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第十九部・マティアスと麻衣 編

脱がせてもいいか?

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「そうなんだ……。け、健康的に問題はなかったの?」

「どうなんだろうな。……元上司の件が片付いてしばらくして、フラウ・セツコから日本語を教わって八割ぐらいマスターした頃か……。急に朝勃ちが戻って感動したな」

「そ、そう……。良かったね」

 朝勃ちと言われても馴染みがないし、大切さが分からない。

 だが、男性の健康度合いを測るバロメータとは聞いている。

「そのあとマイと出会って、あの家の部屋で過ごしている時、マイと色々する事を妄想して勃起していた。例の事があったあと、初めて勃起できた。……だからそういう意味でも、マイは特別なんだ」

「や……。う、……うん……。こ、光栄です……?」

 恥ずかしい話なのか、まじめな話なのか分からないが、お礼を言っておく。

「……いや。マイを性的に見ていると言ってすまない。気持ち悪かったな」

「うっ、ううん!? だ、だって、これから……するんでしょ? そういう風に見てなかったら……できないと思うし……」

「そうか、なら良かった」

 マティアスは安心したように言い、また興味なさそうにテレビを見る。

 あんあんという女優の声を聞きながら、とても微妙な気持ちになった。

(何の時間……?)

 マティアスはバラエティ番組でも見るように、特に集中せずにテレビの画面を見つめている。
 興奮する目的ではないようなので、彼の意図が分からない。

(……とはいえ、私で興奮する人なんているんだな……。なんか、びっくり。でも、……正直、嬉しいかも)

 そんな事を思っていると、マティアスが溜め息をついてチャンネルを変えた。

「……駄目だ。やっぱり普通のポルノでは反応しないみたいだ」

「えっ!? 試してたの?」

「何なんだろうな。自慰しようと思ったらできると思う。だがマイ以外の女性には反応しないようだ」

「ちょっ……」

(嬉しいけど、そこまで言わなくても……!)

 けれど次に聞こえた独白を聞いて、何も言えなくなった。

「……嬉しいな……」

 彼が今まで生理現象すら起こせない状況にいたと思い、麻衣は苦く微笑む。

(私なんかで良かったら、癒やしてあげられたらいいんだけど……)

 そう思った時、不意にマティアスが麻衣の手を握ってきた。

 ビクッとして手を引きかけたが、強めに握られる。
 指を絡められ、全神経が左手に集中した。

 結局、バラエティ番組の司会者が何を言っているのか分からないまま、二十時になってしまった。





 先に二人で歯磨きをしたまでは良かった。

 そこからマティアスは躊躇いもなく服を脱ぎ、全裸になる。

 先ほど見なかった下半身にも、もれなく傷跡があったのを見てしまった。

 だがマティアスは傷を見せる事を気にしていなかったので、もう終わったものとして触れないでおいた。

 けれど麻衣は生まれて初めて男性器を目にして、壁を向いたまま棒立ちになっていた。

(むりむりむりむりむりむりむりむりむり)

 何が無理なのか自分でも分からない。

 ただ、自分がラブホテルで裸になろうとしている事実が信じられなく、現実味がない。

「夢でも見てるのかな、どこかで目が覚めるのかな」と思うが、現実なのは分かっている。

「服を着たままじゃ風呂に入れないぞ。花の浮いた風呂だ。女性はこういうの好きなんじゃないのか?」

 ピクリとも動かない麻衣を見て、いぶかしがったマティアスが声を掛けてくる。

「す……好き……だけど……」

 ぶっちゃけ、そういう問題ではない。

 何をどう考えても、マティアスのような格好いい人の前で裸になるなんて無理だ。

(マティアスさんは外見を気にしないって言っても、私は気にするの!)

 全体的にくまなくむっちり肉がついているし、お腹だってつまめるどころじゃない。

 それなのに――。

「じゃあ、脱がせてもいいか?」

 そう言ってマティアスが麻衣のニットの裾に手を掛けた。

「えっ? えぇっ!?」

 彼はうろたえる麻衣のニットを脱がせ、丁寧に畳んで洗面台の上に置く。

 その下はキャミソールなので、二の腕は剥き出しだ。

「スカートも脱がせるぞ」

 そう言ったマティアスのは、ウエストのボタンを外してファスナーを下げる。
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