上 下
1,132 / 1,544
第十八部・麻衣と年越し 編

一番好みかも

しおりを挟む
「女扱いされない」と諦めていたのに、マティアスの大きな〝男〟の手を感じて、今まで無視していた自分の〝女性〟を自覚させられた。

 ブワッと全身が熱くなり、変な汗を掻く。

 呆然としている間に個室の前まできていて、さすがに我に返った。

(双子さんにバレたら、絶対何か言われる)

 引き続き変な汗を掻きながら、さりげなくマティアスの手を離し、なるべく何事もなかったかのように個室に入った。



**



 麻衣とマティアスが戻ってきたあと、牛ヒレステーキを含む全八品の懐石コースが運ばれた。

 香澄と麻衣がデザートを頬張っている間、男性陣は例によって〝誰が払うかじゃんけん〟をしていた。

「……勝った人が払うって、変わってるね」

 麻衣がボソッと囁いてきて、香澄は苦笑いする。

「女の子にご馳走できるのが嬉しいみたい」

 あはは、と笑ってデザートの器を空にしてしまうと、香澄は手洗いに行こうかとバッグを手にする。

「あ、お手洗い?」

「うん」

「一緒に行く」

 麻衣と連れトイレがするのが懐かしく、香澄はクスクス笑う。

 そして男性陣に「少しお化粧直ししてきます」と断って個室を出た。





「ねぇ、さっきマティアスさんの用事、何だったの?」

 手洗いを済ませ、リップを直してから気になっていた事を尋ねると、麻衣が分かりやすく動揺した。

「わっ」

 麻衣の唇から口紅がはみ出て、彼女が悲鳴を上げる。

「も~……」

「ごめんごめん」

 そのあと麻衣は黙ってリップを直し、キャップを閉めると同時に溜め息をついた。

「……人生で初めて、『デートしてほしい』って言われた」

「嘘!? 本当!? やっっっっ……た……!!」

 香澄はぐっと両手を握り、中腰になってガッツポーズを取る。

「で、どうなの? 麻衣の気持ちはどうなの?」

 嬉しさのあまり、香澄は食い気味に聞いてしまう。
 すると麻衣ははにかんで言葉を迷わせたあと、両手でタオルハンカチを揉みくちゃにしながらポソポソと呟く。

「わ……分かんないよ。こんな事初めてだし、あんな外国人イケメンだよ? 今でも信じられなくて、何かのドッキリかと思ってる」

「麻衣が貯め込んでた〝男運ポイント〟はね、ここでドカンッと使われたんだよ」

「あっはは! 男運ポイント!」

 笑ってから、麻衣は「はぁ~……」と溜め息をついて鏡に映った自分の顔を見た。

「あんなイケメンに『デートしよう』って言われるなんて、思いもしなかった」

「麻衣はマティアスさんの事、どう思ってる?」

「文句なしに格好いいと思うよ。正直、御劔さんも含めた四人の中で一番好みかも」

「おお~……。で、個人的な感情は?」

「……あの人が香澄にした事については、思いっきり殴ったからもう蒸し返すつもりはない。彼は利用されただけなんでしょ?」

「うん」

 避けて通れない話題を出され、まじめに頷く。

「香澄がとっくに許しているなら、私も可能な限りそうしたい。今の感情は『お喋りじゃないけど、話したらクスッと笑える妙なユーモアのある人。多弁ではないからこそ、言葉に重みがある人』って思ってる。信用できそうとは感じてる」

「うん。私もそう思ってる。……で、恋愛対象になれそう?」

「うーーーーん……。あんまり突然過ぎて……。だって、釣り合わないでしょう?」

「何言ってるの? 私だって佑さんと釣り合ってないよ?」

 香澄は思わず声をワントーン上げる。

「あんたは色々努力してるじゃん。私は……何もしてないもの」

 香澄はグズついている麻衣を励ましたくて、懸命に訴える。

「私、それなりに努力はしてる。いつでもすんごい背伸びしてるの。私は生まれつきのお嬢さまじゃないし、プロポーションも良くない。上京して佑さんに支えてもらって、少し垢抜けたかもしれないけど、札幌にいた頃とベースは変わってないよ」

「うん……」

 珍しく、麻衣が香澄に言葉で押される。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。  だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。  二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?   ※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...