上 下
1,108 / 1,544
第十七部・クリスマスパーティー 編

焼き肉

しおりを挟む
(麻衣のための部屋、二階に用意できて良かった。……一緒に寝てもいいって言ってくれるかな。遅くまでおしゃべりしてたい)

 香澄はチョレギサラダをつつきつつ、顔のにやつきを止められずにいる。

「赤松さん、もうニヤついてるの? 酔うの早くない?」

 話しかけてきたのは、目の前に座っている生島だ。

 生島は佑ともよく話すため、先手必勝と言わんばかりに佑の近くの席をもぎとったらしい。そこは流石、営業のエースだ。

 生島の周りにいるメンツも、彼が普段絡んでいる営業のやり手たちで、いわゆる〝クラスの目立つ系〟のオーラを漂わせている。

「え、いえ。仕事納めが嬉しいなーって」

「あ、なーる。俺も明日から彼女と旅行だから、気持ち分かりますよ」

「旅行なんですね。どこに行くんです?」

「んー、九州です。博多でうまいもん食べたり、温泉入ったり」

「素敵です。楽しんできてください」

 ニコニコして言うと、生島が少し顔を寄せて囁いてきた。

「怪我は大丈夫ですか?」

 言われてからクリスマスイベントでの事を思い出し、そう言えば……となる。

 確かにあの時とても怖かったが、佑とホテルでイチャイチャし、たっぷり甘えた今は大分落ち着いた。

「はい、大丈夫です」

「……ならいいんですけど。気を付けてくださいよ? 赤松さんに何かあったら、冗談じゃなくこの会社、終わる気がしますから」

「そ、そんな事ありませんよ。社長は責任感のある立派な方ですし」

「セレブみたいな格好した赤松さんが、外国人の男をはべらせて高級レストランに入ったって話を聞いたんです。何をしても勝手ですが、頼みますよ?」

(う……!)

 言われたのはきっと、双子たちが来日した時、一緒にレストランに行った時の事だろう。

(だ、誰かに見られてたんだ……)

「ち、違うんです! あれは……!」

 そのとき佑が席に戻ってきて、「ん?」とわざとらしく香澄の隣に座ってくる。

 河野は香澄の隣でゴッゴッと喉を鳴らして、ビールのジョッキを傾けていた。
 ちなみに松井は少し離れたテーブルで、自分と年の近い管理職と話をしている。

「あ、社長。お疲れ様です」

 生島が乾杯を求め、佑は「はい、お疲れ様」とジョッキを合わせた。

 テーブルには肉を焼く網があり、生島はもうシャツを腕まくりしている。

 やがて目の前にタン塩と塩ハラミの盛り合わせが運ばれてきた。

「わぁ、タン塩だ!」

 焼き肉の中でも特に牛タンが好きな香澄が声を上げ、佑にクスクス笑われる。

 そこで生島が尋ねてきた。

 そこで生島が尋ねてきた。

「あー、ホルモンとかハツとか、そういうのはちょっと馴染みがないかもです。カルビとか普通のお肉なら大丈夫なんですが、うちの母が内臓系を好まなくて、それで私もあまり食べ慣れていない感じですね」

「そういう親の味覚からの影響、ありますよね。あとは地域の馴染みもありますよね。俺の彼女が釧路出身なんですけど、実家に遊びに行った時、生のホッケを調理しててビックリしました。こっちでは生のホッケって馴染みがないんで」

「へぇ~! 私、札幌にいた時、生のホッケをフライにしたり煮付けにしてました」

「ホッケって言ったら、干物しかイメージがないですね。あと、北海道は回転寿司が美味いですねぇ」

「でしょう! 密かな自慢なんです」

「あと北海道って〝くき〟? ニシンの。あれ、見てみたいなーって何となく思ってます」

「渋いところきますね。ニシンの群来は今年の春も小樽沿岸にきたみたいですよ」

 地元ネタが続き、香澄はノリノリで話している。
 いっぽう佑は、二人の会話を聞きつつ香澄のためにタン塩を焼いていた。

「ニシンもあまり馴染みがなくて。にしん蕎麦しかイメージがありませんね」

「にしん蕎麦、京都のイメージが強いですけど、北海道でも郷土料理なんですよ。あと、私は生のニシンを手に入れたら三枚におろして、揚げて南蛮漬けにします」

「へぇ~。赤松さんって結構料理できる感じなんですね?」

「そんな事ないですよ。写真映えするようなのは全然できません」

 そこまで会話が進んだ時、佑が「はい、赤松さん。牛タン」と取り皿に焼けた牛タンを載せてきた。

「あ、ありがとうございます。社長」

「生島も、はい。河野も」

「すみません、ありがとうございます。社長」

 生島は自分が焼くつもり満々でいたのに、話に夢中になって佑にやらせてしまい、ばつの悪い顔をしている。

「……社長は〝やく〟のがうまいですよね」

 河野がボソッと茶々を入れる。

「誰がうまい事を言えと」

 佑は苦笑いをし、塩ハラミを焼き始める。

 生島は白米と一緒にタン塩をパクパクッと食べ、「社長、俺が焼き(育て)ます」と言ってトングを受け取った。

 会話を弾ませていると、とろ肉が出て、絶妙な脂身の入り具合に頬が落ちそうになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

処理中です...