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第十八部・麻衣と年越し 編
一歩踏み出さないと
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彼が今までどう過ごしてきたかは分からないが、今は〝解放〟されて自由を謳歌している。
そんな彼が日本を好み、来日してくれたのは、日本人としてとても嬉しい。
(出会えて……。良かったな)
同時にそう思う。
どれだけつらい目に遭ったか分からないが、ゆっくりしたいならそうしてほしい。
麻衣は自分の財力を、「あまり募金するお金がない〝普通〟レベル」と思っている。
募金したい気持ちはあるが、数百円ならともかく、千円以上となると「ちょっといいランチが食べられるんじゃ」と思ってしまう。
桁外れのお金を持っているマティアスなら、信じられない額の寄付をするのだろう。
彼は本当に〝良い事〟に金を使い、誰かの役に立ちたいと願っている。
(きっと、つらい思いをしたからこそ、他の人を思えるのかな)
そう思える彼を素直に尊敬した。
(そんな人の隣に立っていいのかな……)
溜め息をついた時、廊下の向こうでアロイスのわざとらしい声が聞こえた。
「あー、クラ、風呂上がった? 遅かったね。ちょっと下で飲まない? タスクのワイン飲んでやろうぜ」
「おー、いいね! 飲む飲む!」
大きめの声に麻衣はビクッとし、必死に自分を落ち着かせる。
(そう言えばいたんだった……)
アロイスが協力してくれると言ったのを、今さら思いだす。
二人が階段を下りていく音がし、話し声が小さくなったところで、静かに息をつく。
「マイは札幌のどこに住んでいる?」
話題を変えられ、とりあえず答える。
「中央区です。中央区って言ってもピンキリですけど、駅に近くて通勤しやすい場所ですね」
今はまだ、どんな仲になるか分からないので、詳しい場所はぼかしておく。
「提案したい。マイが札幌に戻る時、俺も一緒に行きたい。ホテルを予約して数週間留まって札幌の物件を見たいと思う。仕事帰りや週末に一緒に見ないか?」
また彼が段階をすっ飛ばしたので、麻衣は突っ込みを入れる。
「ちょ!? いきなりマンション買うつもりですか!? 一緒に住むとか言いませんよね!?」
「勿論、同棲したいと思っている」
マティアスはまったく動揺せず答える。
彼に会った時からずっと感じていたが、話している時にジッと目を見る癖や、姿勢がいいところや全体のイメージから、「シェパードみたい」と思っていた。
まじめな顔で麻衣が命令を下すのを待っているシェパードが、コワモテの顔はそのままに、尻尾をバサバサ振っている。……気がする。
「うまくいかなかった場合とか、考えてないんですか?」
(この人、リアリストかと思えば、物凄いロマンチストかもしれない)
麻衣は半分呆れながら言う。
「私たち、お互いの事をよく知りません。デートの一回もしていないです。親の了承も得ていません」
「俺は運命を感じた。デートならこれからすればいいし、お互いを知っていけばいい。それには一緒に過ごす時間が大切だ。日本的な結婚の許しならともかく、同棲するのに親の許可が必要な子供ではないだろう」
「う……」
〝運命〟と、少女漫画のような言葉を言われ、ボボッと顔が熱くなる。
それに後半についても彼の言うとおりだ。
「俺たちの間には、法的な問題が多くある。それをクリアしなければいけないのに、感情論でまごついていては、何も始まらない」
もっともな事を言われ、麻衣は言葉に詰まった。
(確かに……言う通りだ)
「行動して、駄目だったらそこで考えよう。何が悪かったのか原因を突き止め、もう一度トライする。『失敗するかも』を恐れていては、前に進めない。マンションは俺の金で買うし、マイが責任を被る事は一切ない」
(本気でマンションを買うのかもしれない。そこまで本気に思ってくれているのに、中途半端な事を考えていたら失礼だ。いつまでも『自分なんか……』って思わないで、信じて受け入れる覚悟を持たないと)
自分のような女に、こんな極上のイケメンが迫っている状況をまだ理解できない。
しかも相手はとんでもない資産家だ。
彼がその気になれば、金髪碧眼の美女でもラテン系のセクシーな美女でも、よりどりみどりなのにどうして自分なのか。
