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第十九部・マティアスと麻衣 編
東京に来てくれたらいいのに
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「僕ら、うなぎ好きなんだ」
「おせちってサンガニチ? 食べるんでしょ? 飽きるかもしれないから、夜はテイクアウトで好きなもん食べるのアリじゃん」
「いいですけど……」
(運動せねば)
美味しい物が食べられるのは嬉しいが、その結果がついてくると考えなくてはいけない。
「わぁ、太りそう。けどタダでうなぎ食べられるならいいや」
麻衣は言葉を選ばずズバッと言い、双子たちに「だよねー!」と言われている。
「よし、麻衣。一緒に太ろう」
香澄はそう言って麻衣の肩を組み、頼もしく笑い返される。
「だってもう買っちゃったなら仕方ないしね。美味しく食べるしか選択肢がない」
うむ、と頷いた麻衣は、やはり頼もしい。
リビングでコートを脱ぐと、双子がキッチンで「何か飲むー?」と尋ねてきた。
「至れり尽くせりだね。ドイツ男子」
「そうなの。佑さんもだけど、進んで色々してくれるよ」
思わずソファに落ち着いてしまった女子二人は、感想を言い合う。
「カスミ、いつものカフェオレでいい?」
「はい! ありがとうございます」
「マイもカフェオレねー」
双子は手分けしてお湯を沸かし、冷凍庫からコーヒー豆を出し、手際よく準備していく。
「あいつらもこの家のキッチンに慣れたもんだな」
後ろに立っている佑がボソッと呟き、香澄は思わず笑った。
**
その日の夜はうなぎを食べ、またそれぞれ夜の時間を過ごす。
香澄は麻衣からイベントを褒められ、嬉しくて堪らない。
そして話題は翌日の事になる。
やはり麻衣はマティアスに誘われてデートに行くらしい。
「佑さんがデート服用意してくれたから、頑張って」
佑が例の服を麻衣に渡すと、彼女は恐縮しきっていた。
そのあと香澄と麻衣は二階のリビングに移動して寝転び、クッションを抱えてゴロゴロする。
「はぁ~……。もうこうなったらなるがままだけどさぁ。……もー。明日、話聞いてね。惚気っていうか、めちゃくちゃな報告になりそうだけど」
「うんうん。すべて受け止めるとも」
二人で床の上に転がり、女子同士の話をするのが楽しくて堪らない。
「あーあ……。香澄とずっとこうやって話してたいな。こうやって話すと、あと数日でお別れになるんだって思うと、寂しくて仕方がない」
「私も~」
香澄はのびーっと体を伸ばしてから、麻衣の手を握る。
ふくふくして柔らかく温かい手を握り、つい本音を漏らしてしまう。
「麻衣が東京に来てくれたらいいのに」
言ってしまってから、「あーあ……」と内心溜め息をつく。
こんな事を言ってしまえば、困らせるに決まっている。
麻衣が自分と似た性格なのを、香澄は誰より分かっている。
香澄だってもともと、札幌から出るつもりはなかった。
基本的に行動範囲は札幌近辺で、遊ぶと言っても札幌市街や近郊に行く程度。
長期休みの時は、麻衣と一緒に道東や函館などにも泊まりで行った。
他県に行くとなれば、飛行機を使う事になり〝旅行〟となる。
同じ日本なのに、他の都府県はとても遠い土地と思っていた。
少し移動したら、すぐ他県に行けるという感覚が分からない。
今の麻衣にとって東京は〝観光地〟で、そこに「引っ越してほしい」と願うのは、単なる我が儘だ。
幾ら寂しいとはいえ、麻衣には麻衣の人生があり、考え方がある。
「……ごめんね。自分勝手な事を言った」
ボソッと謝ってぎゅーっと麻衣の手を握るが、反応がない。
(ん?)
ピョコッと顔を上げて彼女を見ると、ぼんやりと天井を見上げていた。
「……ねー、香澄。東京って家賃高い?」
(え!?)
