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第十九部・マティアスと麻衣 編

恥ずかしさもシェアしよう

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「…………っ、――――っ」

 すぐ後ろにマティアスの体温を感じ、吐息すら感じる気がした。

 うなじがゾクゾクして、首をすくめてしまう。

 麻衣が緊張しているのを知ってか知らずか、スカートを下ろしたマティアスは後ろから抱き締めてきた。

「っっ…………!!」

 ガチガチに緊張した麻衣の背中に、マティアスの体温が伝わる。

 腕と腕は直接触れ合い、肌の滑らかさまで分かる。

「緊張してるのか? マイ」

 耳のすぐ近くでマティアスの声がし、吐息が耳朶にかかる。

「ぅひゃあっ!」

 緊張した上で耳元に吐息をかけられ、悲鳴を上げた。

 ビクンッと両肩を跳ね上げて体を縮こまらせ、心臓が口から飛び出たかと思ったほどだ。

 そんな彼女に、マティアスは哀願してくる。

「頼む。慣れてくれ。裸になって触れ合わないとメイクラブできない」

「っだ、だって……っ」

 心臓が激しく鳴り、死んでしまうかと思った。

 理由の分からない涙がこみ上げ、頭の中がグルグルして、どうしたらいいか分からない。

「好きだ。だから、マイの裸を見せてくれ」

 プツンとブラジャーのホックが外され、胸元の圧迫感がなくなる。

 麻衣は泣き出す寸前で、両手でキャミソールをかき合わせて震えていた。

「……怖いか? もし嫌なら、無理強いはしない」

「っご、ごめ……っ。ちが……違う、の。は、恥ずかしくて……死ぬ……」

 顔を見られないまま告げると、マティアスは一瞬黙ったあとフハッと笑った。

「俺も恥ずかしい」

「うそ!?」

 思わず彼を振り仰ぐと、マティアスはごく自然に微笑んでいた。

「好きな人の前で裸になるのは、誰だって恥ずかしい。平気だったり嬉しい奴は変態だ」

「は……、ははっ。そうだけど……」

 そのつもりはないのかもしれないが、笑わせてもらった事で緊張がやや取れる。

「俺は全部脱いでいる。とりあえず〝同じ〟になってみないか?」

 そう言われると、恥ずかしいのは同じなのに、自分だけ服を着ているのが申し訳なくなる。

 マティアスが肩に手をかけ、ゆっくりと自分のほうを向かせた。

「俺たちはこれから気持ちよさをシェアする。夫婦になるなら何でもシェアだ。その前に恥ずかしさもシェアしよう」

「あ……あの……。私、太ってるから……笑わないでね」

「どうして笑う必要があるのか分からない。性的に興奮するものを笑う変態ではない」

 こういう時、本心を隠さないマティアスの言葉は安心できる。

「じゃ、じゃあ……。脱がされるのは恥ずかしいから……、自分で脱ぐ」

「分かった」

「見てられるのも恥ずかしいから、先にお風呂に入って後ろ向いててくれる?」

「分かった」

 マティアスはバスルームに入り、すぐにシャワーの水音が聞こえてくる。

「…………心臓飛び出るかと思った」

 呟いて、麻衣は覚悟を決めながら服を脱ぎ、鏡に映った自分を見た。

 マティアスが「酔っ払って愛し合いたくないから、酒はやめておく」と言ったので、麻衣も酒を飲むのをやめた。

 なのに、鏡に映った自分は真っ赤な顔をしている。

 顔は可愛いとも何とも言えない、実に凡庸な顔だ。

 胸はEカップある……けど、体には相応に肉がついている。
 肩は曲線を描いてなだらかで、どこもかしこも丸みがある。

「でも……。求めてくれてる」

 不安な顔をした鏡の中の自分を励まし、麻衣は深呼吸をしてからバスルームに入った。

 マティアスはもう湯船に入り、浮かんだピンクのプルメリアを手で弄んでいた。

「ま、まだ後ろ向かないでね。体と髪、洗っちゃうから」

「ああ」

 風呂場なので声が反響して、それがまた恥ずかしい。

 麻衣はシャワーのコックを捻り、何も考えず髪を洗い、体も洗った。

 マティアスが振り向かないかチラチラ確認し、変な音が出ないように細心の注意を払って、念入りに秘部を洗った。

(あそこ、変じゃないかな。香澄、脱毛とか色とかどうしてるんだろう。聞いておけば良かった。……でも今さら間に合わない)

 今までこんな経験はもちろんなかったので、気がおかしくなってしまいそうだ。

 最後にシャワーで泡を洗い流し、覚悟を決めた。

「……お、お邪魔します……」
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