(……でも、〝運命〟って言ってくれた。あとから『冗談だった』なんて言われたら怖いけど、……でも、一歩踏み出さないと)
とても怖いと思いながら、麻衣は心の中で一歩前に進む。
そんな彼が日本を好み、来日してくれたのは、日本人としてとても嬉しい。
(出会えて……。良かったな)
同時にそう思う。
どれだけつらい目に遭ったか分からないが、ゆっくりしたいならそうしてほしい。
麻衣は自分の財力を、「あまり募金するお金がない〝普通〟レベル」と思っている。
募金したい気持ちはあるが、数百円ならともかく、千円以上となると「ちょっといいランチが食べられるんじゃ」と思ってしまう。
桁外れのお金を持っているマティアスなら、信じられない額の寄付をするのだろう。
彼は本当に〝良い事〟に金を使い、誰かの役に立ちたいと願っている。
(きっと、つらい思いをしたからこそ、他の人を思えるのかな)
そう思える彼を素直に尊敬した。
(そんな人の隣に立っていいのかな……)
溜め息をついた時、廊下の向こうでアロイスのわざとらしい声が聞こえた。
「あー、クラ、風呂上がった? 遅かったね。ちょっと下で飲まない? タスクのワイン飲んでやろうぜ」
「おー、いいね! 飲む飲む!」
大きめの声に麻衣はビクッとし、必死に自分を落ち着かせる。
(そう言えばいたんだった……)
アロイスが協力してくれると言ったのを、今さら思いだす。
二人が階段を下りていく音がし、話し声が小さくなったところで、静かに息をつく。
「マイは札幌のどこに住んでいる?」
話題を変えられ、とりあえず答える。
「中央区です。中央区って言ってもピンキリですけど、駅に近くて通勤しやすい場所ですね」
今はまだ、どんな仲になるか分からないので、詳しい場所はぼかしておく。
「提案したい。マイが札幌に戻る時、俺も一緒に行きたい。ホテルを予約して数週間留まって札幌の物件を見たいと思う。仕事帰りや週末に一緒に見ないか?」
また彼が段階をすっ飛ばしたので、麻衣は突っ込みを入れる。
「ちょ!? いきなりマンション買うつもりですか!? 一緒に住むとか言いませんよね!?」
「勿論、同棲したいと思っている」
マティアスはまったく動揺せず答える。
彼に会った時からずっと感じていたが、話している時にジッと目を見る癖や、姿勢がいいところや全体のイメージから、「シェパードみたい」と思っていた。
まじめな顔で麻衣が命令を下すのを待っているシェパードが、コワモテの顔はそのままに、尻尾をバサバサ振っている。……気がする。
「うまくいかなかった場合とか、考えてないんですか?」
(この人、リアリストかと思えば、物凄いロマンチストかもしれない)
麻衣は半分呆れながら言う。
「私たち、お互いの事をよく知りません。デートの一回もしていないです。親の了承も得ていません」
「俺は運命を感じた。デートならこれからすればいいし、お互いを知っていけばいい。それには一緒に過ごす時間が大切だ。日本的な結婚の許しならともかく、同棲するのに親の許可が必要な子供ではないだろう」
「う……」
〝運命〟と、少女漫画のような言葉を言われ、ボボッと顔が熱くなる。
それに後半についても彼の言うとおりだ。
「俺たちの間には、法的な問題が多くある。それをクリアしなければいけないのに、感情論でまごついていては、何も始まらない」
もっともな事を言われ、麻衣は言葉に詰まった。
(確かに……言う通りだ)
「行動して、駄目だったらそこで考えよう。何が悪かったのか原因を突き止め、もう一度トライする。『失敗するかも』を恐れていては、前に進めない。マンションは俺の金で買うし、マイが責任を被る事は一切ない」
(本気でマンションを買うのかもしれない。そこまで本気に思ってくれているのに、中途半端な事を考えていたら失礼だ。いつまでも『自分なんか……』って思わないで、信じて受け入れる覚悟を持たないと)
自分のような女に、こんな極上のイケメンが迫っている状況をまだ理解できない。
しかも相手はとんでもない資産家だ。
彼がその気になれば、金髪碧眼の美女でもラテン系のセクシーな美女でも、よりどりみどりなのにどうして自分なのか。
(……でも、〝運命〟って言ってくれた。あとから『冗談だった』なんて言われたら怖いけど、……でも、一歩踏み出さないと)
とても怖いと思いながら、麻衣は心の中で一歩前に進む。
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