上 下
1,119 / 1,544
第十七部・クリスマスパーティー 編

香澄の仇

しおりを挟む
 だから彼らがどんなにいい人でも、一度決めた事だけは覆すつもりはなかった。

 香澄が「許す」と言ったなら、相応に良いところのある人たちだろうとは思っていた。

 甘ちゃんな親友は、自分を犠牲にして他人を優先してしまう悪癖がある。

 それでも、自分に加害する相手には、「付き合えない」ときちんと線引きできると信じていた。

 その香澄が「話し合って解決したし、本当はいい人だからこれからも付き合っていきたい」と言うなら、彼女の主張通りなのだろう。

 けれど麻衣は、自分だけは最後の最後まで香澄のために戦おうと決めていた。

 彼女が許してしまった分、親友の自分はきちんと「ノー」を示す。

 香澄がゆるゆるの基準で見逃した事を、「あんたらがやった事は、最低の事だ!」とちゃんと分からせたい気持ちがあった。

(実際会ったら、面白いイケメンだもんな。明るくて、ちょっとふざけ体質ではあるっぽいけど、〝悪い人〟には見えない。マティアスさんも真面目そうで〝そう〟見えない。……でも、この人たちは香澄を加害した)

 麻衣は自分に言い聞かせ、グッと目の奥に力を込める。

 目の前には、アロイスの綺麗な顔がある。

 乳白色の綺麗な肌をしていて、自分よりもきめが細かい。
 眉毛や睫毛まで金色で、鼻筋も高く、唇は何か塗っているかのように血色がいい。

 香澄の事がなければ、あまりのイケメンぶりに拝んでいたかもしれない。

 だが、イケメンとかミーハーな気持ちを持つ前に、この三人は香澄の仇だ。

「……いきます」

 平手を打つ用意をし、麻衣は呼吸を整える。

 小中高とバレーボール部で、打撃力には自信がある。

 それを彼らに言わないのは多少申し訳ないが、これは制裁なので謝るつもりもない。

 麻衣はスゥッと息を吸い、振りかざした手を思いきりアロイスの左頬に打ち付けた。

 バチィンッ! とすさまじい音がする。

 瞬間、アロイスは驚いて目をまん丸にし、素で痛がった。

「いってぇ! 何!? これ! すっげぇいてぇよ!? マイ、すげぇ!」

 勢いのまま三人を殴っておきたいので、麻衣はアロイスの反応を無視して、体育会系のノリで「次!」とクラウスに向かって手を振りかざした。

 バチンッ! バチンッ! と続けざまに大きな音が二回する。

 そのあと、全力で三人の頬を叩いた麻衣は、ジンジンと痛む右手を抱えていた。

 だがすぐ気を取り直し、三人に向き直る。

「以上、終わりです! あとはもう、何も恨み言は言いません。香澄を宜しくお願いします! これから一週間、私の事も宜しくお願いします!」

 部活が終わったあとのようにきっちりと頭を下げた途端、双子がパンパンと手を打ち鳴らして笑い始めた。

「あーっははははは! すっげぇ! おもしれぇ! こんな全力で女の子に殴られたの、初めてだわ!」

「マイって何かスポーツやってた? すっげぇ威力! で、性格もさっぱりしてるね? すっげ。おもしれぇ。あー……、気に入ったわ」

「……一応、バレーボールやってましたけど」

「はぁ、どーりで」

 叩かれたというのに、クラウスはスッキリした表情で笑った。

 その時、香澄がリビングの出入り口にヒョコッと顔を覗かせた。



**



 少し前。

「大丈夫かな」

 麻衣に言われてとりあえず二階まで移動したあと、香澄は心配そうに佑に尋ねる。

「きっと私の事について怒ってくれてるんだと思うの。でも、もう終わった事だし、そんな怒らなくても……って思うんだけど」

 そう言うと、佑が微笑んだ。

「香澄は気持ちの整理がついていても、俺や麻衣さんはまだ心にしこりがあるんだよ。だから、好きにさせるしかない。でも彼女は筋の通らない事はしなさそうだ。あいつらに何か言って満足したら、あとはうまくやれるんじゃないかな」

 佑は香澄のために怒る麻衣に、好意を抱いているようだった。

「そんなもんなのかな……」

 呟いた時、他の人は全員一階にいるからか、佑が後ろから抱き締めてきた。

 そしてスンスンと匂いを嗅いでくる。
 そのまま手すりにもたれかかり、香澄の胸を手で包んでチュッチュッとキスをしてきた。

「ん、やぁ。……こら」

「麻衣がいるのに……」と思うけれど、ほんの少しのいちゃつきなら嬉しい。

 佑の吐息や温もりにうっとりと目を閉じようとした時――。

「一発殴らせろ! クソ野郎!」

 親友の大きな声がして、香澄は目をまん丸に見開いた。

「えっ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...