一気に期待した香澄は、ガバッと起き上がった。
「麻衣、東京来るの!?」
期待で目をキラキラさせたが、彼女は半分笑いながら手を振っただけだ。
「いや、『どうなのかな?』って興味を持った程度。『やっぱり……』ってなった時にガッカリさせるから、あんまり期待しないで」
「う……うん」
香澄はまた寝転び、スマホでeホーム御劔のアプリを開く。
「ここは港区なんだけど、相場は……ワンルームで十万近く。マティアスさんと二人で住む事を考えても、三十万ぐらいは考えたほうがいい……かも」
「たっか」
素直に感想を言った麻衣は、画面を覗き込んでくる。
「おせちってサンガニチ? 食べるんでしょ? 飽きるかもしれないから、夜はテイクアウトで好きなもん食べるのアリじゃん」
「いいですけど……」
(運動せねば)
美味しい物が食べられるのは嬉しいが、その結果がついてくると考えなくてはいけない。
「わぁ、太りそう。けどタダでうなぎ食べられるならいいや」
麻衣は言葉を選ばずズバッと言い、双子たちに「だよねー!」と言われている。
「よし、麻衣。一緒に太ろう」
香澄はそう言って麻衣の肩を組み、頼もしく笑い返される。
「だってもう買っちゃったなら仕方ないしね。美味しく食べるしか選択肢がない」
うむ、と頷いた麻衣は、やはり頼もしい。
リビングでコートを脱ぐと、双子がキッチンで「何か飲むー?」と尋ねてきた。
「至れり尽くせりだね。ドイツ男子」
「そうなの。佑さんもだけど、進んで色々してくれるよ」
思わずソファに落ち着いてしまった女子二人は、感想を言い合う。
「カスミ、いつものカフェオレでいい?」
「はい! ありがとうございます」
「マイもカフェオレねー」
双子は手分けしてお湯を沸かし、冷凍庫からコーヒー豆を出し、手際よく準備していく。
「あいつらもこの家のキッチンに慣れたもんだな」
後ろに立っている佑がボソッと呟き、香澄は思わず笑った。
**
その日の夜はうなぎを食べ、またそれぞれ夜の時間を過ごす。
香澄は麻衣からイベントを褒められ、嬉しくて堪らない。
そして話題は翌日の事になる。
やはり麻衣はマティアスに誘われてデートに行くらしい。
「佑さんがデート服用意してくれたから、頑張って」
佑が例の服を麻衣に渡すと、彼女は恐縮しきっていた。
そのあと香澄と麻衣は二階のリビングに移動して寝転び、クッションを抱えてゴロゴロする。
「はぁ~……。もうこうなったらなるがままだけどさぁ。……もー。明日、話聞いてね。惚気っていうか、めちゃくちゃな報告になりそうだけど」
「うんうん。すべて受け止めるとも」
二人で床の上に転がり、女子同士の話をするのが楽しくて堪らない。
「あーあ……。香澄とずっとこうやって話してたいな。こうやって話すと、あと数日でお別れになるんだって思うと、寂しくて仕方がない」
「私も~」
香澄はのびーっと体を伸ばしてから、麻衣の手を握る。
ふくふくして柔らかく温かい手を握り、つい本音を漏らしてしまう。
「麻衣が東京に来てくれたらいいのに」
言ってしまってから、「あーあ……」と内心溜め息をつく。
こんな事を言ってしまえば、困らせるに決まっている。
麻衣が自分と似た性格なのを、香澄は誰より分かっている。
香澄だってもともと、札幌から出るつもりはなかった。
基本的に行動範囲は札幌近辺で、遊ぶと言っても札幌市街や近郊に行く程度。
長期休みの時は、麻衣と一緒に道東や函館などにも泊まりで行った。
他県に行くとなれば、飛行機を使う事になり〝旅行〟となる。
同じ日本なのに、他の都府県はとても遠い土地と思っていた。
少し移動したら、すぐ他県に行けるという感覚が分からない。
今の麻衣にとって東京は〝観光地〟で、そこに「引っ越してほしい」と願うのは、単なる我が儘だ。
幾ら寂しいとはいえ、麻衣には麻衣の人生があり、考え方がある。
「……ごめんね。自分勝手な事を言った」
ボソッと謝ってぎゅーっと麻衣の手を握るが、反応がない。
(ん?)
ピョコッと顔を上げて彼女を見ると、ぼんやりと天井を見上げていた。
「……ねー、香澄。東京って家賃高い?」
(え!?)
一気に期待した香澄は、ガバッと起き上がった。
「麻衣、東京来るの!?」
期待で目をキラキラさせたが、彼女は半分笑いながら手を振っただけだ。
「いや、『どうなのかな?』って興味を持った程度。『やっぱり……』ってなった時にガッカリさせるから、あんまり期待しないで」
「う……うん」
香澄はまた寝転び、スマホでeホーム御劔のアプリを開く。
「ここは港区なんだけど、相場は……ワンルームで十万近く。マティアスさんと二人で住む事を考えても、三十万ぐらいは考えたほうがいい……かも」
「たっか」
素直に感想を言った麻衣は、画面を覗き込んでくる。
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