1,147 / 1,544
第十八部・麻衣と年越し 編
彼は無職
しおりを挟む
(あっ、麻衣~!)
すると、それまで黙ってジャスミン茶を飲んでいたマティアスが口を開いた。
「先日から札幌の飲食店を検索していたが、なかなか美味い物が揃ってそうだな。特に寿司などの海鮮は美味そうだ。マイ、今度札幌に行ったら一緒に食事をしよう」
双子からの誘いをかわしたはずなのに、、今度はマティアスがグイグイ迫ってきて、麻衣は怖じ気づく。
「だってマティアスさん、仕事とかあるんでしょう? 遊びに来るって言っても……」
「大丈夫だ。今は無職だから、自由にマイと遊べる」
「「ぶふぉっ」」
堂々と無職だと言うマティアスに、双子がお茶を噴く。
「えぇ? マティアスさん、いま無職なんですか?」
「ちょ、ちょっと麻衣……」
香澄はツンツンと肘で麻衣をつつき、窘める。
「資産はあるし、配当金もあるから問題ない。前は秘書業をしていたが、理由があって退職した」
「あ……」
麻衣は彼が悪女のもとで働いていたと思いだしてハッとする。
「気にするな。前職の事はもうすべて清算がついている」
麻衣は一口お茶を飲み、フーッ……と息をつき、話題を変える。
「日本に住むつもりなんですか?」
「ああ。前からドイツを出て、別の国に住もうと思っていた。前職のボス関係で恨まれているから、とも言える。関係者は制裁を受けているとは言え、俺を恨んでいる者は多くいるだろう。恨まれているからと言って、気まずく思う気持ちはないが」
(マティアスさん、相変わらずマイペースでハートが強いな……)
香澄はちびちびとお茶を飲み、二人の会話を聞く。
「国にはこき使われた父がいる。だが今は父もクラウザー家の世話になり、心の平和と健康を取り戻している。最近は『仕事が楽しい』と言っていて安心している。母は病死して、ずっと父子家庭だった。だが父は前向きになった事で、最近いい人と出会えたと言っていた。だから俺は気兼ねなくドイツから離れたいと思っている。父は父の幸せがあり、俺には俺の幸せがある」
大人びた考えをするマティアスの言葉を聞き、麻衣は感心したようだった。
「それで、日本なんですか?」
「昔からフラウ・セツコと関わっていて、日本に憧れていた。社会人になって仕事やプライベートで日本に来るようになって、日本人や文化、食をもっと好きになった。個人的に日本食は世界で一番美味いと思っている。地震を体験した時は驚いたが、日本人は慣れている上に、建物の耐震構造もしっかりしている。治安もいいし、日本に住むのはアリだと思っている」
そこで香澄は、麻衣にマティアスを推そうと思って助太刀する。
「マティアスさん、とっても頭がいいんだよ。ちょっと前まで日本語話せなかったんだけど、短期間であっという間にペラペラになっちゃったの」
「へぇぇー!」
語学習得は難しいイメージしかないので、麻衣は感心して声を上げた。
「それにとっても強いんだよ。色んな能力が高いから、どこでも働けるんじゃないかなって思う」
「ふぅーん」
マティアスの印象が〝無職〟だとあまりに酷いので、香澄は懸命に援護をする。
そこでアロイスが口を挟んだ。
「ぶっちゃけ、ドイツで金持ち女の秘書をやるのに比べると、日本の企業で一からサラリーマンをやったらグンと収入減ると思うけどね」
「あー、確かに日本企業ってお給料が安いって言いますよね」
茶化しではなく冷静な分析だと思い、香澄は頷く。
「日本人の給料は新興国に比べると高いけど、先進国の中では低いよね。日本って個人の能力より、チームの力や和を重んじるでしょ? その結果、終身雇用や安定した雇用を理想とされてる」
アロイスのあと、クラウスが続ける。
「日本は年収五百万で終身雇用する社会。海外は年収一千万だけど、成績次第では一年しか雇用しない事もある社会だね」
その説明を聞き、麻衣が声を上げる。
「はぁー……。なるほど。どれだけ働いても大して給料上がらないワケだ。まぁ、でも安定してるのはいい事なのかなぁ」
麻衣は溜め息をつき、お茶をグイッと呷る。
と、アロイスが尋ねてきた。
「マイって何の仕事してんの?」
「食品を扱う会社の事務をやってます。小さい会社なので、雑務担当って言っていいですけど」
「語学研修を受けたあと、僕らのアシスタントとして雇ってもいいよ? もちろん、実力主義。その代わり、給料はとても高いよ」
クラウスがニヤッと笑い、試すような目で麻衣を見つめる。
