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第十七部・クリスマスパーティー 編
香澄の仇
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だから彼らがどんなにいい人でも、一度決めた事だけは覆すつもりはなかった。
香澄が「許す」と言ったなら、相応に良いところのある人たちだろうとは思っていた。
甘ちゃんな親友は、自分を犠牲にして他人を優先してしまう悪癖がある。
それでも、自分に加害する相手には、「付き合えない」ときちんと線引きできると信じていた。
その香澄が「話し合って解決したし、本当はいい人だからこれからも付き合っていきたい」と言うなら、彼女の主張通りなのだろう。
けれど麻衣は、自分だけは最後の最後まで香澄のために戦おうと決めていた。
彼女が許してしまった分、親友の自分はきちんと「ノー」を示す。
香澄がゆるゆるの基準で見逃した事を、「あんたらがやった事は、最低の事だ!」とちゃんと分からせたい気持ちがあった。
(実際会ったら、面白いイケメンだもんな。明るくて、ちょっとふざけ体質ではあるっぽいけど、〝悪い人〟には見えない。マティアスさんも真面目そうで〝そう〟見えない。……でも、この人たちは香澄を加害した)
麻衣は自分に言い聞かせ、グッと目の奥に力を込める。
目の前には、アロイスの綺麗な顔がある。
乳白色の綺麗な肌をしていて、自分よりもきめが細かい。
眉毛や睫毛まで金色で、鼻筋も高く、唇は何か塗っているかのように血色がいい。
香澄の事がなければ、あまりのイケメンぶりに拝んでいたかもしれない。
だが、イケメンとかミーハーな気持ちを持つ前に、この三人は香澄の仇だ。
「……いきます」
平手を打つ用意をし、麻衣は呼吸を整える。
小中高とバレーボール部で、打撃力には自信がある。
それを彼らに言わないのは多少申し訳ないが、これは制裁なので謝るつもりもない。
麻衣はスゥッと息を吸い、振りかざした手を思いきりアロイスの左頬に打ち付けた。
バチィンッ! とすさまじい音がする。
瞬間、アロイスは驚いて目をまん丸にし、素で痛がった。
「いってぇ! 何!? これ! すっげぇいてぇよ!? マイ、すげぇ!」
勢いのまま三人を殴っておきたいので、麻衣はアロイスの反応を無視して、体育会系のノリで「次!」とクラウスに向かって手を振りかざした。
バチンッ! バチンッ! と続けざまに大きな音が二回する。
そのあと、全力で三人の頬を叩いた麻衣は、ジンジンと痛む右手を抱えていた。
だがすぐ気を取り直し、三人に向き直る。
「以上、終わりです! あとはもう、何も恨み言は言いません。香澄を宜しくお願いします! これから一週間、私の事も宜しくお願いします!」
部活が終わったあとのようにきっちりと頭を下げた途端、双子がパンパンと手を打ち鳴らして笑い始めた。
「あーっははははは! すっげぇ! おもしれぇ! こんな全力で女の子に殴られたの、初めてだわ!」
「マイって何かスポーツやってた? すっげぇ威力! で、性格もさっぱりしてるね? すっげ。おもしれぇ。あー……、気に入ったわ」
「……一応、バレーボールやってましたけど」
「はぁ、どーりで」
叩かれたというのに、クラウスはスッキリした表情で笑った。
その時、香澄がリビングの出入り口にヒョコッと顔を覗かせた。
**
少し前。
「大丈夫かな」
麻衣に言われてとりあえず二階まで移動したあと、香澄は心配そうに佑に尋ねる。
「きっと私の事について怒ってくれてるんだと思うの。でも、もう終わった事だし、そんな怒らなくても……って思うんだけど」
そう言うと、佑が微笑んだ。
「香澄は気持ちの整理がついていても、俺や麻衣さんはまだ心にしこりがあるんだよ。だから、好きにさせるしかない。でも彼女は筋の通らない事はしなさそうだ。あいつらに何か言って満足したら、あとはうまくやれるんじゃないかな」
佑は香澄のために怒る麻衣に、好意を抱いているようだった。
「そんなもんなのかな……」
呟いた時、他の人は全員一階にいるからか、佑が後ろから抱き締めてきた。
そしてスンスンと匂いを嗅いでくる。
そのまま手すりにもたれかかり、香澄の胸を手で包んでチュッチュッとキスをしてきた。
「ん、やぁ。……こら」
「麻衣がいるのに……」と思うけれど、ほんの少しのいちゃつきなら嬉しい。
佑の吐息や温もりにうっとりと目を閉じようとした時――。
