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第十八部・麻衣と年越し 編

気にしなくていいんでない?

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「うんうん、分かるよ。でもまず、マティアスさんと話してみたら?」

「うぅ……」

「日本に住むかもって言ってるけど、今はまだ本拠地はドイツだし、あと数日で麻衣も札幌に帰っちゃうでしょ? 話せるうちに話しておかないと」

「うん……」

 香澄に促され、麻衣は自信なさげに頷いた。

「側にいるから、何かあったらすぐ話を聞くよ。勇気を出してみて」

 膝を抱えて俯いている麻衣を激励すると、ゆっくりと顔を上げた彼女が「うん」と頷いた。

 決意の宿った瞳を見て、香澄は「頑張れ」と応援する。

「そろそろ出ようか。麻衣をピカピカにしないと」

 そう言って香澄はバスタブから出て、麻衣と一緒にバスルームを出た。
 脱衣所で体を拭いたあと、麻衣と一緒にフェイスケアしたあと、自分の使っているボディ用化粧水を麻衣にも使わせ、しっかり体の保湿をさせる。

「どの香りが好きだったっけ?」

 洗面所にはジョン・アルクールのボディクリームが揃っていて、麻衣の好みの香りがあれば、何でも使える状態だ。
 言いながら香澄は自分が愛用しているネクタリンのボディクリームの蓋を開け、「嗅いでみて」と麻衣に勧める。

「うーん……。甘い、かな? もうちょっとユニセックスな香りのほうが好きかも」

「そっか。じゃあ、こっちは?」

 次に差し出したのは、同じフルーティーのジャンルにある、ブラックベリー&ベイだ。
 こちらも果実の甘い香りはあるのだが、深みとコクがあり、ウッディ系の香りもするため、男性も愛用している人が多いとの事だ。

「んー、……結構好きかも」

「こっちも人気があるんだって」

 次に開けたのは、ウッドセージ&シーソルトだ。

 こちらは名前にシーソルトがついている通り、海の塩を感じられる爽やかな香りだ。
 それにハーブとしても親しまれているセージの香りが混ざる。

 この香りもジョン・アルクールの中で人気のある香りで、男女ともに使えると評判だ。

「うん、これ好きかも」

「よし、それじゃあボディクリーム塗っちゃって」

 香澄はご機嫌になり、自分はネクタリンブロッサム&ハニーのボディクリームをペタペタと体に塗り、伸ばしていく。

「いいの? これ高い奴でしょ」

「いいよ、どうぞ使って。佑さんが初孫を喜ぶお爺ちゃんみたいに、色んな化粧品を揃えてくれたの。ジョン・アルクールは佑さんのお気に入りブランドっていうのもあるけど、私が来てから『気分で色々使えるように』ってコンプしちゃった。でも私は好きになったらそればっかりだから、普段使う香りって決まっちゃうんだよね」

「初孫……」

 麻衣がぶふっと噴きだし、「それじゃあ、遠慮なく」とボディクリームを体に塗っていく。

「香澄、偉いよね。前に教えてもらってから、私もボディケア始めてみたけど、面倒臭いわぁ」

「あはは、私も最初は面倒臭かった。暖房効いてるとはいえ湯冷めしちゃうしね。でも頑張ると褒めてくれる人がいるから、頑張れる……かな?」

「御劔さんに撫で回されてそう」

「あはは……」

 図星を突かれ、香澄は誤魔化し笑いをする。

 二人ともボディクリームを塗り、サッと服を着る。

 それからドライヤーと歯磨きを交代でして、すべてのケアが終わる。

「麻衣……、あのさ」

「ん?」

 一つ気に掛かっている事があり、おずおずと尋ねようとする。

「あの……、気にしすぎだったら恥ずかしいんだけど……」

「なに? 何でも言ってみな?」

 いつもの麻衣に勇気をもらい、香澄はえいっと不安を口にした。

「わ、私、嫌みっぽくないかな? 自分では札幌時代のままのつもりなんだけど、佑さんといると金銭感覚や価値観がバグってきちゃうの。時々、高級品を普通に使ってる自分に『あれっ』ってなる。もし直したほうがいいって思うなら、そうしたい」

「あー、それ?」

〝それ〟と言ったという事は、麻衣も心当たりがあるのだ。
 香澄はキュッと唇を引き結んで覚悟する。

「気にしなくていいんでない?」

「へっ?」

 だが予想外に肯定され、間抜けな声が出る。

「生活レベルが上がると、食べ物も服も身につける物も値段が上がるのは、普通だと思うよ?」

「そう……かな?」

 香澄は自信なさげに尋ねた。
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