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第十九部・マティアスと麻衣 編

俺の愛は重たいぞ ☆

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 寡黙なマティアスを、荒野に立つ戦士のようだと感じていた。

 彼の纏う空気は柔らかいとは言いがたい。

 感情を表さない美貌や淡々とした口調から、最初は人付き合いが嫌いなのだと思っていた。

 双子が感情豊かだからこそ、マティアスの感情の起伏のなさは際立って見えた。

 しかし深い湖のような心の奥底を覗き込めば、様々な色の青の中に、彼の一筋縄ではいかない人生が詰まっている。

 常人なら耐えられないつらい体験、深いトラウマ、そして心を抑え込まざるを得ない生き方――。

 本当のマティアスは、それらの経験の奥底、闇にも思える深層に眠っていた。

 だが彼の心は闇に塗り潰された訳ではなかった。

 水底の泥の奥には、「幸せになりたい」という願望が砂金のように煌めいている。

 彼が秘めた願望を見せてくれたからこそ、麻衣はその希望を叶えたいと思った。

(幸せになる事を、諦めないでいてくれたから……!)

 ――彼の気持ちに応えたい。

 だから、麻衣はぐっと決意を宿し、彼を幸せにしたいと宣言した。

 だが彼は切なげに笑い、首を横に振る。

「……俺がマイを幸せにしたい」

「違うよ。一緒に幸せになるの。マティアスさんの幸せを無視して、自分だけ愛されて幸せになろうなんて思ってない」

 麻衣は彼を抱き締め、自分の胸に彼の顔を押しつける。

「もう決めた。マティアスさんと結婚して、これから一緒に歩いていく」

「……マイ……」

「セックスも、結婚も、一人じゃできない。二人で相談して、一緒に幸せになろう」

 マティアスを幸せにしたい。

 彼もまた、自分を幸せにしたいと思ってくれている。

 今までは好きな人に愛される気持ち、結婚したいと思うほどの感情を知らなかった。

 だが今、麻衣はそれらを染み入るように感じていた。

 彼女の言葉を聞き、マティアスの涙が新たに滴った。

「俺は格好悪い過去を告白した。……嫌われる覚悟もしていたんだ」

 胸元で、マティアスのくぐもった声がする。

「何が格好悪いの? 私はそう思わなかった。酷い話だと思ったし、これから第二の人生を幸せに歩んでほしいと本気で思った。幻滅なんてしていないよ。私はそんな女じゃない」

 言い切った麻衣は、マティアスの髪を撫でて彼の香りを吸い込む。

「大丈夫だよ。私はずっと側にいる。あなたを嗤わないし、あなたを拒絶しない」

 なんて当たり前の事を言っているんだろう、と思う。

 好きな人の側にいる。

 愛するとか笑わせるとか、気持ち良くさせるとか、麻衣からすれば、努力しなければならないものではない。

 側にいて彼を馬鹿にせず、拒絶しない。

 人間として当たり前の気遣いを、マティアスは強く欲していた。

 ――なんでこれだけの事を、こんなに求めるの。

 いかにマティアスが人として扱われていなかったかを思い知り、また涙が出てくる。

「愛していいんだよ。普通に、心の赴くまま私に言葉をぶつけて、好きだと思ったらキスもセックスもしていい」

 切なげに眉を寄せていたマティアスの目から、また新たな涙が零れた。

「……俺の愛は重たいぞ」

 呟かれた言葉を聞き、麻衣は笑み崩れた。

「どんとこいだよ。受けて立つ。……そのままでいいんだよ。愛する事も、愛される事も、ためらわなくていいんだよ」

 言ったあと、麻衣は「自分に向けての言葉でもあるな」と微笑んだ。

 マティアスは切なげに微笑んだあと、破顔する。

「マイは強い女性だ」

「男性を『幸せにしたい』なんて、初めて思ったよ」

 身に余る言葉が照れくさく、彼女はごまかし笑いをする。

「……俺は色々と欠陥のある人間だ。だがまともな人間になるために、少しずつ努力していきたい」

「うん」

 マティアスはぐい、と目元を拭ったあと、麻衣の髪を優しく撫でた。

「今は、ちゃんと愛する女性を気持ちよくできると証明したい」

 そう言ったあとマティアスは麻衣の乳房を左右から寄せ、両方の頂にキスをした。

 そして蜜壷が自身の形に馴染んでいるのを確認してから、慎重に腰を引いた。

「ん……」

 大きな屹立がズル……と動き、麻衣の肉襞をさざめかせる。

 ゆっくり動かれるだけで、未知の感覚が全身を支配していく。

「や……っ、なにこれ……っ、ぁ、あ……っ」

 マティアスが腰を前後させるたび、ゾクゾクッとした気持ちよさが、尾てい骨から背筋、首裏から脳天まで伝わり、麻衣は身悶えた。

「気持ちいいか? 痛くないか?」

「ん……っ、ん、まだ、分かんない……っ、けど……、ゆ、ゆっくり……」
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