1,208 / 1,548
第十九部・マティアスと麻衣 編
東京に来てくれたらいいのに
しおりを挟む
「僕ら、うなぎ好きなんだ」
「おせちってサンガニチ? 食べるんでしょ? 飽きるかもしれないから、夜はテイクアウトで好きなもん食べるのアリじゃん」
「いいですけど……」
(運動せねば)
美味しい物が食べられるのは嬉しいが、その結果がついてくると考えなくてはいけない。
「わぁ、太りそう。けどタダでうなぎ食べられるならいいや」
麻衣は言葉を選ばずズバッと言い、双子たちに「だよねー!」と言われている。
「よし、麻衣。一緒に太ろう」
香澄はそう言って麻衣の肩を組み、頼もしく笑い返される。
「だってもう買っちゃったなら仕方ないしね。美味しく食べるしか選択肢がない」
うむ、と頷いた麻衣は、やはり頼もしい。
リビングでコートを脱ぐと、双子がキッチンで「何か飲むー?」と尋ねてきた。
「至れり尽くせりだね。ドイツ男子」
「そうなの。佑さんもだけど、進んで色々してくれるよ」
思わずソファに落ち着いてしまった女子二人は、感想を言い合う。
「カスミ、いつものカフェオレでいい?」
「はい! ありがとうございます」
「マイもカフェオレねー」
双子は手分けしてお湯を沸かし、冷凍庫からコーヒー豆を出し、手際よく準備していく。
「あいつらもこの家のキッチンに慣れたもんだな」
後ろに立っている佑がボソッと呟き、香澄は思わず笑った。
**
その日の夜はうなぎを食べ、またそれぞれ夜の時間を過ごす。
香澄は麻衣からイベントを褒められ、嬉しくて堪らない。
そして話題は翌日の事になる。
やはり麻衣はマティアスに誘われてデートに行くらしい。
「佑さんがデート服用意してくれたから、頑張って」
佑が例の服を麻衣に渡すと、彼女は恐縮しきっていた。
そのあと香澄と麻衣は二階のリビングに移動して寝転び、クッションを抱えてゴロゴロする。
「はぁ~……。もうこうなったらなるがままだけどさぁ。……もー。明日、話聞いてね。惚気っていうか、めちゃくちゃな報告になりそうだけど」
「うんうん。すべて受け止めるとも」
二人で床の上に転がり、女子同士の話をするのが楽しくて堪らない。
「あーあ……。香澄とずっとこうやって話してたいな。こうやって話すと、あと数日でお別れになるんだって思うと、寂しくて仕方がない」
「私も~」
香澄はのびーっと体を伸ばしてから、麻衣の手を握る。
ふくふくして柔らかく温かい手を握り、つい本音を漏らしてしまう。
「麻衣が東京に来てくれたらいいのに」
言ってしまってから、「あーあ……」と内心溜め息をつく。
こんな事を言ってしまえば、困らせるに決まっている。
麻衣が自分と似た性格なのを、香澄は誰より分かっている。
香澄だってもともと、札幌から出るつもりはなかった。
基本的に行動範囲は札幌近辺で、遊ぶと言っても札幌市街や近郊に行く程度。
長期休みの時は、麻衣と一緒に道東や函館などにも泊まりで行った。
他県に行くとなれば、飛行機を使う事になり〝旅行〟となる。
同じ日本なのに、他の都府県はとても遠い土地と思っていた。
少し移動したら、すぐ他県に行けるという感覚が分からない。
今の麻衣にとって東京は〝観光地〟で、そこに「引っ越してほしい」と願うのは、単なる我が儘だ。
幾ら寂しいとはいえ、麻衣には麻衣の人生があり、考え方がある。
「……ごめんね。自分勝手な事を言った」
ボソッと謝ってぎゅーっと麻衣の手を握るが、反応がない。
(ん?)
ピョコッと顔を上げて彼女を見ると、ぼんやりと天井を見上げていた。
「……ねー、香澄。東京って家賃高い?」
(え!?)
