上 下
1,225 / 1,536
第十九部・マティアスと麻衣 編

子供は好きか?

しおりを挟む
「俺も持とう」

 後ろから顔を覗かせたマティアスが、麻衣が持っていたトレーの一つを持ってくれる。

 彼はもう服を着ていつもの表情に戻っていた。

「食べようか」

「そうだね」

 彼がさっきの空気を気まずいとか、照れくさいと思っているかは分からない。
 そういう感情はあまり持たない人だと思っている。

 けれど食事がきたタイミングで、空気を変えようとしているのは何となく分かった。

 二人はソファに並んで座り、テーブルの上に置いた料理を食べ始める。

「うまいか?」

「美味しい」

 遠慮なく肉を食べつつ、「白米もほしいな」など思ってしまう。

「肉をガツガツ食べる女でごめんね」

「どうして謝る? 健康的でいいじゃないか。食わないよりずっといい。長年、食の細い母を見てきたから、いつか結婚するなら沢山食べて『うまい』と笑う女性がいいと思っていた」

「そ、そうなんだ……」

 まさかこんなところに需要があると知らず、麻衣は照れ隠しに、ローストビーフを取り皿に取る。

「マイは子供は好きか?」

「ぐふっ」

 話が飛躍し、麻衣は呑み込みかけたローストビーフに噎せる。

 マティアスはトントンと麻衣の背中を叩き、ウーロン茶を手渡す。

「……ん、ありがと」

 ウーロン茶で口の中の物を流し込んでから、麻衣は「んー」と考えた。

「よく分かんない。嫌いではないと思う。でも、保母さんや幼稚園の先生になりたいとは思わなかった。『とっても好き』ではないと思う。自分の子供なら、産んでみないと分からない。だって〝親〟ってなった事ないもん。マティアスさんが〝父親〟になった事がないように、経験がないから分からない。……っていうか、隠し子いないよね?」

 最後、あまりに不安になってそう聞いてしまった。

「そんな相手はいないから安心してくれ。……そうだよな。俺はただ『幸せな家庭を築きたい』と強く思っている。マイの尻の下に敷かれる感じでいい。マイを幸せにして、マイを愛して、生まれた子供をマイごと愛したい」

 彼の包み込むような愛情を感じ、麻衣は微笑む。

「まだ先の事だから分からないけど、そうなったら素敵だね」

 食事は八割方終わり、そろそろ満腹になっている。
 時刻はまだ十九時になったばかりで、「これからどうなるのかな」とぼんやり考えた。

「風呂の用意をして、二十時くらいになったら入ろうか。食べ終わってすぐはつらいだろうから」

 突然そう言われ、ドキッとして現実に戻る。

「えっ? う、うん……」

「じゃあ、風呂の準備をしてくる」

 そう言ってマティアスは立ち上がり、バスルームに向かう。
 ほどなくして水音が聞こえ、すぐに彼が戻ってきた。

「オプションにローション風呂があったな」

「ごふぁっ」

 ウーロン茶を飲んでいた麻衣が、盛大に噴きだす。

「やっ、やめようよ。普通でいい。初心者のハードル上げないで」

「そうか。じゃあ、いずれ」

「いずれって……。マティアスさん、アブノーマルなプレイに興味ある人?」

「いや、偏見はないつもりだ。やってみないと分からない」

「な、なるほど……?」

 それも一理ある気がして、麻衣は頷いてから首を傾げる。

「テレビでも見て腹がこなれるのを待とう」

 そう言ってマティアスはリモコンでテレビをつけ、チャンネルを変えていく。

 ――が、突然全裸で絡み合う男女が映り、麻衣は目をまん丸にして固まる。

(そ、そう言えばここ、ラブホテルだったぁ……っ!)

 シリアスな流れですっかり忘れていたが、この部屋は男女の営みをするための部屋なのだ。

 テレビからは女性の甘ったるい喘ぎ声が聞こえ、マティアスはやはり変わらない表情で画面を見ている。

 思わずチラッと彼の股間を見てしまったが、特に興奮はしていないようだ。

「い、今まで……こういうの見てた?」

「人並みに興味を持っていて、十年ぐらい前は風俗に行っていた。そのあとはさっきも言った通り、そんな気持ちになれなかったし、勃起もできなかった。試しにありとあらゆるポルノを見てみたが、反応できなかった」

(ありとあらゆる……)

 マティアスは様々な事に対してフラットで、偏見を持っていないように思える。

 なのでこの男が一度興味を持てば、幅広い事を一気に吸収しそうでどこか怖い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。 −−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!! イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

処理中です...