1,225 / 1,559
第十九部・マティアスと麻衣 編
子供は好きか?
しおりを挟む
「俺も持とう」
後ろから顔を覗かせたマティアスが、麻衣が持っていたトレーの一つを持ってくれる。
彼はもう服を着ていつもの表情に戻っていた。
「食べようか」
「そうだね」
彼がさっきの空気を気まずいとか、照れくさいと思っているかは分からない。
そういう感情はあまり持たない人だと思っている。
けれど食事がきたタイミングで、空気を変えようとしているのは何となく分かった。
二人はソファに並んで座り、テーブルの上に置いた料理を食べ始める。
「うまいか?」
「美味しい」
遠慮なく肉を食べつつ、「白米もほしいな」など思ってしまう。
「肉をガツガツ食べる女でごめんね」
「どうして謝る? 健康的でいいじゃないか。食わないよりずっといい。長年、食の細い母を見てきたから、いつか結婚するなら沢山食べて『うまい』と笑う女性がいいと思っていた」
「そ、そうなんだ……」
まさかこんなところに需要があると知らず、麻衣は照れ隠しに、ローストビーフを取り皿に取る。
「マイは子供は好きか?」
「ぐふっ」
話が飛躍し、麻衣は呑み込みかけたローストビーフに噎せる。
マティアスはトントンと麻衣の背中を叩き、ウーロン茶を手渡す。
「……ん、ありがと」
ウーロン茶で口の中の物を流し込んでから、麻衣は「んー」と考えた。
「よく分かんない。嫌いではないと思う。でも、保母さんや幼稚園の先生になりたいとは思わなかった。『とっても好き』ではないと思う。自分の子供なら、産んでみないと分からない。だって〝親〟ってなった事ないもん。マティアスさんが〝父親〟になった事がないように、経験がないから分からない。……っていうか、隠し子いないよね?」
最後、あまりに不安になってそう聞いてしまった。
「そんな相手はいないから安心してくれ。……そうだよな。俺はただ『幸せな家庭を築きたい』と強く思っている。マイの尻の下に敷かれる感じでいい。マイを幸せにして、マイを愛して、生まれた子供をマイごと愛したい」
彼の包み込むような愛情を感じ、麻衣は微笑む。
「まだ先の事だから分からないけど、そうなったら素敵だね」
食事は八割方終わり、そろそろ満腹になっている。
時刻はまだ十九時になったばかりで、「これからどうなるのかな」とぼんやり考えた。
「風呂の用意をして、二十時くらいになったら入ろうか。食べ終わってすぐはつらいだろうから」
突然そう言われ、ドキッとして現実に戻る。
「えっ? う、うん……」
「じゃあ、風呂の準備をしてくる」
そう言ってマティアスは立ち上がり、バスルームに向かう。
ほどなくして水音が聞こえ、すぐに彼が戻ってきた。
「オプションにローション風呂があったな」
「ごふぁっ」
ウーロン茶を飲んでいた麻衣が、盛大に噴きだす。
「やっ、やめようよ。普通でいい。初心者のハードル上げないで」
「そうか。じゃあ、いずれ」
「いずれって……。マティアスさん、アブノーマルなプレイに興味ある人?」
「いや、偏見はないつもりだ。やってみないと分からない」
「な、なるほど……?」
それも一理ある気がして、麻衣は頷いてから首を傾げる。
「テレビでも見て腹がこなれるのを待とう」
そう言ってマティアスはリモコンでテレビをつけ、チャンネルを変えていく。
――が、突然全裸で絡み合う男女が映り、麻衣は目をまん丸にして固まる。
(そ、そう言えばここ、ラブホテルだったぁ……っ!)
シリアスな流れですっかり忘れていたが、この部屋は男女の営みをするための部屋なのだ。
テレビからは女性の甘ったるい喘ぎ声が聞こえ、マティアスはやはり変わらない表情で画面を見ている。
思わずチラッと彼の股間を見てしまったが、特に興奮はしていないようだ。
「い、今まで……こういうの見てた?」
「人並みに興味を持っていて、十年ぐらい前は風俗に行っていた。そのあとはさっきも言った通り、そんな気持ちになれなかったし、勃起もできなかった。試しにありとあらゆるポルノを見てみたが、反応できなかった」
(ありとあらゆる……)
マティアスは様々な事に対してフラットで、偏見を持っていないように思える。
なのでこの男が一度興味を持てば、幅広い事を一気に吸収しそうでどこか怖い。
後ろから顔を覗かせたマティアスが、麻衣が持っていたトレーの一つを持ってくれる。
彼はもう服を着ていつもの表情に戻っていた。
「食べようか」
「そうだね」
彼がさっきの空気を気まずいとか、照れくさいと思っているかは分からない。
そういう感情はあまり持たない人だと思っている。
けれど食事がきたタイミングで、空気を変えようとしているのは何となく分かった。
二人はソファに並んで座り、テーブルの上に置いた料理を食べ始める。
「うまいか?」
「美味しい」
遠慮なく肉を食べつつ、「白米もほしいな」など思ってしまう。
「肉をガツガツ食べる女でごめんね」
「どうして謝る? 健康的でいいじゃないか。食わないよりずっといい。長年、食の細い母を見てきたから、いつか結婚するなら沢山食べて『うまい』と笑う女性がいいと思っていた」
「そ、そうなんだ……」
まさかこんなところに需要があると知らず、麻衣は照れ隠しに、ローストビーフを取り皿に取る。
「マイは子供は好きか?」
「ぐふっ」
話が飛躍し、麻衣は呑み込みかけたローストビーフに噎せる。
マティアスはトントンと麻衣の背中を叩き、ウーロン茶を手渡す。
「……ん、ありがと」
ウーロン茶で口の中の物を流し込んでから、麻衣は「んー」と考えた。
「よく分かんない。嫌いではないと思う。でも、保母さんや幼稚園の先生になりたいとは思わなかった。『とっても好き』ではないと思う。自分の子供なら、産んでみないと分からない。だって〝親〟ってなった事ないもん。マティアスさんが〝父親〟になった事がないように、経験がないから分からない。……っていうか、隠し子いないよね?」
最後、あまりに不安になってそう聞いてしまった。
「そんな相手はいないから安心してくれ。……そうだよな。俺はただ『幸せな家庭を築きたい』と強く思っている。マイの尻の下に敷かれる感じでいい。マイを幸せにして、マイを愛して、生まれた子供をマイごと愛したい」
彼の包み込むような愛情を感じ、麻衣は微笑む。
「まだ先の事だから分からないけど、そうなったら素敵だね」
食事は八割方終わり、そろそろ満腹になっている。
時刻はまだ十九時になったばかりで、「これからどうなるのかな」とぼんやり考えた。
「風呂の用意をして、二十時くらいになったら入ろうか。食べ終わってすぐはつらいだろうから」
突然そう言われ、ドキッとして現実に戻る。
「えっ? う、うん……」
「じゃあ、風呂の準備をしてくる」
そう言ってマティアスは立ち上がり、バスルームに向かう。
ほどなくして水音が聞こえ、すぐに彼が戻ってきた。
「オプションにローション風呂があったな」
「ごふぁっ」
ウーロン茶を飲んでいた麻衣が、盛大に噴きだす。
「やっ、やめようよ。普通でいい。初心者のハードル上げないで」
「そうか。じゃあ、いずれ」
「いずれって……。マティアスさん、アブノーマルなプレイに興味ある人?」
「いや、偏見はないつもりだ。やってみないと分からない」
「な、なるほど……?」
それも一理ある気がして、麻衣は頷いてから首を傾げる。
「テレビでも見て腹がこなれるのを待とう」
そう言ってマティアスはリモコンでテレビをつけ、チャンネルを変えていく。
――が、突然全裸で絡み合う男女が映り、麻衣は目をまん丸にして固まる。
(そ、そう言えばここ、ラブホテルだったぁ……っ!)
シリアスな流れですっかり忘れていたが、この部屋は男女の営みをするための部屋なのだ。
テレビからは女性の甘ったるい喘ぎ声が聞こえ、マティアスはやはり変わらない表情で画面を見ている。
思わずチラッと彼の股間を見てしまったが、特に興奮はしていないようだ。
「い、今まで……こういうの見てた?」
「人並みに興味を持っていて、十年ぐらい前は風俗に行っていた。そのあとはさっきも言った通り、そんな気持ちになれなかったし、勃起もできなかった。試しにありとあらゆるポルノを見てみたが、反応できなかった」
(ありとあらゆる……)
マティアスは様々な事に対してフラットで、偏見を持っていないように思える。
なのでこの男が一度興味を持てば、幅広い事を一気に吸収しそうでどこか怖い。
14
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる