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第十八部・麻衣と年越し 編
メイクの頻度
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(言うと思った……)
香澄は内心項垂れる。
「俺、カスミの歌声聴きたいなぁ」
さらにアロイスに言われ、香澄は両手を胸の前でブンブンと振って拒絶した。
「え!? え! だ、駄目です。私はピアノがあるので、歌はパスで」
音痴ではないと思っているが、友達ではない人の前で歌った事はない。
この面子でのカラオケはまず無理だ。
「えー? ケチー」
双子は唇を尖らせてブーイングするが、香澄もこれだけは譲れない。
「じゃあ、今度御劔家女子会でカラオケから練習しない?」
澪に言われ、香澄はなまぬるーい笑みで「ソウデスネ……」と返事をした。
カラオケ論議が落ち着いた頃、節子が口を開く。
「それは置いておいて、一か月後あたりにまた日本に来るわね。丁度バレンタインだし、その前ぐらいに来ようかしら。途中でベルギーやフランスに寄って、有名ショコラトリーのチョコレートをお土産にするわね」
「あ、ありがとうございます!」
現金にも、本場のチョコレートと聞くと食い意地が張って元気になってしまう。
「香澄さんの準備が整って、日程が固まったら教えてちょうだい」
「ああ、分かった」
佑が頷く横で、香澄は気合いを入れる。
(覚悟して練習しないと! まずは曲を決めるところから)
そのあと二時間ほど話してから、アドラーたちは「行く所があるから」と言って御劔邸をあとにした。
「はー、あれがクラウザー社の会長さんと、奥さんねぇ……」
客用のカップなどを片付けたあと、麻衣がしみじみと言う。
「凄い人たちだけど、話してみると親しみやすいでしょ?」
「そうだね。雲上人と思っていても、やっぱり人間なんだねー」
時計を見ると、そろそろ十五時前だ。
「ちょっと部屋で出かける準備するね。夕方からイベントのリハーサルに行かないとだから、先にメイクとかしておく」
「うん」
リビングにいる面々に挨拶してから、香澄は二階に上がった。
改めて顔を洗ったあと、フェイスパックをしておく事にした。
美容液が浸透するようにソファで仰向けになり、五分間スマホを弄りながら待つ。
終わると基礎化粧品で肌を整え、服を選ぶ事にした。
基礎化粧品で肌を整えたあと、すぐメイクをすると水分でよれやすいので、十分は空けたほうがいいそうだ。
「実質的に仕事始めだから、気持ちが引き締まる感じにしたいな」
そう思い、少し考えたあとパンツスタイルに決めた。
黒のタートルネックニットに、ボトムスはグレーのハイウエストパンツだ。
パンツはウエストにリボンがあり、少しフェミニンさがある。
その上にグレンチェックのテーラードジャケットを羽織れば、格好良くキマりそうだ。
髪の毛を纏めてふんわりとしたお団子を作ったあと、メイクを始めた。
最近は色々知識が増えた事もあり、メイクが楽しくなっている。
佑に買い与えられたコスメも、なんとかコーディネートに合わせて駆使し、無駄にしないよう努力していた。
(札幌にいた頃よりメイクする頻度が上がったと思うのは、やっぱり都会だからだよなぁ)
つくづくそう思う。
東京に来て驚いたのは都会である、の一言に尽きる。
「札幌と東京を比べりゃそうでしょ」なのだが、実際に住むと感覚がまったく異なる。
実家は住宅地が多い区だったので、すっぴんで家着のままサンダルをつっかけてコンビニに行くのが普通だった。
夜になって外に出ても、住宅街なのであまり人と遭遇しない。
流星群が見えるという時期には、パジャマにカーディガンを引っかけ、ぼんやり空を見上げてまた家に入る事もあった。
御劔邸がある白金台では、まずそんな無防備な事ができない。
歩いてすぐの距離にお洒落な店があり、着飾って歩いている人がいる。
そんな場所に住んでいれば、コンビニに行くだけでも外見に気を付けざるを得なくなる。
勿論気にしない人はいるだろうが、香澄としては以前の意識のままではいられない。
加えて自分は〝御劔佑〟の婚約者だ。気の抜けた格好などしていられない。
佑は「そんな事は気にしなくていい」と言ってくれるが、パートナーになる自分がだらけた格好でいれば佑に迷惑がかかる。
「その程度の女と付き合っているんですね」と言われ、悔しい思いをするのは自分だけではない。
