1,147 / 1,548
第十八部・麻衣と年越し 編
彼は無職
しおりを挟む
(あっ、麻衣~!)
すると、それまで黙ってジャスミン茶を飲んでいたマティアスが口を開いた。
「先日から札幌の飲食店を検索していたが、なかなか美味い物が揃ってそうだな。特に寿司などの海鮮は美味そうだ。マイ、今度札幌に行ったら一緒に食事をしよう」
双子からの誘いをかわしたはずなのに、、今度はマティアスがグイグイ迫ってきて、麻衣は怖じ気づく。
「だってマティアスさん、仕事とかあるんでしょう? 遊びに来るって言っても……」
「大丈夫だ。今は無職だから、自由にマイと遊べる」
「「ぶふぉっ」」
堂々と無職だと言うマティアスに、双子がお茶を噴く。
「えぇ? マティアスさん、いま無職なんですか?」
「ちょ、ちょっと麻衣……」
香澄はツンツンと肘で麻衣をつつき、窘める。
「資産はあるし、配当金もあるから問題ない。前は秘書業をしていたが、理由があって退職した」
「あ……」
麻衣は彼が悪女のもとで働いていたと思いだしてハッとする。
「気にするな。前職の事はもうすべて清算がついている」
麻衣は一口お茶を飲み、フーッ……と息をつき、話題を変える。
「日本に住むつもりなんですか?」
「ああ。前からドイツを出て、別の国に住もうと思っていた。前職のボス関係で恨まれているから、とも言える。関係者は制裁を受けているとは言え、俺を恨んでいる者は多くいるだろう。恨まれているからと言って、気まずく思う気持ちはないが」
(マティアスさん、相変わらずマイペースでハートが強いな……)
香澄はちびちびとお茶を飲み、二人の会話を聞く。
「国にはこき使われた父がいる。だが今は父もクラウザー家の世話になり、心の平和と健康を取り戻している。最近は『仕事が楽しい』と言っていて安心している。母は病死して、ずっと父子家庭だった。だが父は前向きになった事で、最近いい人と出会えたと言っていた。だから俺は気兼ねなくドイツから離れたいと思っている。父は父の幸せがあり、俺には俺の幸せがある」
大人びた考えをするマティアスの言葉を聞き、麻衣は感心したようだった。
「それで、日本なんですか?」
「昔からフラウ・セツコと関わっていて、日本に憧れていた。社会人になって仕事やプライベートで日本に来るようになって、日本人や文化、食をもっと好きになった。個人的に日本食は世界で一番美味いと思っている。地震を体験した時は驚いたが、日本人は慣れている上に、建物の耐震構造もしっかりしている。治安もいいし、日本に住むのはアリだと思っている」
そこで香澄は、麻衣にマティアスを推そうと思って助太刀する。
「マティアスさん、とっても頭がいいんだよ。ちょっと前まで日本語話せなかったんだけど、短期間であっという間にペラペラになっちゃったの」
「へぇぇー!」
語学習得は難しいイメージしかないので、麻衣は感心して声を上げた。
「それにとっても強いんだよ。色んな能力が高いから、どこでも働けるんじゃないかなって思う」
「ふぅーん」
マティアスの印象が〝無職〟だとあまりに酷いので、香澄は懸命に援護をする。
そこでアロイスが口を挟んだ。
「ぶっちゃけ、ドイツで金持ち女の秘書をやるのに比べると、日本の企業で一からサラリーマンをやったらグンと収入減ると思うけどね」
「あー、確かに日本企業ってお給料が安いって言いますよね」
茶化しではなく冷静な分析だと思い、香澄は頷く。
「日本人の給料は新興国に比べると高いけど、先進国の中では低いよね。日本って個人の能力より、チームの力や和を重んじるでしょ? その結果、終身雇用や安定した雇用を理想とされてる」
アロイスのあと、クラウスが続ける。
「日本は年収五百万で終身雇用する社会。海外は年収一千万だけど、成績次第では一年しか雇用しない事もある社会だね」
その説明を聞き、麻衣が声を上げる。
「はぁー……。なるほど。どれだけ働いても大して給料上がらないワケだ。まぁ、でも安定してるのはいい事なのかなぁ」
麻衣は溜め息をつき、お茶をグイッと呷る。
と、アロイスが尋ねてきた。
「マイって何の仕事してんの?」
「食品を扱う会社の事務をやってます。小さい会社なので、雑務担当って言っていいですけど」
「語学研修を受けたあと、僕らのアシスタントとして雇ってもいいよ? もちろん、実力主義。その代わり、給料はとても高いよ」
クラウスがニヤッと笑い、試すような目で麻衣を見つめる。