すると、それまで黙ってジャスミン茶を飲んでいたマティアスが口を開いた。
「先日から札幌の飲食店を検索していたが、なかなか美味い物が揃ってそうだな。特に寿司などの海鮮は美味そうだ。マイ、今度札幌に行ったら一緒に食事をしよう」
双子からの誘いをかわしたはずなのに、、今度はマティアスがグイグイ迫ってきて、麻衣は怖じ気づく。
「だってマティアスさん、仕事とかあるんでしょう? 遊びに来るって言っても……」
「大丈夫だ。今は無職だから、自由にマイと遊べる」
「「ぶふぉっ」」
堂々と無職だと言うマティアスに、双子がお茶を噴く。
「えぇ? マティアスさん、いま無職なんですか?」
「ちょ、ちょっと麻衣……」
香澄はツンツンと肘で麻衣をつつき、窘める。
「資産はあるし、配当金もあるから問題ない。前は秘書業をしていたが、理由があって退職した」
「あ……」
麻衣は彼が悪女のもとで働いていたと思いだしてハッとする。
「気にするな。前職の事はもうすべて清算がついている」
麻衣は一口お茶を飲み、フーッ……と息をつき、話題を変える。
「日本に住むつもりなんですか?」
「ああ。前からドイツを出て、別の国に住もうと思っていた。前職のボス関係で恨まれているから、とも言える。関係者は制裁を受けているとは言え、俺を恨んでいる者は多くいるだろう。恨まれているからと言って、気まずく思う気持ちはないが」
(マティアスさん、相変わらずマイペースでハートが強いな……)
香澄はちびちびとお茶を飲み、二人の会話を聞く。
「国にはこき使われた父がいる。だが今は父もクラウザー家の世話になり、心の平和と健康を取り戻している。最近は『仕事が楽しい』と言っていて安心している。母は病死して、ずっと父子家庭だった。だが父は前向きになった事で、最近いい人と出会えたと言っていた。だから俺は気兼ねなくドイツから離れたいと思っている。父は父の幸せがあり、俺には俺の幸せがある」
大人びた考えをするマティアスの言葉を聞き、麻衣は感心したようだった。
「それで、日本なんですか?」
「昔からフラウ・セツコと関わっていて、日本に憧れていた。社会人になって仕事やプライベートで日本に来るようになって、日本人や文化、食をもっと好きになった。個人的に日本食は世界で一番美味いと思っている。地震を体験した時は驚いたが、日本人は慣れている上に、建物の耐震構造もしっかりしている。治安もいいし、日本に住むのはアリだと思っている」
そこで香澄は、麻衣にマティアスを推そうと思って助太刀する。
「マティアスさん、とっても頭がいいんだよ。ちょっと前まで日本語話せなかったんだけど、短期間であっという間にペラペラになっちゃったの」
「へぇぇー!」
語学習得は難しいイメージしかないので、麻衣は感心して声を上げた。
「それにとっても強いんだよ。色んな能力が高いから、どこでも働けるんじゃないかなって思う」
「ふぅーん」
マティアスの印象が〝無職〟だとあまりに酷いので、香澄は懸命に援護をする。
そこでアロイスが口を挟んだ。
「ぶっちゃけ、ドイツで金持ち女の秘書をやるのに比べると、日本の企業で一からサラリーマンをやったらグンと収入減ると思うけどね」
「あー、確かに日本企業ってお給料が安いって言いますよね」
茶化しではなく冷静な分析だと思い、香澄は頷く。
「日本人の給料は新興国に比べると高いけど、先進国の中では低いよね。日本って個人の能力より、チームの力や和を重んじるでしょ? その結果、終身雇用や安定した雇用を理想とされてる」
アロイスのあと、クラウスが続ける。
「日本は年収五百万で終身雇用する社会。海外は年収一千万だけど、成績次第では一年しか雇用しない事もある社会だね」
その説明を聞き、麻衣が声を上げる。
「はぁー……。なるほど。どれだけ働いても大して給料上がらないワケだ。まぁ、でも安定してるのはいい事なのかなぁ」
麻衣は溜め息をつき、お茶をグイッと呷る。
と、アロイスが尋ねてきた。
「マイって何の仕事してんの?」
「食品を扱う会社の事務をやってます。小さい会社なので、雑務担当って言っていいですけど」
「語学研修を受けたあと、僕らのアシスタントとして雇ってもいいよ? もちろん、実力主義。その代わり、給料はとても高いよ」
クラウスがニヤッと笑い、試すような目で麻衣を見つめる。
13
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる