1,187 / 1,536
第十八部・麻衣と年越し 編
なんで、こんなムカつくの ☆
しおりを挟む
元旦からやっている店があるのか、さすが東京だなと思っていたのは束の間、マティアスと二人きりになったと理解し、どうしたらいいか分からなくなった。
夕食は「冷蔵庫にある物を自由に食べていい」と言われたが、家主がいないのに勝手に振る舞うのは申し訳ない。
それでもマティアスが「何か作ってほしい」としつこく言うので、何とかしなければと思った。
まだ元旦なので、おせち料理は二日、三日の朝にも食べるはずだ。
なので多少減っても構わなさそうな料理に目をつけて、筑前煮をリメイクしてカレーを作った。
それをパックご飯にかけ、即席カレーのできあがりだ。
マティアスは目を輝かせてカレーを写真に撮った。
そして大きなダイニングテーブルで二人の食事になる。
以外と会話には困らず、マティアスは話題を振ってくれた。
片付けも終わり、やる事がなくなってソワソワする。
香澄たちが帰ってくるのは二十一時すぎだと言うし、片付けが終わった時点でまだ十七時半だった。
困り切っていたところ、マティアスが「部屋で話をしよう」と言い、……ついていったのが間違いだった。
「ん……っ、んー!」
(苦しい!)
ベッドに押し倒されキスをされていた麻衣は、どんっとマティアスの背中を叩く。
覆い被さっていたマティアスは唇を舐め、今まで見せなかった妖艶な目で麻衣を見下ろす。
「嫌か?」
「嫌かって……」
(ファーストキスなのに!)
淡々と言う彼が信じられず、麻衣は目をまん丸にする。
「『キスしていいか?』と尋ねただろう」
「い、いいって言ったけど……。さ、最初からベロチューするの?」
ベッドに座っているマティアスに「こっちに来てほしい」と言われた時から、ある種の覚悟はしていた。
確かに「キスをしていいか?」と尋ねられ、承諾はした。
けれど唇が重なって「あっ、これがキス……」と思った瞬間、マティアスはそうするのが当たり前というように、舌を使って巧みなキスをしてきたのだ。
誰とも付き合った事のない麻衣は、〝慣れて〟いそうなキスに身勝手なショックを受けてしまった。
もう二十八歳にもなるのだから、初めてとはいえ冷静にキスできると思っていた。
緊張するだろうけど、いつもの冷静さを保ったままキスをされ、終わったあと照れ隠しに少し文句を言う……ぐらいのシュミレートはしていた。
――が、蓋を開けてみればこのざまだ。
「……好きな相手には舌を入れるだろう? ……触れるだけのキスが良かったのか?」
マティアスは驚いた顔をしていて、それがまたムカつく。
「~~~~っ……、ちょっと……、待って」
麻衣は怒鳴ってやりたい気持ちを抑え、ゴロンと寝返りを打って壁のほうを向き、大きな溜め息をついた。
(……彼は三十路なのに女性経験がない訳ないでしょ。キスだって沢山したに決まってる。セックスだって大勢と経験してて、うまいに決まってる。……初めての相手が童貞がいいなんて思わない。上手なほうがいいでしょ。……なのに、なんでこんなムカつくの……)
気持ちを落ち着かせるためにゆっくり息を吸い、細く長く吐いていく。
(そうじゃない。御劔さんの家でこんな事をするのは駄目だ。せめて家の外でやらないと)
考えを纏めようとしている間、背中側にマティアスがゴロンと横たわった
「マイ。一人で考える前に口に出して言ってくれ。突然背中を向けられても分からない。俺はマイの気持ちを知りたい。今何を考えているか共有して、二人で解決したい」
マティアスの腕が腹部にまわり、優しく抱き締めてくる。
引き締まっていないお腹を触られるのは、裸を見られるより恥ずかしい。
壁の方を向いているのを幸いに、麻衣は顔を歪めて赤面していた。
「マイ。キスをするのが嫌だったか?」
「……ううん」
――あぁ、〝面倒な女〟になっちゃったな。
麻衣は心の中で溜め息をつく。
今まで、恋愛漫画やドラマにいる、心と体が裏腹な「イヤイヤ女」をどこかバカにしていた。
『そうしていても、どうせ好きなんでしょ。素直になればストーリーがすんなり進むのに。恋愛モノって面倒臭い』
バカにしながらどこか楽しんでいる自分がいて、「はいはい」と上から目線で娯楽を消化していた。
本当は〝愛されているくせに我が儘を言う、可愛い女子への妬み〟があるのも自覚していた。
夕食は「冷蔵庫にある物を自由に食べていい」と言われたが、家主がいないのに勝手に振る舞うのは申し訳ない。
それでもマティアスが「何か作ってほしい」としつこく言うので、何とかしなければと思った。
まだ元旦なので、おせち料理は二日、三日の朝にも食べるはずだ。
なので多少減っても構わなさそうな料理に目をつけて、筑前煮をリメイクしてカレーを作った。
それをパックご飯にかけ、即席カレーのできあがりだ。
マティアスは目を輝かせてカレーを写真に撮った。
そして大きなダイニングテーブルで二人の食事になる。
以外と会話には困らず、マティアスは話題を振ってくれた。
片付けも終わり、やる事がなくなってソワソワする。
香澄たちが帰ってくるのは二十一時すぎだと言うし、片付けが終わった時点でまだ十七時半だった。
困り切っていたところ、マティアスが「部屋で話をしよう」と言い、……ついていったのが間違いだった。
「ん……っ、んー!」
(苦しい!)
