には寺がある。

 さらに東に歩くと五分ほどで麻衣の住む賃貸マンションについた。

「お疲れ様。荷物、ありがとうございます」

「いや、構わない」

 雪道なのでスーツケースを引きずるのは難しく、マティアスはスーツケースを持ってくれていた。

 階段を上がり、鍵を開けるとドアを開いた。

 異性を部屋に上げるのは恥ずかしいが、もう決めてしまったので仕方がない。

「どうぞ」

「お邪魔します」

 マティアスはワクワクした表情で玄関にスーツケースを置いた。

 靴を脱いで部屋に上がると、足の裏がヒヤッとする。

「わぁ~……。めっちゃ冷えてる……! ストーブつけますけど、部屋が暖まるまで時間がかかりますから、コートを着たままのほうがいいですよ」

 麻衣は石油ストーブのスイッチを入れて最大にする。

「荷物はどこに置けばいい?」

「あ、適当で。いまお風呂と布団の準備をしますね」

 マティアスへの言葉遣いはいまだ定まらず、どうしたらいいか分からないままだ。

(匂ったらやだから、私もお風呂入ろう)

 冬場でも、歩けばコートの中が蒸れて汗を掻く。

 疲れていてすぐ寝たいが、マティアスがいるなら汗を流したい。

 バスルームに行ってお湯を溜め始めると、水を飲む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...