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第十八部・麻衣と年越し 編

面倒臭いね

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「あのね、この人たちといる時、自分でお金を払うのは諦めたほうがいいと思う」

「は?」

 訳が分からない顔をする麻衣に、香澄は丁寧に説明する。

「自分で言うのも気が引けるけど、佑さんは私のためなら出すお金を惜しまないの。私の親友がわざわざ東京に来たなら、全力で〝おもてなし〟をすると思う。佑さんがお店を選ぶなら、グレードも彼基準のお店になる。私たちが『割りカンさせて』なんて言えば、『好きな女性やその友達にもご馳走できない、不甲斐ない男と思われる』って傷つけてしまうの」

「……面倒臭いね」

 神妙な面持ちで言った麻衣に、香澄も真顔で頷く。

「そう。面倒臭いの。高いご飯をご馳走されるのって抵抗があるかもだけど、『しょうもない男のメンツのため』と思って、驕られてあげてほしいの。『ごちそうさまでした。美味しかったです』って言えばご機嫌になるから。さらに他にも食べたいものをリクエストすると、俄然張り切っちゃう」

 言い方がかなり雑だが、仕方がない。

「……本当? 『あとで何かで返せ』とか言わない?」

「……私は…………なるけど……。麻衣は、お客様だから」

 香澄は顔を赤くして挙手する。

 その姿を見て麻衣は内容を察し、手を叩いて笑い始める。

「なるほど! そうなってるのか! いやぁ、そうだよね!? 普通、やっぱり対価が必要になるよね? 帰ったら詳しく聞いていい?」

「惚気は聞いても仕方がないでしょー。もう。そういう事だから、彼らが何か買ってくれても、特に深く悩まないで」

「う、うーん……。ど、努力する……」

 結論が出たところで車が来て、ぞろぞろと乗車した。

 佑が予約した店は車で十分で、先に車で銀座まで行っていたマティアスは、直接向かっているらしい。
 やがてレストランが入っている金ぴかのビル前まで来ると、麻衣が爆笑しながら大興奮した。

「これ! テレビでもよく見るうんこビルじゃん!」

「そうだよ。うんこビル!」

 妙齢の女性が二人、うんこうんこと連呼してケラケラ笑う姿を見て、佑と双子もつられて笑う。

 一頻り笑ったあと、麻衣はスマホで金色のうんこ……もといビルの屋上についているオブジェと、その横にある金ぴかのビルを写真に収める。

「何でうんこなの?」

 そもそもの質問をされ、香澄は東京観光に来た来賓に、説明するために仕入れた知識を披露する。

「ここはアカツキビールの本社で、金色のこれは聖火台の炎を表しているんだって。〝フラムドール〟って呼ばれていて、社員たちの燃える心を表しているの。フランス人の有名なデザイナーさんが設計したものなんだよ」

「へぇ~。聖火台なら、縦になっててもいいのにね?」

 麻衣の言う通り、縦になっていれば燃えている火だと言われても納得できる。

 しかしビルの屋上にヒョロッとしたものが横たわっているので、初見の人は「ん?」となりがちだ。

「噂だと『もともとは縦だったけど、強風で倒れたら危ないから横にしてほしいと言われた』説とか、色々あるらしいけど、最初からデザインは金色で横向きだったみたいだよ」

「ふーん。デザイナーのみぞ知る、か」

 最初は形を見て笑っていた麻衣だったが、香澄に教えてもらった事を聞いて感心している。

「そろそろ中に入ろうか」

「あ、はーい」

 佑に言われてビルに入り、エレベーターで二十一階に向かう。

 と、クラウスが話しかけてきた。

「僕らも、うんこビルだって聞いてたから、説明を聞けて良かったよ」

「ありがとうございます。会社にいらっしゃった取引先の方の、奥様やお子様の東京観光のお付き合いをする事があるんです。そういう時のために、定番スポットの情報などは頭に入れるようにしています」

「へぇ~、秘書っぽい」

「秘書ですから」

 にっこり笑った香澄を、麻衣が「たのもしーい」とはやし立ててきた。

 和食レストランに入ると個室に通された。

 そこにはすでにマティアスがいて、掘りごたつに座っている。
 テーブルには、人数分の盆や箸が用意されてあった。

「すごい景色だね」

 麻衣が感嘆の声を上げると、佑が女性陣に席を示した。
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