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第十八部・麻衣と年越し 編
リハーサルを終えて
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「合理的、生産性重視かな。なるべく無駄は出さないようにしたい」
「……っふふ。羨ましいです。私もそうなりたい」
いまだ心に傷が残っているが、マティアスと過ごせば痛みを忘れられそうな気がする。
日本人の男性が相手なら、過去の事を気にしてしまうかもしれない。
だがマティアスが相手なら、様々な事を気にせず過ごせる気がする。
――この人といると楽だな。
まさかビンタがきっかけとは思わず、麻衣は小さく笑う。
微笑んだマティアスが唇にキスをしても、麻衣は今度は抵抗しなかった。
**
リハーサルは観客がいないだけで、本番と同じように行われた。
音響や照明、プロジェクションマッピングも問題なく、佑や司会たちも台本を暗記している。
イベントの所要時間は一時間半で、終わったあとに紅白饅頭を配る事になっている。
それも混雑が起こらないように、イベント前に配る整理券と引き換えだ。
「お疲れ様です」
ステージ裏に戻って来た佑に、香澄は水が入ったペットボトルを差しだす。
「ありがとう」
彼は喉を鳴らして水を飲んだあと、少し疲れたように髪を掻き上げた。
「これから会議室で、リハーサルで気付いた点を話し合います。その前に夕食ですね」
佑がステージを下りる前に時間を確認すると、十九時すぎだった。
「弁当は?」
「先ほどお店に確認しましたが、予定通りあと十分後には届くようです」
「分かった。ありがとう」
元旦から仕事という事で、佑は弁当を注文していた。
年末のうちに希望を聞き、懐石弁当かスタミナたっぷりのステーキ弁当が選べるようになっていた。
香澄はもちろんステーキ弁当を頼んでいて、今から楽しみで仕方がない。
会議室組と、現場組に分かれるが、それぞれにきちんと弁当が配られる。
加えてChief Every本店で働いているスタッフと、TMタワーの警備員室にも手配したらしい。
(こういう事をするから慕われるんだよなぁ)
東京本社のTMタワーだけでなく、初売りを控えた全国のChief Everyの店舗で福袋を準備している社員にも弁当が用意されている。
大晦日、元旦という大切な時に出社しているのだからと、ねぎらいの精神を忘れない彼が誇らしい。
イベント会社の社員たちと一緒にオフィスに向かっていると、佑が「ありがとう」と香澄が抱えていたコートを受け取った。
「ん、温まってる」
「サルです」
豊臣秀吉のエピソードを口にすると、佑はクスクス笑った。
**
その後、弁当を食べてから会議をして、帰り支度をしたのは二十一時前だ。
地下駐車場に行って車に乗ると、朝からの疲れがドッと出た。
「お疲れ様」
「社長もお疲れ様です」
「仕事はもう終わったから、秘書モードはいいよ」
「……ん……」
ふぅ、と溜め息をついて香澄はシートにもたれ掛かり、目を閉じる。
明日はいよいよ新年最初のイベントで、麻衣も見にくる。
自分がステージに立つ訳ではないが、親友が職場に来るのは緊張する。
(成功したらいいな)
紅白饅頭も、TMタワーが建って以来、毎年発注している老舗に頼んでいるので、味はピカイチだ。
佑を見ると、彼はタブレット端末で食べ物のデザイン画を見ていた。
「美味しそう」
「ん? Chief Everyカフェのメニューだ。星つきレストランから引き抜いたシェフとパティシエに、グランドメニューになる物をどんどん考案してもらっている。店のコンセプトはもう決まっていて、最初にオープンさせるTMタワー内のテナントと、都内数か所のテナントはもう押さえてある。今はメニュー開発の段階」
「なるほど、美味しそう」
新規事業の中にChief Everyカフェとレストランがある。
それぞれの部署が平行して進めている企画会議に、佑は顔を出して話を纏めていっている。
社長秘書三人は情報共有しながら仕事をしているが、佑と同行して会議に参加するのは一人だ。
「……っふふ。羨ましいです。私もそうなりたい」
いまだ心に傷が残っているが、マティアスと過ごせば痛みを忘れられそうな気がする。
日本人の男性が相手なら、過去の事を気にしてしまうかもしれない。
だがマティアスが相手なら、様々な事を気にせず過ごせる気がする。
――この人といると楽だな。
まさかビンタがきっかけとは思わず、麻衣は小さく笑う。
微笑んだマティアスが唇にキスをしても、麻衣は今度は抵抗しなかった。
**
リハーサルは観客がいないだけで、本番と同じように行われた。
音響や照明、プロジェクションマッピングも問題なく、佑や司会たちも台本を暗記している。
イベントの所要時間は一時間半で、終わったあとに紅白饅頭を配る事になっている。
それも混雑が起こらないように、イベント前に配る整理券と引き換えだ。
「お疲れ様です」
ステージ裏に戻って来た佑に、香澄は水が入ったペットボトルを差しだす。
「ありがとう」
彼は喉を鳴らして水を飲んだあと、少し疲れたように髪を掻き上げた。
「これから会議室で、リハーサルで気付いた点を話し合います。その前に夕食ですね」
佑がステージを下りる前に時間を確認すると、十九時すぎだった。
「弁当は?」
「先ほどお店に確認しましたが、予定通りあと十分後には届くようです」
「分かった。ありがとう」
元旦から仕事という事で、佑は弁当を注文していた。
年末のうちに希望を聞き、懐石弁当かスタミナたっぷりのステーキ弁当が選べるようになっていた。
香澄はもちろんステーキ弁当を頼んでいて、今から楽しみで仕方がない。
会議室組と、現場組に分かれるが、それぞれにきちんと弁当が配られる。
加えてChief Every本店で働いているスタッフと、TMタワーの警備員室にも手配したらしい。
(こういう事をするから慕われるんだよなぁ)
東京本社のTMタワーだけでなく、初売りを控えた全国のChief Everyの店舗で福袋を準備している社員にも弁当が用意されている。
大晦日、元旦という大切な時に出社しているのだからと、ねぎらいの精神を忘れない彼が誇らしい。
イベント会社の社員たちと一緒にオフィスに向かっていると、佑が「ありがとう」と香澄が抱えていたコートを受け取った。
「ん、温まってる」
「サルです」
豊臣秀吉のエピソードを口にすると、佑はクスクス笑った。
**
その後、弁当を食べてから会議をして、帰り支度をしたのは二十一時前だ。
地下駐車場に行って車に乗ると、朝からの疲れがドッと出た。
「お疲れ様」
「社長もお疲れ様です」
「仕事はもう終わったから、秘書モードはいいよ」
「……ん……」
ふぅ、と溜め息をついて香澄はシートにもたれ掛かり、目を閉じる。
明日はいよいよ新年最初のイベントで、麻衣も見にくる。
自分がステージに立つ訳ではないが、親友が職場に来るのは緊張する。
(成功したらいいな)
紅白饅頭も、TMタワーが建って以来、毎年発注している老舗に頼んでいるので、味はピカイチだ。
佑を見ると、彼はタブレット端末で食べ物のデザイン画を見ていた。
「美味しそう」
「ん? Chief Everyカフェのメニューだ。星つきレストランから引き抜いたシェフとパティシエに、グランドメニューになる物をどんどん考案してもらっている。店のコンセプトはもう決まっていて、最初にオープンさせるTMタワー内のテナントと、都内数か所のテナントはもう押さえてある。今はメニュー開発の段階」
「なるほど、美味しそう」
新規事業の中にChief Everyカフェとレストランがある。
それぞれの部署が平行して進めている企画会議に、佑は顔を出して話を纏めていっている。
社長秘書三人は情報共有しながら仕事をしているが、佑と同行して会議に参加するのは一人だ。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
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