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第十九部・マティアスと麻衣 編

イベント前

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「お兄さんたちみたい人でも、初売り来るんですね」

 女性たちは、双子がこのビルにも入っている『アロクラ』のデザイナーと知らず、無邪気に話しかけている。

「んー、イベント見に来たんだ」

「そうなんですね! 私たちも初売りでパパッと限定品買ったあと、場所取りしようと思ってるんです。一緒に見ませんか?」

 麻衣はお洒落な女性二人をチラッと見て、内心溜息をつく。

(お洒落で細い女の子って、やっぱりイケメンを前にしても積極的になれるんだな。自分は可愛いっていう自信があるからだろうな)

「自分はそうなれない」と思った時、クラウスが爆弾発言をする。

「あー、ごめんね。僕らこの子と一緒だから」

 クラウスの言葉を聞いて、女性二人は麻衣をまじまじと見る。

「……へ、へぇえ……。そうなんですかぁ……」

「さすが海外の人って色んな人と友達になれるんですね」

 麻衣は二人と目を合わせず、そっぽを向いたまま、また内心溜め息をつく。

(このキラキラ男たちと釣り合わないって言いたいんでしょ。私が一番分かってるって)

 だから嫌だったんだ、と泣きたくなる。

「でしょー? この子、すっごいいい子なんだよ」

 だがアロイスは女性たちの気持ちも、麻衣の気持ちも無視し、いきなりガバッと抱きついてきた。

「わっ」

「親友思いのいい子なんだよ」

 反対側からクラウスも抱きついてきて、麻衣はサンドイッチ状態になってしまった。

(ちょっとおおおおおおおおおお!!)

「俺のだ」

 それに対抗してマティアスも脇からズボッと両手を入れ、麻衣を背後から抱き締めてくる。正直、もう収集がつかない。

(こいつら……!!)

 見世物のようになってうんざりとした麻衣は、抵抗する気力もなくされるがままだ。

 女性たちは双子に断られても、なおも彼らに話し掛けようとしていた。
 だが双子たちは「ちょっと用事を思い出したからごめんね」と電話を始めた。

「あれ、何語ですか?」

「アロイスはイタリア語。。クラウスはスペイン語。向こうはいま新年を迎えているようだ」

 二人ともそれぞれ違う言語で相手と話をし、ケラケラと笑っている。

 女性たちは言葉が分からないので、つまらなさそうな顔をして前を向いた。

「因みにあいつらは、人から話し掛けられて相手にしたくない場合、相手の分からない言語で電話をして誤魔化す」

 マティアスがボソッと言い、麻衣は何とも言えない気持ちになる。

(女の子大好きっていう雰囲気を醸しだしてるけど、そういう対策もしてるんだ。入れ食い状態で来るもの拒まだと思ってた。……ちょっと見直したかな)

 麻衣はこっそりと、心の中で双子の認識を改めた。





 やがて十時になり、走ってビル内に突入しないように、人数制限しながらの入場開始となった。

「マイは買い物ある? 何か欲しい物があるなら買ってあげるよ」

 クラウスに言われて、麻衣は苦笑いする。

「いいですって。こんなオシャレビルに、私が着るような物はありませんから」

 Chief Everyは麻衣にも合ったサイズがあるが、限定商品はともかく店舗なら札幌にもある。

「そんなこと言わなくても、可愛いと思った服があれば教えてくれればいーんだよ。そしたら俺たちのほうで、マイのためにオーダーメイドしてあげるよ」

「いっ、いいですって! アロイスさん達が作るような服、怖くて着られません」

 そう言った時に順番になり、麻衣たちは巨大な正面ホールに入った。

 イベント目的の客がかなりいるようで、先着順にホールに並べてあるパイプ椅子に座っている。

「どうしましょうか? 座ります?」

「マイはどうしたい?」

 クラウスに意見を尋ねられ、麻衣は少し戸惑ってから考える。

 思えば香澄といる時以外、いつも人に合わせてばかりで、こうやって意見を尋ねられた事はなかった。

「……香澄が働く会社のイベントなので、きちんと観客として楽しみたいです」

 香澄が「照明や音響も一流の人に頼んでいるんだよ」と言っていたのを聞いて、それはぜひ見てみたいと思った。

「OK! じゃあ、見やすい所に座ろうか」

 クラウスはニコッと笑い、スイスイと歩いて「ここに座ろう!」と席を決めてしまう。

 続々と人が入って来ているので、麻衣は慌ててクラウスを追った。
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