ベッドに押し倒されキスをされていた麻衣は、どんっとマティアスの背中を叩く。
覆い被さっていたマティアスは唇を舐め、今まで見せなかった妖艶な目で麻衣を見下ろす。
「嫌か?」
「嫌かって……」
(ファーストキスなのに!)
淡々と言う彼が信じられず、麻衣は目をまん丸にする。
「『キスしていいか?』と尋ねただろう」
「い、いいって言ったけど……。さ、最初からベロチューするの?」
ベッドに座っているマティアスに「こっちに来てほしい」と言われた時から、ある種の覚悟はしていた。
確かに「キスをしていいか?」と尋ねられ、承諾はした。
けれど唇が重なって「あっ、これがキス……」と思った瞬間、マティアスはそうするのが当たり前というように、舌を使って巧みなキスをしてきたのだ。
誰とも付き合った事のない麻衣は、〝慣れて〟いそうなキスに身勝手なショックを受けてしまった。
もう二十八歳にもなるのだから、初めてとはいえ冷静にキスできると思っていた。
緊張するだろうけど、いつもの冷静さを保ったままキスをされ、終わったあと照れ隠しに少し文句を言う……ぐらいのシュミレートはしていた。
――が、蓋を開けてみればこのざまだ。
「……好きな相手には舌を入れるだろう? ……触れるだけのキスが良かったのか?」
マティアスは驚いた顔をしていて、それがまたムカつく。
「~~~~っ……、ちょっと……、待って」
麻衣は怒鳴ってやりたい気持ちを抑え、ゴロンと寝返りを打って壁のほうを向き、大きな溜め息をついた。
(……彼は三十路なのに女性経験がない訳ないでしょ。キスだって沢山したに決まってる。セックスだって大勢と経験してて、うまいに決まってる。……初めての相手が童貞がいいなんて思わない。上手なほうがいいでしょ。……なのに、なんでこんなムカつくの……)
気持ちを落ち着かせるためにゆっくり息を吸い、細く長く吐いていく。
(そうじゃない。御劔さんの家でこんな事をするのは駄目だ。せめて家の外でやらないと)
考えを纏めようとしている間、背中側にマティアスがゴロンと横たわった
「マイ。一人で考える前に口に出して言ってくれ。突然背中を向けられても分からない。俺はマイの気持ちを知りたい。今何を考えているか共有して、二人で解決したい」
マティアスの腕が腹部にまわり、優しく抱き締めてくる。
引き締まっていないお腹を触られるのは、裸を見られるより恥ずかしい。
壁の方を向いているのを幸いに、麻衣は顔を歪めて赤面していた。
「マイ。キスをするのが嫌だったか?」
「……ううん」
――あぁ、〝面倒な女〟になっちゃったな。
麻衣は心の中で溜め息をつく。
今まで、恋愛漫画やドラマにいる、心と体が裏腹な「イヤイヤ女」をどこかバカにしていた。
『そうしていても、どうせ好きなんでしょ。素直になればストーリーがすんなり進むのに。恋愛モノって面倒臭い』
バカにしながらどこか楽しんでいる自分がいて、「はいはい」と上から目線で娯楽を消化していた。
本当は〝愛されているくせに我が儘を言う、可愛い女子への妬み〟があるのも自覚していた。
11
お気に入りに追加
2,501
あなたにおすすめの小説
【女性向けR18】幼なじみにセルフ脱毛で際どい部分に光を当ててもらっています
タチバナ
恋愛
彼氏から布面積の小さな水着をプレゼントされました。
夏になったらその水着でプールか海に行こうと言われています。
まだ春なのでセルフ脱毛を頑張ります!
そんな中、脱毛器の眩しいフラッシュを何事かと思った隣の家に住む幼なじみの陽介が、脱毛中のミクの前に登場!
なんと陽介は脱毛を手伝ってくれることになりました。
抵抗はあったものの順調に脱毛が進み、今日で脱毛のお手伝いは4回目です!
【作品要素】
・エロ=⭐︎⭐︎⭐︎
・恋愛=⭐︎⭐︎⭐︎
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
――鬼の伝承に準えた、血も凍る連続殺人事件の謎を追え。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
巨大な医療センターの設立を機に人口は増加していき、世間からの注目も集まり始めていた。
更なる発展を目指し、電波塔建設の計画が進められていくが、一部の地元住民からは反対の声も上がる。
曰く、満生台には古くより三匹の鬼が住み、悪事を働いた者は祟られるという。
医療センターの闇、三鬼村の伝承、赤い眼の少女。
月面反射通信、電磁波問題、ゼロ磁場。
ストロベリームーン、バイオタイド理論、ルナティック……。
ささやかな箱庭は、少しずつ、けれど確実に壊れていく。
伝承にある満月の日は、もうすぐそこまで迫っていた――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!
風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。
婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約?
憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。
アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。
※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。
格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。
【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない
かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が
シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。
女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。
設定ゆるいです。
出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。
ちょいR18には※を付けます。
本番R18には☆つけます。
※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。
苦手な方はお戻りください。
基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる