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第十八部・麻衣と年越し 編

第十八部・終章 初夢に向けて

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「自由な社風とはいえ日本企業だ。ドイツ的に個人主義でいこうとすると失敗する。日本人は和を重んずる。実力に伴った昇進制度をとっているとはいえ、周りの者の気持ちを考えない働き方をしては、昇進できない」

「分かった」

「お前は少し見た目の印象が怖い。おかしくないのにヘラヘラ笑えとは言わないが、もう少し愛想良くしたほうが社員との距離が縮まるかもしれない。麻衣さんのためにきちんと稼ぎたいと思うなら、日本で働くために変わる努力をしてくれ」

「了解した」

 頷いたマティアスは、意識的に微笑もうとしたのか、目元と口元を引き攣らせながらニヤァ……と笑う。

「…………」

 その〝怒って鼻に皺を寄せたジャーマンシェパード〟のような顔を見て、佑は溜め息をついた。

「無理に笑えとは言っていない。……自然に愛想笑いができるようになればいいな」

 そう言って佑は、「そろそろ話は終わったかな」と立ち上がり、荷物を持って二階に向かった。



**



 約束したので、今夜は彼と一緒に就寝だ。

 香澄も佑も風呂に入ってストレッチをし、双子はまだ帰っていないが明日のために寝る事にした。

「おいで」

 先にベッドに入っていた佑に言われ、香澄は羽根布団を捲って体を滑り込ませる。

「あったかい……」

「新年からお疲れ様。明日も頑張ろう」

「はい」

 薄暗いなか微笑み合ったあと、佑がチュッとキスをしてくる。

「……今夜、初夢か」

「宝船の絵を枕の下に入れるんだっけ」

「俺、入れてる」

「えっ? 嘘、いいな」

「香澄の枕の下にも入れたから、確認するといいよ」

 言われてドキドキしながら枕の下に手を差し込むと、紙が指先に当たる。

(どんな絵かな……)

 期待しながらピラッと目の前に紙をかざし――、目が点になった。

 佑の写真だ。

 胸板やバキバキに割れた腹筋を晒し、どや顔でカメラ目線になっている自撮りである。

(なに……?)

 訳が分からないまま隣を見ると、佑は満面の笑みを浮かべて彼の枕の下にある写真を見せてくる。

「なっ……!」

 それは香澄の写真だ。

 いつ撮ったのか、下着姿でベッドに寝転び、照れたように微笑んでいる姿を激写されている。

「な、なにこれ……」

「宝船の絵よりずっと強力なラッキーアイテム」

 語尾にハートマークでもつきそうな声と、いい笑顔で言われ、もう言い返す気力もない。

 ガクッと力尽きたように脱力した香澄を見て、佑は「いい案だと思うけどな」と香澄の写真を見て、また枕の下に入れる。

「幸運な夢っていうより、不純な夢を見そう」

「それでもいいじゃないか。今年も一年、ラブラブでいられるよ」

「もー……」

 香澄は「何も入れないよりいいか」と佑の写真を枕の下に戻し、クスクス笑いながら仰向けになった。

「いい夢でも、悪い夢でもいい。佑さんが側にいてくれるなら私は幸せ」

「俺もだよ」

 彼は香澄を抱き寄せると、額や頬、鼻の頭にちょんちょんとキスし、最後に唇にキスをする。

「明日から本格的に仕事が始まる。気合いを入れて……は失敗した時の反動が強いから、今まで通り変わらず、毎日丁寧にこなしていこう」

「うん。頑張ります」

 佑は香澄の額にもう一度キスをしてから、手を繋いで深く息を吸った。

 香澄も目を閉じて佑の体温や呼吸を感じ、「落ち着くなぁ……」と思いながら、ゆっくりと意識を落としていった。



 第十八部・完
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