一気に期待した香澄は、ガバッと起き上がった。
「麻衣、東京来るの!?」
期待で目をキラキラさせたが、彼女は半分笑いながら手を振っただけだ。
「いや、『どうなのかな?』って興味を持った程度。『やっぱり……』ってなった時にガッカリさせるから、あんまり期待しないで」
「う……うん」
香澄はまた寝転び、スマホでeホーム御劔のアプリを開く。
「ここは港区なんだけど、相場は……ワンルームで十万近く。マティアスさんと二人で住む事を考えても、三十万ぐらいは考えたほうがいい……かも」
「たっか」
素直に感想を言った麻衣は、画面を覗き込んでくる。
「おせちってサンガニチ? 食べるんでしょ? 飽きるかもしれないから、夜はテイクアウトで好きなもん食べるのアリじゃん」
「いいですけど……」
(運動せねば)
美味しい物が食べられるのは嬉しいが、その結果がついてくると考えなくてはいけない。
「わぁ、太りそう。けどタダでうなぎ食べられるならいいや」
麻衣は言葉を選ばずズバッと言い、双子たちに「だよねー!」と言われている。
「よし、麻衣。一緒に太ろう」
香澄はそう言って麻衣の肩を組み、頼もしく笑い返される。
「だってもう買っちゃったなら仕方ないしね。美味しく食べるしか選択肢がない」
うむ、と頷いた麻衣は、やはり頼もしい。
リビングでコートを脱ぐと、双子がキッチンで「何か飲むー?」と尋ねてきた。
「至れり尽くせりだね。ドイツ男子」
「そうなの。佑さんもだけど、進んで色々してくれるよ」
思わずソファに落ち着いてしまった女子二人は、感想を言い合う。
「カスミ、いつものカフェオレでいい?」
「はい! ありがとうございます」
「マイもカフェオレねー」
双子は手分けしてお湯を沸かし、冷凍庫からコーヒー豆を出し、手際よく準備していく。
「あいつらもこの家のキッチンに慣れたもんだな」
後ろに立っている佑がボソッと呟き、香澄は思わず笑った。
**
その日の夜はうなぎを食べ、またそれぞれ夜の時間を過ごす。
香澄は麻衣からイベントを褒められ、嬉しくて堪らない。
そして話題は翌日の事になる。
やはり麻衣はマティアスに誘われてデートに行くらしい。
「佑さんがデート服用意してくれたから、頑張って」
佑が例の服を麻衣に渡すと、彼女は恐縮しきっていた。
そのあと香澄と麻衣は二階のリビングに移動して寝転び、クッションを抱えてゴロゴロする。
「はぁ~……。もうこうなったらなるがままだけどさぁ。……もー。明日、話聞いてね。惚気っていうか、めちゃくちゃな報告になりそうだけど」
「うんうん。すべて受け止めるとも」
二人で床の上に転がり、女子同士の話をするのが楽しくて堪らない。
「あーあ……。香澄とずっとこうやって話してたいな。こうやって話すと、あと数日でお別れになるんだって思うと、寂しくて仕方がない」
「私も~」
香澄はのびーっと体を伸ばしてから、麻衣の手を握る。
ふくふくして柔らかく温かい手を握り、つい本音を漏らしてしまう。
「麻衣が東京に来てくれたらいいのに」
言ってしまってから、「あーあ……」と内心溜め息をつく。
こんな事を言ってしまえば、困らせるに決まっている。
麻衣が自分と似た性格なのを、香澄は誰より分かっている。
香澄だってもともと、札幌から出るつもりはなかった。
基本的に行動範囲は札幌近辺で、遊ぶと言っても札幌市街や近郊に行く程度。
長期休みの時は、麻衣と一緒に道東や函館などにも泊まりで行った。
他県に行くとなれば、飛行機を使う事になり〝旅行〟となる。
同じ日本なのに、他の都府県はとても遠い土地と思っていた。
少し移動したら、すぐ他県に行けるという感覚が分からない。
今の麻衣にとって東京は〝観光地〟で、そこに「引っ越してほしい」と願うのは、単なる我が儘だ。
幾ら寂しいとはいえ、麻衣には麻衣の人生があり、考え方がある。
「……ごめんね。自分勝手な事を言った」
ボソッと謝ってぎゅーっと麻衣の手を握るが、反応がない。
(ん?)
ピョコッと顔を上げて彼女を見ると、ぼんやりと天井を見上げていた。
「……ねー、香澄。東京って家賃高い?」
(え!?)
一気に期待した香澄は、ガバッと起き上がった。
「麻衣、東京来るの!?」
期待で目をキラキラさせたが、彼女は半分笑いながら手を振っただけだ。
「いや、『どうなのかな?』って興味を持った程度。『やっぱり……』ってなった時にガッカリさせるから、あんまり期待しないで」
「う……うん」
香澄はまた寝転び、スマホでeホーム御劔のアプリを開く。
「ここは港区なんだけど、相場は……ワンルームで十万近く。マティアスさんと二人で住む事を考えても、三十万ぐらいは考えたほうがいい……かも」
「たっか」
素直に感想を言った麻衣は、画面を覗き込んでくる。
12
お気に入りに追加
2,544
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる