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第十八部・麻衣と年越し 編

注意しておいたほうがいいんじゃない?

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 麻衣は一瞬動揺したものの、「やめときます」と首を横に振った。

「お二人って世界を股に掛けて働いていますよね? 拠点はドイツ? 幾ら話せるようになっても、考え方の違いがあると思いますし、環境の変化についていくので精一杯な気がします。私は給料が低いだの文句を言ってても、日本が好きですし安定した雇用を気に入っています。だから、冒険はしたくありません」

「マイはぶれないねぇ。カスミはすぐ動揺するのに」

 クスクス笑ったクラウスにからかわれ、香澄はジワッと頬を赤くする。

「あんまり香澄をいじめないでくださいよ。この子、すぐ何でも素直に反応するんだから」

「えー? それが面白いんじゃん」

(オモチャ……!)

 そこまで会話が進んだ時、佑が戻ってきた。

「お帰りなさい、佑さん。お話終わったの?」

「ああ。お礼を言ってきた。そろそろ出ようか」

「うん」

「タスク、会計は?」

「済ませてきた」

 サラッと会計済みだと言われ、双子は悔しがる。

(いつも思うけど、お金払えなくて悔しがるっていう人、珍しいな……)

 香澄はポンポンになったお腹をさすりつつ、コートを羽織る。

「佑さん、ご馳走様でした」

「御劔さん、ご馳走様です」

「はい、どうも」

 チェスターコートを羽織って微笑む佑は、いつも香澄より食べているのに、お腹周りがスッキリしている。
 無意識に自分のお腹に手を当てていたからか、佑が顔を寄せて囁いてきた。

「お腹、大丈夫か? 食べ過ぎた?」

「あ、だ、大丈夫、大丈夫」

 香澄はドキッとして、誤魔化し笑いをする。

 コートを着て移動している時、アロイスが麻衣に尋ねた。

「マイはタスクが雇うって言ったら東京来る? カスミと同じ職場だよ?」

「え? まだその話ですか? 香澄の近くにいられるのは魅力的ですけど、親友の旦那さんに雇われるってちょっと嫌です。友情が駄目になるとは思いませんけど、お金が絡む関係になりたくないです」

 双子はなぜか麻衣を転職させたがっているが、麻衣の考えは変わらない。

 オーナーに「ご馳走様でした」を言って店を出たあと、近くまで歩いてバナナジュースを買い、御劔邸に戻った。



**



 リビングでバナナジュースを飲んだあと、休憩する事にした。

 香澄は麻衣と一緒に部屋に行き、おしゃべりをしつつ社用スマホをチェックする。

 初売りイベントの会場設営は進んでいて、佑と香澄はTMタワーが休館になる元旦の夜に、イベントのリハーサルをして二日の本番を迎える。

 司会を頼んでいる芸能人や、イベントのショーに来てもらうアーティストも含め、段取りは完璧なはずだ。

 だが緊急の連絡がくる事も予想されるので、一応社用スマホを気にかけていた。

「ねーぇ? さっきのモデルいたじゃん?」

 ゴロゴロしながら麻衣が話題を振ってくる。

「ん? うん」

「私の考えすぎかもしれないけど、あの人、御劔さん狙ってない?」

「えぇ!?」

 香澄は声を上げ、デスクのチェアに座ったままグルッと回転する。

「何でそうなるの?」

「んー……。何となく。……あまりにタイミングが良すぎるって感じたんだよね。それに『この辺に好きな人が住んでる』なんて、できすぎじゃん」

「そ、そんなぁ……。不安にさせないでよ」

 香澄はベッドで寝ている麻衣の隣に座り、ツンツンとつつく。

「香澄を不安にさせたい訳じゃないよ。でもあんた、ぼんやりしているうちに何かが起こって、あとからあたふたするでしょ。嫌かもしれないけど、最初から注意しておいたほうがいいんじゃない?」

「そうだけど……」

 はぁ……と溜め息をつき、香澄はパフッとベッドに仰向けになる。

「ごめんね」

「ううん。麻衣はいつも私の事、心配してくれるもん」

 横になると、お腹が一杯なのも手伝って眠たくなってきた。

 目を閉じてウトウトしているのに気づいたのか、麻衣がポンポンと香澄の頭を撫でてきた。
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