「一発殴らせろ! クソ野郎!」
親友の大きな声がして、香澄は目をまん丸に見開いた。
「えっ」
香澄が「許す」と言ったなら、相応に良いところのある人たちだろうとは思っていた。
甘ちゃんな親友は、自分を犠牲にして他人を優先してしまう悪癖がある。
それでも、自分に加害する相手には、「付き合えない」ときちんと線引きできると信じていた。
その香澄が「話し合って解決したし、本当はいい人だからこれからも付き合っていきたい」と言うなら、彼女の主張通りなのだろう。
けれど麻衣は、自分だけは最後の最後まで香澄のために戦おうと決めていた。
彼女が許してしまった分、親友の自分はきちんと「ノー」を示す。
香澄がゆるゆるの基準で見逃した事を、「あんたらがやった事は、最低の事だ!」とちゃんと分からせたい気持ちがあった。
(実際会ったら、面白いイケメンだもんな。明るくて、ちょっとふざけ体質ではあるっぽいけど、〝悪い人〟には見えない。マティアスさんも真面目そうで〝そう〟見えない。……でも、この人たちは香澄を加害した)
麻衣は自分に言い聞かせ、グッと目の奥に力を込める。
目の前には、アロイスの綺麗な顔がある。
乳白色の綺麗な肌をしていて、自分よりもきめが細かい。
眉毛や睫毛まで金色で、鼻筋も高く、唇は何か塗っているかのように血色がいい。
香澄の事がなければ、あまりのイケメンぶりに拝んでいたかもしれない。
だが、イケメンとかミーハーな気持ちを持つ前に、この三人は香澄の仇だ。
「……いきます」
平手を打つ用意をし、麻衣は呼吸を整える。
小中高とバレーボール部で、打撃力には自信がある。
それを彼らに言わないのは多少申し訳ないが、これは制裁なので謝るつもりもない。
麻衣はスゥッと息を吸い、振りかざした手を思いきりアロイスの左頬に打ち付けた。
バチィンッ! とすさまじい音がする。
瞬間、アロイスは驚いて目をまん丸にし、素で痛がった。
「いってぇ! 何!? これ! すっげぇいてぇよ!? マイ、すげぇ!」
勢いのまま三人を殴っておきたいので、麻衣はアロイスの反応を無視して、体育会系のノリで「次!」とクラウスに向かって手を振りかざした。
バチンッ! バチンッ! と続けざまに大きな音が二回する。
そのあと、全力で三人の頬を叩いた麻衣は、ジンジンと痛む右手を抱えていた。
だがすぐ気を取り直し、三人に向き直る。
「以上、終わりです! あとはもう、何も恨み言は言いません。香澄を宜しくお願いします! これから一週間、私の事も宜しくお願いします!」
部活が終わったあとのようにきっちりと頭を下げた途端、双子がパンパンと手を打ち鳴らして笑い始めた。
「あーっははははは! すっげぇ! おもしれぇ! こんな全力で女の子に殴られたの、初めてだわ!」
「マイって何かスポーツやってた? すっげぇ威力! で、性格もさっぱりしてるね? すっげ。おもしれぇ。あー……、気に入ったわ」
「……一応、バレーボールやってましたけど」
「はぁ、どーりで」
叩かれたというのに、クラウスはスッキリした表情で笑った。
その時、香澄がリビングの出入り口にヒョコッと顔を覗かせた。
**
少し前。
「大丈夫かな」
麻衣に言われてとりあえず二階まで移動したあと、香澄は心配そうに佑に尋ねる。
「きっと私の事について怒ってくれてるんだと思うの。でも、もう終わった事だし、そんな怒らなくても……って思うんだけど」
そう言うと、佑が微笑んだ。
「香澄は気持ちの整理がついていても、俺や麻衣さんはまだ心にしこりがあるんだよ。だから、好きにさせるしかない。でも彼女は筋の通らない事はしなさそうだ。あいつらに何か言って満足したら、あとはうまくやれるんじゃないかな」
佑は香澄のために怒る麻衣に、好意を抱いているようだった。
「そんなもんなのかな……」
呟いた時、他の人は全員一階にいるからか、佑が後ろから抱き締めてきた。
そしてスンスンと匂いを嗅いでくる。
そのまま手すりにもたれかかり、香澄の胸を手で包んでチュッチュッとキスをしてきた。
「ん、やぁ。……こら」
「麻衣がいるのに……」と思うけれど、ほんの少しのいちゃつきなら嬉しい。
佑の吐息や温もりにうっとりと目を閉じようとした時――。
「一発殴らせろ! クソ野郎!」
親友の大きな声がして、香澄は目をまん丸に見開いた。
「えっ」
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