1,242 / 1,544
第十九部・マティアスと麻衣 編
生きていてくれて、ありがとう
しおりを挟む
マティアスの胸板の奥で、心臓がドクッドクッと力強く鳴っているのが聞こえる。
――ああ、この人、生きてるんだ。
当たり前の事なのにとても嬉しく、麻衣は幸せそうに微笑んだ。
「……沢山の絶望を乗り越えて、……今こうして生きていてくれて、ありがとう」
自然とそんな言葉が出た。
マティアスが静かに息を呑んだのが分かったが、構わず続ける。
「変な事を言ってごめんね。でも凄くそう思うの」
麻衣は目を閉じて、マティアスの息づかいや体温、鼓動を感じた。
そうしていると、新宿のラブホテルにいるのに、二人だけが世界から切り離された場所にいるように感じられた。
マティアスはしばらく麻衣を抱き締めていたが、やがてポツリと呟いた。
「今まで『メイヤー家から解放された人生は、素晴らしいに違いない』と信じていた。自由になった未来にだけ希望を持ってきた。……だから、きっと神様は『よく耐えた』と、褒美として俺にマイをくれたのかもしれない」
「……だとしたら、嬉しいな」
麻衣は穏やかに笑い、そっと彼の匂いを嗅ぐ。
「愛してる。……これから、宜しく頼む」
マティアスは麻衣の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
そして愛しげに囁いて、想いのこもったキスをする。
優しい唇が離れたあと、ジワジワと恥ずかしくなった麻衣は、またマティアスの胸元に顔を伏せた。
「も~っ! …………好きだなぁっ!」
麻衣は照れ隠しで少し大きな声で言ってから、嬉しさのあまりクスクス笑った。
それを聞いてマティアスも笑ってくれる。
彼が柔らかに笑い、感情を見せてくれるのが嬉しくて堪らない。
(香澄に報告する事が沢山増えちゃった。恥ずかしいけど、女子会しないと)
勿論、マティアスとの間にあった事を、一から十まで話すつもりはない。
相手が香澄でも、彼が自分から言わない限り黙っているつもりだ。
けれど香澄がいなければ、彼と出会えなかった。
(きっと香澄なら祝福してくれるはず。自慢の親友だもの)
御劔邸にいる親友を想った麻衣は、「報告するのが照れ臭いな……」と思いながら、残るデート時間を大切にしようと思った。
**
同時刻、香澄は夕食を食べて満腹になり、リビングのソファに座った佑にもたれかかり、ウトウトしていた。
双子たちは夕食後にまた飲みに行き、今は佑と二人きりだ。
「眠いか? 無理して起きていなくても、横になっていいんだぞ?」
舟を漕いでカクッとなった時、佑が小さく笑って支えてくれる。
「ん……。んぅ」
香澄は少し零れた涎を拭い、目をしょぼしょぼさせて伸びをした。
「ちょっと疲れたみたい」
「確かに家に客がいると、気心知れた相手でも気を遣うよな」
「ん……。でも、麻衣と一緒に過ごせるのは嬉しい」
その麻衣は今、マティアスとデート中なのだが……。
「ねぇ。麻衣とマティアスさん、うまくいくと思う?」
親友の恋が始まるかもしれない事を思うと、嬉しくて堪らない。
ニヤつく香澄を見て、佑は苦笑した。
「女子は本当に恋バナが好きだな。……気が合うならうまくいくんじゃないか?」
「んー、つまんない答えだなぁ。麻衣があんなふうに男の人を意識してるの、初めて見たんだ。幸せになってほしいなぁ……」
昼間にマティアスから佑に電話があり、日本での就職先を東京のChief Everyに……という希望があったと聞いた。
佑からは「まだ確認があっただけ」と言われたが、「二人が東京に来るのでは……?」と思うとワクワクしてならない。
「麻衣が東京に来てくれたらどうしよう。嬉しい……!」
そう言って小さく脚をバタつかせると、佑は笑う。
「本当に麻衣さんが好きだな。少し妬いてしまう」
「麻衣だって佑さんに嫉妬してるよ?」
「ん? そうか? 香澄はモテモテだな」
クシャッと頭を撫でられ、香澄は笑み崩れる。
「大好きな人から好かれるなら、嬉しい」
佑は微笑んで香澄を抱き締めていたが、しばらくしてポツッと呟いた。
「……ごめん。ちょっと空気を悪くする事を言う。ずっと言わないでおこうと思っていたんだが、どうしても……」
「ん?」
顔を上げると、佑は溜め息をついてソファの背もたれに身を預け、天井を仰ぐ。
――ああ、この人、生きてるんだ。
当たり前の事なのにとても嬉しく、麻衣は幸せそうに微笑んだ。
「……沢山の絶望を乗り越えて、……今こうして生きていてくれて、ありがとう」
自然とそんな言葉が出た。
マティアスが静かに息を呑んだのが分かったが、構わず続ける。
「変な事を言ってごめんね。でも凄くそう思うの」
麻衣は目を閉じて、マティアスの息づかいや体温、鼓動を感じた。
そうしていると、新宿のラブホテルにいるのに、二人だけが世界から切り離された場所にいるように感じられた。
マティアスはしばらく麻衣を抱き締めていたが、やがてポツリと呟いた。
「今まで『メイヤー家から解放された人生は、素晴らしいに違いない』と信じていた。自由になった未来にだけ希望を持ってきた。……だから、きっと神様は『よく耐えた』と、褒美として俺にマイをくれたのかもしれない」
「……だとしたら、嬉しいな」
麻衣は穏やかに笑い、そっと彼の匂いを嗅ぐ。
「愛してる。……これから、宜しく頼む」
マティアスは麻衣の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
そして愛しげに囁いて、想いのこもったキスをする。
優しい唇が離れたあと、ジワジワと恥ずかしくなった麻衣は、またマティアスの胸元に顔を伏せた。
「も~っ! …………好きだなぁっ!」
麻衣は照れ隠しで少し大きな声で言ってから、嬉しさのあまりクスクス笑った。
それを聞いてマティアスも笑ってくれる。
彼が柔らかに笑い、感情を見せてくれるのが嬉しくて堪らない。
(香澄に報告する事が沢山増えちゃった。恥ずかしいけど、女子会しないと)
勿論、マティアスとの間にあった事を、一から十まで話すつもりはない。
相手が香澄でも、彼が自分から言わない限り黙っているつもりだ。
けれど香澄がいなければ、彼と出会えなかった。
(きっと香澄なら祝福してくれるはず。自慢の親友だもの)
御劔邸にいる親友を想った麻衣は、「報告するのが照れ臭いな……」と思いながら、残るデート時間を大切にしようと思った。
**
同時刻、香澄は夕食を食べて満腹になり、リビングのソファに座った佑にもたれかかり、ウトウトしていた。
双子たちは夕食後にまた飲みに行き、今は佑と二人きりだ。
「眠いか? 無理して起きていなくても、横になっていいんだぞ?」
舟を漕いでカクッとなった時、佑が小さく笑って支えてくれる。
「ん……。んぅ」
香澄は少し零れた涎を拭い、目をしょぼしょぼさせて伸びをした。
「ちょっと疲れたみたい」
「確かに家に客がいると、気心知れた相手でも気を遣うよな」
「ん……。でも、麻衣と一緒に過ごせるのは嬉しい」
その麻衣は今、マティアスとデート中なのだが……。
「ねぇ。麻衣とマティアスさん、うまくいくと思う?」
親友の恋が始まるかもしれない事を思うと、嬉しくて堪らない。
ニヤつく香澄を見て、佑は苦笑した。
「女子は本当に恋バナが好きだな。……気が合うならうまくいくんじゃないか?」
「んー、つまんない答えだなぁ。麻衣があんなふうに男の人を意識してるの、初めて見たんだ。幸せになってほしいなぁ……」
昼間にマティアスから佑に電話があり、日本での就職先を東京のChief Everyに……という希望があったと聞いた。
佑からは「まだ確認があっただけ」と言われたが、「二人が東京に来るのでは……?」と思うとワクワクしてならない。
「麻衣が東京に来てくれたらどうしよう。嬉しい……!」
そう言って小さく脚をバタつかせると、佑は笑う。
「本当に麻衣さんが好きだな。少し妬いてしまう」
「麻衣だって佑さんに嫉妬してるよ?」
「ん? そうか? 香澄はモテモテだな」
クシャッと頭を撫でられ、香澄は笑み崩れる。
「大好きな人から好かれるなら、嬉しい」
佑は微笑んで香澄を抱き締めていたが、しばらくしてポツッと呟いた。
「……ごめん。ちょっと空気を悪くする事を言う。ずっと言わないでおこうと思っていたんだが、どうしても……」
「ん?」
顔を上げると、佑は溜め息をついてソファの背もたれに身を預け、天井を仰ぐ。
12
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる