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第十八部・麻衣と年越し 編

あれだけバカにしていた〝恋する女性〟

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 恋愛要素が皆無の、マッチョな外国人俳優が活躍するアクション映画を見ると、胸がスカッとする。

 だがそういう映画にはマドンナ役の美女ヒロインが必ず出てきて、女っ気のないアクションヒーローであっても、所詮は美女が好きなのだと斜に構えて見ていた。

 けれど海外映画は、女優が女神のように美しいので素直に「綺麗だな」と思える。

 だが邦画や国内ドラマだと、同じ国の女性というだけでどこか嫉妬心を抱いてしまう。

 香澄は友達なので、何があっても好きだし応援したいと思っている。

 それもこれも、彼女は磨けば光る逸材なのに、今までずっと頼りなく内向的で、「私がいないと」と庇護の対象に思っていたからだ。

 これが、彼女が能動的に動く陽キャの女性だったら、ここまで仲良くできなかったかもしれない。

 だが今はすっかり垢抜けて、「お、おう……」と驚くと同時に、「あの香澄がこんなに変わったんだ」と素直に賛嘆していた。

 香澄が垢抜けたなら……、と彼女の真似をしてできる事から努力すると、少し自分を好きになれた気がする。

 学生時代はニキビだらけだった顔も、今はモチモチだ。

 顔の作りも体型も変えられないのなら……と、せめて肌質だけは改善できるよう努力した。

 第三者から見れば、〝お洒落に目覚めて肌が綺麗になった程度〟だ。

 体型はそのままだし、性格も変わっていない。

 劇的に痩せるほど変わらなければ、周囲から驚かれる事はないだろう。

 けれど、そんな自分でも〝少し変われた〟のは大きな一歩だった。

 東京まで香澄を訪ねて、佑や双子のような超絶イケメンと知り合う事ができた。

 それにマティアスのような、美貌のドイツ人から真剣に迫られている。

 まるでかつて憧れた〝クラスのイケてるグループの女子〟のような、高いステータスを得られた気がした。

 浮かれて、マティアスとも「もしかしたら結婚できるかもしれない」と思い始めた。

 だが、いざ彼にキスをされて痛感したのは、自分は二十八歳になってもキスさえした事がない処女だという事だ。

 マティアスに女の影があると分かっただけで、こんなに嫉妬してふて腐れている。

(……そうだ。嫉妬してるんだ)

 ドラマのあの女優は、自分の彼氏が他の女性とキスをしたと勘違いして、「イヤイヤ」をしていたんだっけ。

(……同じだ)

 自分は、あれだけバカにしていた〝恋する女性〟になっている。

 漫画を見て、「イケメンを彼氏にするんだから、昔の女関係ぐらい我慢しなさいよ。大人でしょ」と馬鹿にしていた自分を殴りたい。

(こんなに情けない自分の事なんて、彼に話せない)

 自分みたいな女が、マティアスのように格好いい男性に嫉妬する資格なんてない。

 綺麗になる努力もしてこなかったし、男性と付き合う努力も、痩せる努力もしなかった。

 転がり込んできたマティアスという幸運を大切にしたいのに、今まで色んな事をサボりまくったため、何をすればうまくいくのか分からない。

「…………っ」

 あまりに情けなくて、ポロッと涙が零れた。

 スンッと鼻を啜る音が聞こえたからか、マティアスが腕を伸ばしてティッシュボックスを取り、麻衣の目の前に置く。
 ありがたくティッシュを一枚取り、涙を拭って洟をかんだ。

「すっごく面倒臭い事を考えてるから、ごめん。……もうちょっとしたら落ち着くから」

「落ち着かなくていい。俺はマイが何を考えているか、まったく分からない。だから隠さずに話してほしい。怒っているのか、悲しいのか、教えてほしい」

 そう言ってマティアスは麻衣の肩を掴んで引き寄せ、仰向けにする。

「っ……みな、ぃ……で」

 とっさに腕で顔を隠した麻衣の両手を、マティアスは片手でたやすく掴んで顔から離した。

「今何を思っている? いきなりキスをしたから怒ったのか? 俺のキスが気持ち悪かった? キスが嫌で悲しくなった?」

 マティアスは真剣な表情で、麻衣の気持ちを知ろうとしている。

「教えてほしい。俺はマイと結婚したい。子供もほしい。そのためにはキスもするし、セックスもする。その前に、マイが嫌だと思うものを知っておきたい」

 改めて言われ、「この幸せを手放したくない」と強く思った。

 ――恥ずかしい。

(けど、結婚、……するなら)

「――――っ」

 パンッと自分の頬を叩いて気合いを入れてから、思い切って尋ねた。
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