だから、香澄はいつも気合いを入れていた。
その分、自宅では楽な格好をさせてもらっているけれど。
香澄は内心項垂れる。
「俺、カスミの歌声聴きたいなぁ」
さらにアロイスに言われ、香澄は両手を胸の前でブンブンと振って拒絶した。
「え!? え! だ、駄目です。私はピアノがあるので、歌はパスで」
音痴ではないと思っているが、友達ではない人の前で歌った事はない。
この面子でのカラオケはまず無理だ。
「えー? ケチー」
双子は唇を尖らせてブーイングするが、香澄もこれだけは譲れない。
「じゃあ、今度御劔家女子会でカラオケから練習しない?」
澪に言われ、香澄はなまぬるーい笑みで「ソウデスネ……」と返事をした。
カラオケ論議が落ち着いた頃、節子が口を開く。
「それは置いておいて、一か月後あたりにまた日本に来るわね。丁度バレンタインだし、その前ぐらいに来ようかしら。途中でベルギーやフランスに寄って、有名ショコラトリーのチョコレートをお土産にするわね」
「あ、ありがとうございます!」
現金にも、本場のチョコレートと聞くと食い意地が張って元気になってしまう。
「香澄さんの準備が整って、日程が固まったら教えてちょうだい」
「ああ、分かった」
佑が頷く横で、香澄は気合いを入れる。
(覚悟して練習しないと! まずは曲を決めるところから)
そのあと二時間ほど話してから、アドラーたちは「行く所があるから」と言って御劔邸をあとにした。
「はー、あれがクラウザー社の会長さんと、奥さんねぇ……」
客用のカップなどを片付けたあと、麻衣がしみじみと言う。
「凄い人たちだけど、話してみると親しみやすいでしょ?」
「そうだね。雲上人と思っていても、やっぱり人間なんだねー」
時計を見ると、そろそろ十五時前だ。
「ちょっと部屋で出かける準備するね。夕方からイベントのリハーサルに行かないとだから、先にメイクとかしておく」
「うん」
リビングにいる面々に挨拶してから、香澄は二階に上がった。
改めて顔を洗ったあと、フェイスパックをしておく事にした。
美容液が浸透するようにソファで仰向けになり、五分間スマホを弄りながら待つ。
終わると基礎化粧品で肌を整え、服を選ぶ事にした。
基礎化粧品で肌を整えたあと、すぐメイクをすると水分でよれやすいので、十分は空けたほうがいいそうだ。
「実質的に仕事始めだから、気持ちが引き締まる感じにしたいな」
そう思い、少し考えたあとパンツスタイルに決めた。
黒のタートルネックニットに、ボトムスはグレーのハイウエストパンツだ。
パンツはウエストにリボンがあり、少しフェミニンさがある。
その上にグレンチェックのテーラードジャケットを羽織れば、格好良くキマりそうだ。
髪の毛を纏めてふんわりとしたお団子を作ったあと、メイクを始めた。
最近は色々知識が増えた事もあり、メイクが楽しくなっている。
佑に買い与えられたコスメも、なんとかコーディネートに合わせて駆使し、無駄にしないよう努力していた。
(札幌にいた頃よりメイクする頻度が上がったと思うのは、やっぱり都会だからだよなぁ)
つくづくそう思う。
東京に来て驚いたのは都会である、の一言に尽きる。
「札幌と東京を比べりゃそうでしょ」なのだが、実際に住むと感覚がまったく異なる。
実家は住宅地が多い区だったので、すっぴんで家着のままサンダルをつっかけてコンビニに行くのが普通だった。
夜になって外に出ても、住宅街なのであまり人と遭遇しない。
流星群が見えるという時期には、パジャマにカーディガンを引っかけ、ぼんやり空を見上げてまた家に入る事もあった。
御劔邸がある白金台では、まずそんな無防備な事ができない。
歩いてすぐの距離にお洒落な店があり、着飾って歩いている人がいる。
そんな場所に住んでいれば、コンビニに行くだけでも外見に気を付けざるを得なくなる。
勿論気にしない人はいるだろうが、香澄としては以前の意識のままではいられない。
加えて自分は〝御劔佑〟の婚約者だ。気の抜けた格好などしていられない。
佑は「そんな事は気にしなくていい」と言ってくれるが、パートナーになる自分がだらけた格好でいれば佑に迷惑がかかる。
「その程度の女と付き合っているんですね」と言われ、悔しい思いをするのは自分だけではない。
だから、香澄はいつも気合いを入れていた。
その分、自宅では楽な格好をさせてもらっているけれど。
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