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第十九部・マティアスと麻衣 編
子供は好きか?
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「俺も持とう」
後ろから顔を覗かせたマティアスが、麻衣が持っていたトレーの一つを持ってくれる。
彼はもう服を着ていつもの表情に戻っていた。
「食べようか」
「そうだね」
彼がさっきの空気を気まずいとか、照れくさいと思っているかは分からない。
そういう感情はあまり持たない人だと思っている。
けれど食事がきたタイミングで、空気を変えようとしているのは何となく分かった。
二人はソファに並んで座り、テーブルの上に置いた料理を食べ始める。
「うまいか?」
「美味しい」
遠慮なく肉を食べつつ、「白米もほしいな」など思ってしまう。
「肉をガツガツ食べる女でごめんね」
「どうして謝る? 健康的でいいじゃないか。食わないよりずっといい。長年、食の細い母を見てきたから、いつか結婚するなら沢山食べて『うまい』と笑う女性がいいと思っていた」
「そ、そうなんだ……」
まさかこんなところに需要があると知らず、麻衣は照れ隠しに、ローストビーフを取り皿に取る。
「マイは子供は好きか?」
「ぐふっ」
話が飛躍し、麻衣は呑み込みかけたローストビーフに噎せる。
マティアスはトントンと麻衣の背中を叩き、ウーロン茶を手渡す。
「……ん、ありがと」
ウーロン茶で口の中の物を流し込んでから、麻衣は「んー」と考えた。
「よく分かんない。嫌いではないと思う。でも、保母さんや幼稚園の先生になりたいとは思わなかった。『とっても好き』ではないと思う。自分の子供なら、産んでみないと分からない。だって〝親〟ってなった事ないもん。マティアスさんが〝父親〟になった事がないように、経験がないから分からない。……っていうか、隠し子いないよね?」
最後、あまりに不安になってそう聞いてしまった。
「そんな相手はいないから安心してくれ。……そうだよな。俺はただ『幸せな家庭を築きたい』と強く思っている。マイの尻の下に敷かれる感じでいい。マイを幸せにして、マイを愛して、生まれた子供をマイごと愛したい」
彼の包み込むような愛情を感じ、麻衣は微笑む。
「まだ先の事だから分からないけど、そうなったら素敵だね」
食事は八割方終わり、そろそろ満腹になっている。
時刻はまだ十九時になったばかりで、「これからどうなるのかな」とぼんやり考えた。
「風呂の用意をして、二十時くらいになったら入ろうか。食べ終わってすぐはつらいだろうから」
突然そう言われ、ドキッとして現実に戻る。
「えっ? う、うん……」
「じゃあ、風呂の準備をしてくる」
そう言ってマティアスは立ち上がり、バスルームに向かう。
ほどなくして水音が聞こえ、すぐに彼が戻ってきた。
「オプションにローション風呂があったな」
「ごふぁっ」
ウーロン茶を飲んでいた麻衣が、盛大に噴きだす。
「やっ、やめようよ。普通でいい。初心者のハードル上げないで」
「そうか。じゃあ、いずれ」
「いずれって……。マティアスさん、アブノーマルなプレイに興味ある人?」
「いや、偏見はないつもりだ。やってみないと分からない」
「な、なるほど……?」
それも一理ある気がして、麻衣は頷いてから首を傾げる。
「テレビでも見て腹がこなれるのを待とう」
そう言ってマティアスはリモコンでテレビをつけ、チャンネルを変えていく。
――が、突然全裸で絡み合う男女が映り、麻衣は目をまん丸にして固まる。
(そ、そう言えばここ、ラブホテルだったぁ……っ!)
シリアスな流れですっかり忘れていたが、この部屋は男女の営みをするための部屋なのだ。
テレビからは女性の甘ったるい喘ぎ声が聞こえ、マティアスはやはり変わらない表情で画面を見ている。
思わずチラッと彼の股間を見てしまったが、特に興奮はしていないようだ。
「い、今まで……こういうの見てた?」
「人並みに興味を持っていて、十年ぐらい前は風俗に行っていた。そのあとはさっきも言った通り、そんな気持ちになれなかったし、勃起もできなかった。試しにありとあらゆるポルノを見てみたが、反応できなかった」
(ありとあらゆる……)
マティアスは様々な事に対してフラットで、偏見を持っていないように思える。
なのでこの男が一度興味を持てば、幅広い事を一気に吸収しそうでどこか怖い。
後ろから顔を覗かせたマティアスが、麻衣が持っていたトレーの一つを持ってくれる。
彼はもう服を着ていつもの表情に戻っていた。
「食べようか」
「そうだね」
彼がさっきの空気を気まずいとか、照れくさいと思っているかは分からない。
そういう感情はあまり持たない人だと思っている。
けれど食事がきたタイミングで、空気を変えようとしているのは何となく分かった。
二人はソファに並んで座り、テーブルの上に置いた料理を食べ始める。
「うまいか?」
「美味しい」
遠慮なく肉を食べつつ、「白米もほしいな」など思ってしまう。
「肉をガツガツ食べる女でごめんね」
「どうして謝る? 健康的でいいじゃないか。食わないよりずっといい。長年、食の細い母を見てきたから、いつか結婚するなら沢山食べて『うまい』と笑う女性がいいと思っていた」
「そ、そうなんだ……」
まさかこんなところに需要があると知らず、麻衣は照れ隠しに、ローストビーフを取り皿に取る。
「マイは子供は好きか?」
「ぐふっ」
話が飛躍し、麻衣は呑み込みかけたローストビーフに噎せる。
マティアスはトントンと麻衣の背中を叩き、ウーロン茶を手渡す。
「……ん、ありがと」
ウーロン茶で口の中の物を流し込んでから、麻衣は「んー」と考えた。
「よく分かんない。嫌いではないと思う。でも、保母さんや幼稚園の先生になりたいとは思わなかった。『とっても好き』ではないと思う。自分の子供なら、産んでみないと分からない。だって〝親〟ってなった事ないもん。マティアスさんが〝父親〟になった事がないように、経験がないから分からない。……っていうか、隠し子いないよね?」
最後、あまりに不安になってそう聞いてしまった。
「そんな相手はいないから安心してくれ。……そうだよな。俺はただ『幸せな家庭を築きたい』と強く思っている。マイの尻の下に敷かれる感じでいい。マイを幸せにして、マイを愛して、生まれた子供をマイごと愛したい」
彼の包み込むような愛情を感じ、麻衣は微笑む。
「まだ先の事だから分からないけど、そうなったら素敵だね」
食事は八割方終わり、そろそろ満腹になっている。
時刻はまだ十九時になったばかりで、「これからどうなるのかな」とぼんやり考えた。
「風呂の用意をして、二十時くらいになったら入ろうか。食べ終わってすぐはつらいだろうから」
突然そう言われ、ドキッとして現実に戻る。
「えっ? う、うん……」
「じゃあ、風呂の準備をしてくる」
そう言ってマティアスは立ち上がり、バスルームに向かう。
ほどなくして水音が聞こえ、すぐに彼が戻ってきた。
「オプションにローション風呂があったな」
「ごふぁっ」
ウーロン茶を飲んでいた麻衣が、盛大に噴きだす。
「やっ、やめようよ。普通でいい。初心者のハードル上げないで」
「そうか。じゃあ、いずれ」
「いずれって……。マティアスさん、アブノーマルなプレイに興味ある人?」
「いや、偏見はないつもりだ。やってみないと分からない」
「な、なるほど……?」
それも一理ある気がして、麻衣は頷いてから首を傾げる。
「テレビでも見て腹がこなれるのを待とう」
そう言ってマティアスはリモコンでテレビをつけ、チャンネルを変えていく。
――が、突然全裸で絡み合う男女が映り、麻衣は目をまん丸にして固まる。
(そ、そう言えばここ、ラブホテルだったぁ……っ!)
シリアスな流れですっかり忘れていたが、この部屋は男女の営みをするための部屋なのだ。
テレビからは女性の甘ったるい喘ぎ声が聞こえ、マティアスはやはり変わらない表情で画面を見ている。
思わずチラッと彼の股間を見てしまったが、特に興奮はしていないようだ。
「い、今まで……こういうの見てた?」
「人並みに興味を持っていて、十年ぐらい前は風俗に行っていた。そのあとはさっきも言った通り、そんな気持ちになれなかったし、勃起もできなかった。試しにありとあらゆるポルノを見てみたが、反応できなかった」
(ありとあらゆる……)
マティアスは様々な事に対してフラットで、偏見を持っていないように思える。
なのでこの男が一度興味を持てば、幅広い事を一気に吸収しそうでどこか怖い。
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