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第十八部・麻衣と年越し 編

ランチの支度

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「キャリアを重んじる人は、やはり有名レストランで勤務したいと思うでしょうね。私は自分の作った物を、欲してくださる方に届けられたらと思っていました。なので御劔さんから声を掛けて頂けた時は、渡りに船でした」

 手を動かしながら、さらに麻衣は質問する。

「御劔さんの家政婦をしていて『良かったな~』って思う事はあります?」

「家族サービスができるよう、勤務時間を考えて頂けたのは感謝していますね。子供が小さい時は何かあった時、柔軟に対応して頂けました」

「あー、御劔さんはそういうところ、優しそうですよね」

 香澄は麻衣と斎藤が佑を褒めてくれているのが、嬉しくて堪らない。

「あとは生々しい話ですが、お給料でしょうか。キャリアクラスからは外れたので、バリバリ稼ぐというほどではありません。一般に家政婦をしている方は、掛け持ちが当たり前です。そんな中で私は、御劔さんのお宅一軒を担当して、夫の給料も合わせてそこそこいい暮らしができているので、ありがたく思っています」

 佑が雇うなら……、と香澄も麻衣も納得してうんうん頷いている。

「斎藤さんはここで、今まで修行した事を存分に発揮している感じなんですね」

「そうですね。たまに本格的なフレンチをご所望の時もありますし、和食にも中華にも対応しています。御劔さんから頂くお給料は、ただの家政婦には多すぎるほどです。お掃除は別の方に任せていますし、私は料理中心で働かせて頂いています。お給料に見合うため、時間があれば技術を上げるために勉強会に参加していますし、料理だけでなく、テーブルウェアも勉強していますね」

「なるほど!」

「それに御劔さんの家政婦をしていると、毎日のように高級食材に触れるので、いかに無駄にしないか、美味しく作るかで、日々真剣勝負です」

「はぁ~、そりゃあ伊勢海老とかA5ランクの肉を普通に食べてるなら……ねぇ」

 そう言って麻衣は香澄のお腹をつつき、二人でケタケタ笑う。
 笑っていると、上から佑が下りてきて「首尾はどうだ?」とキッチンを覗いた。

「タスクー、そろそろランチだけど、どうする? 僕、チャイニーズ食べたいな」

 クラウスに言われ、佑は香澄と麻衣に「どうする?」と問いかけてきた。

「中華いいですね! 香澄は?」

「うん、食べたい! 近所に中華レストランあったよね?」

「ああ。何とか席を確保できないか、連絡してみる」

 そう言って佑はスマホを片手に玄関に向かう。
 双子は「イエーイ」とハイタッチしていた。

「貴恵さん、お手伝い途中になっちゃいますけど、帰ってきたらまたやりますから」

「いいえ。どうぞのんびり楽しんでください。私も一区切りついたら、昼休憩を取らせて頂きます」

 香澄は麻衣と一緒に手を洗ってから二階に上がり、出掛ける準備をした。

「香澄ー? どんな服着る? スカート? ズボン?」

 部屋で服を脱ぎ始めるとすぐに麻衣が着て、服装を確認してくる。

「え? 私はあったかさ重視で、ワンピースの下にレギンスかな? なんで?」

「いや、御劔さんが予約するお店だったら、服装考えないと……って思って」

「なんもなんも、大丈夫だよ。高級ホテルのレストランとか、星のつくレストランならまだしも、近所のレストランだし……。多分……大丈夫……?」

 言われて、近所のレストランと言っても白金台にあるので、どうにも怪しい。

「……佑さん、どこのお店に行くつもりだろう?」

 香澄も近所のレストランのグレードについて詳しくなく、急に不安になってきた。

「ちょっと聞いてくるね」

 香澄は脱いだスキニーをズボッと引き上げて穿き直し、「佑さーん」と階段を駆け下りようとする。

「ん? どうした? こっち。二階」

 すると二階から声がし、香澄は慌てて階段を駆け上がる。

「お店ってどこ行くの? 服装どうしたらいい? グレードは?」

「テレビでアッパーダウンがゲストと食べ歩きする番組で、いのり姉妹と来店した感じかな」

 今やお笑い界の重鎮となっているアッパーダウンと、セレブ巨乳美女姉妹の名前が出て、香澄は内心「ギャッ」となる。

「だ、だだだ駄目だ、麻衣。駄目! バツ! 敗訴!」

 様子を見に来た麻衣に向かって、香澄は両腕で大きくバツを作る。

「えぇっ?」

「アッパーダウンと祈姉妹が行ったお店だって」

「へっ? そ、そんなのどうすれば……。私、普通の服しか持ってきてないよ? 昨日のホテルでさえ、気を遣ったのに」

 廊下で二人であわあわしていると、佑が会話に加わる。

「別にそんなに気を遣わなくていいじゃないか。ジーンズ以外のアイテムだって持ってきてるだろう?」

「そうですけど……」

「どれ。一緒に手持ちのアイテムを見てみようか」

「いいんですか?」

「いいも何も」

 佑はヒラヒラと手を振り、一緒に麻衣の部屋に入った。
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