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第十八部・麻衣と年越し 編

新年の予定

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「私、部屋に戻るから、香澄はちょっと寝な。仕事納めしてすぐに私がきて、あちこち連れて歩いてくれて、疲れてるんじゃない? サービスしてくれるのはありがたいけど、初売りイベントの仕事もあるし、休むのも大切だよ」

「うん……。でも……」

「私はお上りさんだけど、子供じゃないからね。放っておいても大丈夫なの。気を遣わなくていいよ。もう少しリラックスして、今は休みな」

「ん……」

 何か言いたかったのだが、横になるとドッと疲れが押し寄せてしまった。

 滅多に会えない親友と沢山話をしたいのに、気が付けば香澄はスゥッと眠りの淵に落ちてしまっていた。



**



(……あれ)

 目が覚めると、照明のついていない自室の天井が目に入る。

「ん……」

 モソリと起き上がった香澄の耳に、階下からの双子たちの声が入った。
 楽しそうに会話をしている様子から、麻衣と話しているのかもしれない。

「あれ?」

 ランチをたらふく食べて苦しかったはずなのに、随分体が楽だと思っていたら、いつの間にかブラジャーのホックが外されていた。

(……佑さんだな)

 ベッドに寝て、そのまま眠ってしまったのを覚えている。
 あの時は布団カバーの上から横になったのに、今は布団を掛けられている。

 起きたあと、ゆったりしたワンピースにレギンス姿になり、部屋の外にでた。





 佑の書斎に明かりがついていたので、ヒョコッと顔を覗かせてみる。

 彼はいつものようにブルーライト対応の眼鏡を掛けて、モニターに向かっていた。

「たーすくさん」

「ん? 起きたか」

「ベッドに寝かせてくれたの、佑さん?」

「ああ。麻衣さんが教えてくれて、力が足りないからって」

「…………面目ない」

 迷惑を掛けてしまったと溜め息をつくと、佑が手招きをした。

「ん?」

 トコトコと近寄ると、オフィスチェアに座っていた佑が「ん」と自分の膝の上をポンポンと叩いた。

「ちょっとだけね」

 のしっと佑の腰の上に向かい合わせに座ると、ギュッと抱き締められてこめかみにキスをされる。

「疲れたか?」

「ううん。お腹一杯で眠くなっちゃっただけ」

 佑は香澄の頭を撫でると一緒に、前髪を掻き上げてジッと目を見つめてくる。

「命令。明日と明後日は、何もせずゆっくり休むこと」

「うぅ……」

 何もしなくていい、と言われるのは逆に苦痛だ。

「元旦は家族が顔を見せにくると思う。御劔家の親族については遠慮してもらったけど、うちの家族は言う事聞かないから……」

「あぁ……」

 我が道を行くアンネたちを思いだし、香澄は納得する。

「佑さんのご親戚、ご挨拶しなくて失礼じゃないかな? 私が札幌にいるならともかく、東京にいるのに……」

「問題ないよ。事前に『アロクラの相手をする』って言ってある。一月中に親戚の家を訪れて少し挨拶をすれば、それで大丈夫だと思う」

「行くんだね? ちゃんとしないと」

「大丈夫。一時間ぐらい話したら次に行く」

「……せっかくの新年のご挨拶だから、次はちゃんとしたいな」

 これから佑と結婚するというのに、彼の親戚に不義理はしたくない。

「結婚したら嫌でも顔を合わせるから、大丈夫だよ。それに俺は子供の頃から、年によってはドイツで年越しもしてたから、毎年必ず元旦に挨拶しなきゃいけない訳じゃないんだ。だからもう少し気軽に考えていいよ」

「ありがとう。……それはそうと、ドイツの方々にご挨拶はしないの?」

 尋ねると佑は少し考える素振りを見せる。

「どうだろうな。特に連絡はないが……。いつも通り、ドイツで年末年始を過ごすんじゃないかな」

「クリスマスは、家族の絆を確かめ合う時だもんね」

 学んだので少し得意になって言うと、佑が微笑んで頷いた。

 あちらのクリスマスは二十五日が終わったから終わりではなく、年が明けてもしばらくクリスマスムードが続いているらしい。
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