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第十八部・麻衣と年越し 編

あけましておめでとう

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「あはは、佑さんにもそんな時代があったの?」

「香澄は割とすぐに書けるようになったよな?」

 同居するようになってから、『御劔』とサラサラ書くところを何度か見られていた。

 東京に引っ越してから家族や麻衣にこの家の住所を教えると、母にこう言われた。

『スマホだと漢字がよく分からないから、分かりやすく書いたのを写真に撮って送って』

 普通の人は『御劔』という名字を見ると、まず二文字目でつまづくだろう。
 やけにスラスラ書けると指摘され、香澄は頬を染める。

「う……。じ、実は……練習しまして……」

「練習? 書き取りでもした?」

「う、うん……。仕事で必要になると思ったから」

 香澄はそう言ってごまかした。
 本当は「結婚したあとの自分のフルネームを練習をしていた」など、恥ずかしくて言えない。

「御劔香澄、……か」

 佑も空中に指で漢字を書き、ふふっと笑う。

「なかなかいいな。結婚して、恋人の女性が自分の苗字になるとか、今まではまったく考えていなかった。……でも、香澄で想像すると、いいな……」

 噛みしめるように言ってから、佑はぎゅーっと香澄を抱き締めてきた。

「ずっと大事にするよ」

「……ん」

 すりすりと頬ずりしたあと、香澄は「そろそろ寝ようか」と言って脱がされたキャミソール類を拾い始めた。

「今年一年、どうもありがとうございました。本年もよろしくお願い致します」

 そう言ってキスをしてから、香澄は満ち足りた気持ちで一年最後の眠りについた。



**



 翌朝起きて麻衣に「あけましておめでとう」の挨拶を言い、朝の支度をしてから一階に下りる。

 夜更かしをしていたので、起きたのは八時過ぎだ。

 斎藤は休みなので、彼女が作ってくれたおせち料理などを、自分たちで盛り付ける。

 スムージーを全員分用意して飲みながら、両親や友達にメッセージで「あけましておめでとう」の挨拶をする。

 ドイツ組はまだ寝ていたので、十時近くになってから三人でおせちの準備をした。

 マティアスは九時過ぎには起きてきて、「あけましておめでとう、マイ」とまっさきに麻衣に挨拶をしてきた。

(今年はこの二人に注目だな……)

 香澄はニヤニヤしながら伊達巻きを切り、鶴が描かれた縁起のいい皿に並べていく。

 去年は佑と二人だったので重箱だったが、今回は人数が多いので大皿方式にした。

 佑はタラバガニを皿に並べて、バキバキとハサミで切れ目を入れている。
 麻衣もマティアスも、二人のサポートをしてくれていた。

 ありがたいのは、事前に斎藤が盛り付けイメージ図を描いてくれた事だ。

『盛り付けも料理の一つですからね。ここも私の担当です』

 そう言って彼女は、イラストレーターになれるのではという綺麗な絵を描き、皿のどこに何を盛れば色彩的に美しいか教えてくれた。

 料理人は絵を描けなければいけないという事はないが、色彩センスを高めるために、趣味で絵を描いているという。

 あとは温める物を温め、餅を焼いて雑煮を……というところで、双子が起きてきた。

「あけましておめでとー!」

「すっげぇご馳走! 朝からこんなん食うの?」

 双子は相変わらずのテンションで、スムージーを飲む。
 そしてダイニングを見て感嘆の溜め息をつき、キッチンにやってくる。

「カースミ、マーイ♪」

「なんですか?」

「ご機嫌だな」と思いつつ返事をすると、どちらかがジーンズのポケットに何かを突っ込んできた。

「ひゃあっ」

「うわっ」

 香澄と麻衣が同時に悲鳴を上げ、佑とマティアスが目を剥く。

「はい、場所交代して~」

 双子はクスクス笑いながらお互いの立ち位置を変え、今度は反対側のポケットに何かを突っ込んでくる。

「な、なんですかぁ?」

「あとで見てみて」

「もー。何かは分かりませんが、ありがとうございます」

「何だろう?」と思っても、今はおせちを作るのが先だ。
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