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第十八部・麻衣と年越し 編

東京観光そしてアフターヌーンティー

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「どう? タスク。予約した店そっちのけで、買い食いで『うまい、うまい』って言われて」

 クラウスが佑の肩に肘をのせて絡んでくる。

「どうって……。香澄が『美味い』って言ってるなら、それに越した事はない」

「お前、一緒に東京に住んでるのに、ろくに東京のいい所を体験させられてないんじゃないか?」

 アロイスも反対側からのしっと肘をのせてきて、非常に居心地が悪い。
 しかも「そんな事はない」と強く言えないので始末が悪い。

 香澄が東京に来てから、行きたい場所はないか聞いているのだが、彼女はいつも我が儘を言ってくれない。
「佑さんが人混みの中に出たら大変だから」と言って遠慮するのだ。

 だが双子に責められ、「香澄がそう言っていたから」と言い訳するのは違う。

 結局、香澄の意見を尊重するふりをして、望んでいたものを与えられていなかった。

 黙ってしまった佑を見て、双子は意地悪くニヤニヤ笑う。

「婚約者なら、ああいう眩しい笑顔を引きだしてこそなんじゃないの~?」

「そうそう。幾ら親友が相手とはいえ、婚約者が引けを取ってはね~」

 両耳から双子の呪い……もといからかいが、スピーカーのように耳に入り込んでくる。

「やめてくれ」

 げんなりとした佑は双子を振り払い、周囲からスマホのカメラを向けられるのを感じ、さらに溜め息をついた。





 その後、予定通り築地の寿司屋に入り、香澄は麻衣と一緒に高級寿司を満足いくまで堪能した。

 店を出たあと、双子が「銀座の寿司屋に比べたらリーズナブルだったね」と言ったのを耳にする。

(普段、佑さんが連れてってくれるお店は、どれだけ高級なのかな……)

 そう思い、怖くなって考えるのをやめた。



**



 腹を満たしたあとは、築地市場のすぐ近くにある築地本願寺にお参りをした。

 そのあとぶらりと歩きながら、歌舞伎座や銀座の街並みを通って有楽町駅まで向かう。

 さらに一駅歩いて東京駅まで行って記念撮影をすると、アフターヌーンティーを予約してあるからと、日比谷にあるザ・エリュシオン東京に向かった。

 皇居を眼下に楽しめるいつものスイートルームに向かうと、麻衣が興奮して挙動不審になった。

「えっ? えぇっ? こ、こんな部屋、入っていいの? 香澄、怖い!」

「分かる、分かるよ!」

 きゃあきゃあ言っている二人を、双子はケラケラ笑って見ている。

 大きな窓ガラスに面した例のダイニングルームでは、もうすでにアフターヌーンティーの準備ができているようだ。

 一通りスイートルームを探険したあと、三段のティースタンドに載せられた宝石のように可愛らしいスイーツなどを写真に撮る。

 美味しい紅茶と一緒に楽しんでおしゃべりをすると、時間が経つのもあっという間だった。





 アフターヌーンティーを楽しんだあと、部屋でのんびりとくつろぎ、夕食はホテル内のステーキダイニングで肉を楽しんだ。

 そして御劔邸に戻り、着替えると全員でゴロゴロする。

「明日、とうとう三十日だね。晦日」

「麻衣、まだ行きたい所ある? 原宿とか渋谷とか行ってないけど」

「んー、どういう感じか見てみたい気持ちはあるけど、若者向けの店があって人が大勢いるんでしょ? 疲れそうだからそっちはいいわ。それに、昨日、今日でも男性陣が注目を浴びて大変だったのに、若者が集まる場所に行ったらパニック起こるんじゃない?」

「確かに……」

 今日行った築地は、原宿、渋谷に比べると、訪れる人の年齢層がやや上だ。

 もちろん佑を見て反応する人たちはいたが、護衛たちが「撮影はご遠慮願います」と言うと、一応引いてくれる大人の対応はあった。

 それでも幾つになってもミーハーな人はいるし、隠し撮りされていたかもしれない。

 比べて若者の聖地に行けば、圧倒的なパワーがある。
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