すると、それまで黙ってジャスミン茶を飲んでいたマティアスが口を開いた。
「先日から札幌の飲食店を検索していたが、なかなか美味い物が揃ってそうだな。特に寿司などの海鮮は美味そうだ。マイ、今度札幌に行ったら一緒に食事をしよう」
双子からの誘いをかわしたはずなのに、、今度はマティアスがグイグイ迫ってきて、麻衣は怖じ気づく。
「だってマティアスさん、仕事とかあるんでしょう? 遊びに来るって言っても……」
「大丈夫だ。今は無職だから、自由にマイと遊べる」
「「ぶふぉっ」」
堂々と無職だと言うマティアスに、双子がお茶を噴く。
「えぇ? マティアスさん、いま無職なんですか?」
「ちょ、ちょっと麻衣……」
香澄はツンツンと肘で麻衣をつつき、窘める。
「資産はあるし、配当金もあるから問題ない。前は秘書業をしていたが、理由があって退職した」
「あ……」
麻衣は彼が悪女のもとで働いていたと思いだしてハッとする。
「気にするな。前職の事はもうすべて清算がついている」
麻衣は一口お茶を飲み、フーッ……と息をつき、話題を変える。
「日本に住むつもりなんですか?」
「ああ。前からドイツを出て、別の国に住もうと思っていた。前職のボス関係で恨まれているから、とも言える。関係者は制裁を受けているとは言え、俺を恨んでいる者は多くいるだろう。恨まれているからと言って、気まずく思う気持ちはないが」
(マティアスさん、相変わらずマイペースでハートが強いな……)
香澄はちびちびとお茶を飲み、二人の会話を聞く。
「国にはこき使われた父がいる。だが今は父もクラウザー家の世話になり、心の平和と健康を取り戻している。最近は『仕事が楽しい』と言っていて安心している。母は病死して、ずっと父子家庭だった。だが父は前向きになった事で、最近いい人と出会えたと言っていた。だから俺は気兼ねなくドイツから離れたいと思っている。父は父の幸せがあり、俺には俺の幸せがある」
大人びた考えをするマティアスの言葉を聞き、麻衣は感心したようだった。
「それで、日本なんですか?」
「昔からフラウ・セツコと関わっていて、日本に憧れていた。社会人になって仕事やプライベートで日本に来るようになって、日本人や文化、食をもっと好きになった。個人的に日本食は世界で一番美味いと思っている。地震を体験した時は驚いたが、日本人は慣れている上に、建物の耐震構造もしっかりしている。治安もいいし、日本に住むのはアリだと思っている」
そこで香澄は、麻衣にマティアスを推そうと思って助太刀する。
「マティアスさん、とっても頭がいいんだよ。ちょっと前まで日本語話せなかったんだけど、短期間であっという間にペラペラになっちゃったの」
「へぇぇー!」
語学習得は難しいイメージしかないので、麻衣は感心して声を上げた。
「それにとっても強いんだよ。色んな能力が高いから、どこでも働けるんじゃないかなって思う」
「ふぅーん」
マティアスの印象が〝無職〟だとあまりに酷いので、香澄は懸命に援護をする。
そこでアロイスが口を挟んだ。
「ぶっちゃけ、ドイツで金持ち女の秘書をやるのに比べると、日本の企業で一からサラリーマンをやったらグンと収入減ると思うけどね」
「あー、確かに日本企業ってお給料が安いって言いますよね」
茶化しではなく冷静な分析だと思い、香澄は頷く。
「日本人の給料は新興国に比べると高いけど、先進国の中では低いよね。日本って個人の能力より、チームの力や和を重んじるでしょ? その結果、終身雇用や安定した雇用を理想とされてる」
アロイスのあと、クラウスが続ける。
「日本は年収五百万で終身雇用する社会。海外は年収一千万だけど、成績次第では一年しか雇用しない事もある社会だね」
その説明を聞き、麻衣が声を上げる。
「はぁー……。なるほど。どれだけ働いても大して給料上がらないワケだ。まぁ、でも安定してるのはいい事なのかなぁ」
麻衣は溜め息をつき、お茶をグイッと呷る。
と、アロイスが尋ねてきた。
「マイって何の仕事してんの?」
「食品を扱う会社の事務をやってます。小さい会社なので、雑務担当って言っていいですけど」
「語学研修を受けたあと、僕らのアシスタントとして雇ってもいいよ? もちろん、実力主義。その代わり、給料はとても高いよ」
クラウスがニヤッと笑い、試すような目で麻衣を見つめる。
13
お気に入りに追加
2,544
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる