上 下
1,194 / 1,544
第十八部・麻衣と年越し 編

うまくやっていけそうかも

しおりを挟む
 現在は飲食店と新オフィス開設、下着ラインを加える計画が進んでいて、香澄は下着ラインを担当していた。

「メニュー開発については普通一か月かけるところ、二か月を予定している。その分、試作品の予算も増やして、CEブランドの飲食店として納得できる物を作ってもらう」

 昨今、ラグジュアリーブランドのカフェやレストランは珍しくない。

 入店しただけでステータスとなり、その内装や料理を写真に撮れば必ずバズる。

 業界のお洒落な人は必ず訪れ、SNSに写真を投稿し、ファッション誌が特集しただけで大きな話題になる。

 Chief Everyがプロデュースするカフェとレストランの中に、思いきり高級路線を狙ったCEPカフェも紛れさせ、希少価値を上げる狙いもある。

 内装は落ち着きがあり品のある物になるよう、朔と一緒にインテリアデザイナーと相談しているところだ。

 食事については、プレオープンに招待する著名人が、見た目も味も満足する物を出さなければいけない。

 成功すれば集客はかなり見込めると踏んでいる。

〝外〟を整える傍ら、現在は妥協せずメニュー開発を進めていた。

 信頼できる国産の材料を確保し、ヴィーガンメニューの対応も可能になるよう調整する。

 アレルギー対策もしっかり考え、代替え品を使っても美味しくできるかを確認させる。

 誰もが安心して食べられ、満足できる食事を提供するのはたやすくない。

 Chief Everyカフェ、レストラン、CEPカフェすべてのメニュー開発に、二か月を掛ける傍ら、店舗内外の工事を余裕を持った工程で進めようとしていた。

「材料確保の段階は終わり、今はフードデザインの段階だ。コンセプトと合うデザインが決まったら、試作を開始してもらう。オフィスから通いやすい六本木の店舗で試作品を作ってもらっているから、一月中は通って試食する予定だ。香澄も付き合ってくれ。女性目線の意見もほしい」

「それは勿論、喜んで協力するけど……。栄養士やフードコーディネーターもいるんでしょ?」

 あらゆるレストランやカフェのオープンに携わったという、フードコーディネーターと契約をしたという話は聞いている。

「勿論。でも一般目線寄りの意見もほしい。メイン顧客は若い女性だから」

「はい! じゃあ遠慮なく、食いしん坊のスキルを発動したいと思います」

 張り切って頷くと、佑は笑いながら頭を撫でてくれた。



**



 御劔邸に着くと、麻衣が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。

「あぁ~。麻衣の『おかえり』が染みる~」

 ぎゅーっと麻衣に抱きつくと、「お疲れ様」と背中をポンポンしてくれる。

「カイ、おかえり」

 マティアスも出てきて、靴を脱いだ佑が「アロクラは?」と尋ねた。

「ニューイヤーだからと言って、どこかに酒を飲みに行った」

「まったく……。離れに連絡しておかないと」

 溜め息をつき、佑はスマホを開いて円山に連絡する。

「ん? ん? 麻衣、マティアスさんと二人きりだったの?」

 リビングに向かいつつ、香澄は麻衣の肩を組んでニヤニヤする。

「ちょっと、香澄。おじさん臭い」

「んっふっふ……。あとで詳細よろしく」

 ポンと麻衣の肩を叩いたあと、香澄はキッチンで水を飲み、自室で着替える事にした。

 部屋着に着替えてバスルームを確認すると、麻衣が用意してくれたのか風呂の用意ができている。

 ありがたくいただく事にして、洗面所でメイク落としを始めた。

 ――と、「香澄」と声がし、麻衣が部屋に入ってくる。

「お風呂、入れといたからね。私は先に部屋で入った」

「ありがと」

 ダブル洗顔して顔を拭いていると、麻衣がポツンと呟いた。

「私、マティアスさんとうまくやっていけそうかも」

「ほんと?」

 今までの彼女は、マティアスのストレートな好意に戸惑っていたように感じられた。

 だから朗報だ。

「私、香澄が思ってる以上に外見コンプレックスがあるんだ。香澄が一緒にいる時は気楽にいられる。でも世の中全員が、香澄みたいにいい人じゃない」

「ん……」

 麻衣のコンプレックスは分かっているつもりで、彼女が傷つく言葉は言わないし、気にするだろう事もしないようにしている。

 それでも、自分以外の人に彼女が苦しめられているのは事実だ。

「でもマティアスさんって本当に外見を気にしてないみたい。……その、性格っていうか、人間性が好きだって言ってくれて」

「うんうん」

 香澄はプレ化粧水をピタピタと馴染ませながら話を聞く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...