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第十七部・クリスマスパーティー 編

報告

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 タオルをぬるま湯で濡らして絞り、ベッドルームに戻って香澄の体を清拭する。

 彼女がスヤスヤ眠っているのを確認してから、佑は端末を開いて急ぎの連絡がないか確認した。

 もう仕事納めになり、松井たちからも滅多な事で連絡は入らないと分かっているのに、こればかりは習性になっている。

(大丈夫なようだな)

 社用スマホを確認して息をつくと、水を求めてキッチンまで歩く。

 冷蔵庫を確認すると、頼んでおいた物があって思わず微笑んだ。

 とりあえず水のペットボトルを掴み、下着姿のままリビングに向かう。
 カウチソファに座って足を投げ出すと、水を飲んでから私用スマホを立ち上げた。

 学生時代の友人から連絡があり、年明けに都内で新年会をしないかという提案があった。

(真澄も一緒か。『婚約者も連れてこい』だと? ……嫌な予感しかしない)

 思わず顔をしかめるが、友人を無下に扱う訳にもいかない。

「……頭が痛い……」

 香澄を連れていけば、絶対彼女を巡って何かが起こりそうだ。

 この一年少しで香澄はとても魅力的な女性になった。

 本人は気づいていないが、すれ違う人の目を引いている。

 派手な美しさがある訳ではないが、磨かれたスタイルの良さや洗練された仕草に思わず目がいく。

 上質な服を着て、髪も毎週トリートメントを受けて天使の輪ができている。
 目はぱっちりと大きく、肌は真珠のようで唇はぽってりと色づいている。

 金と手間の掛かった美しさを、本人だけが自覚していない。

 彼女は押しに弱い性格なので、友人に何か求められれば一生懸命応えかねない。
 勿論、無理強いしないよう釘を刺すつもりだが、酒が入ったらノリでどんな話を振られるか分からない。

「……どこかに香澄をしまっておける場所はないのか」

 呟いて、思わず小さくなった香澄をケースに入れて携帯する……という妄想まで始め、「いやいや」と首を振る。

「はぁ……」

 この件は保留にするとして、次のメールを重たい気持ちで見る。

 差出人はガブリエルだ。

 彼からは週に一回、報告書を受け取っている。

 最初に雑談が入り、クリスマスにどう過ごしたかが書かれてあった。
 だが人嫌いの彼らしく、文書からも億劫そうな雰囲気が窺える。

 そのあと、区切り線から下は報告となる。

 内容はどのようにエミリアを虐めたとか、彼女が何を食べた、彼女がどんな話をしていたか……という観察日記だ。

「はぁ……」

 溜め息をつき、佑は一度スマホを置くと立ち上がり、またキッチンに向かった。

 そして冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、片手でプルタブを開けてゴッゴッと喉を鳴らして飲み干す。
 あっという間に一缶開け、また溜め息をつく。

 素面ではやっていられないと思ったが、ビール一缶では酔わない。

 暗い目でキッチン台の大理石を見つめたあと、「後回しにしても仕方がないか」と呟いてまたリビングに戻る。

 覚悟を決めて、またメールを開いた。

『最後に君が会った時より、彼女はずっと大人しくなった気がするよ。私の言う事を聞かなければ〝お仕置き〟をされると学習したからか、最近は食事の時も大人しく座ってくれる。黙ってさえいれば、彼女は人形のように美しいな』

 それでも、反省したかどうかはまた別の話だ。

 たとえ謝罪の意思を見せたとしても、佑は一生許す気持ちになれない。

 これはもう、エミリアに掛けられた呪いだと思っている。

 自分たちがフランスから離れた場所でいちゃついていても、その影にはエミリアが潜んでいる。

『先日のクリスマスには友人にも会わせたが、表向き〝いい所のお嬢さん〟として妻役をこなしてくれた。脅したとも言えるが、少しずつ調教はできていると思う』

「……そりゃあ、演技は得意だろう」

 思わず毒づいて、佑は目を眇める。

 自分も長年、エミリアの本性に気づかなかった。

 女好きの双子が彼女と性的な関係になっていなかったのは、幼馴染みだからだと思っていた。
 マティアスがあまり感情を表さないのも、元からそういう性格なのだと思っていた。

 まさか子供の頃から、感情を殺してエミリアに仕えていたから……とは思わなかった。

 自分も香澄も、コロッと騙された。

 あの美貌で誰にでも優しくすれば、誰もが彼女を〝美しく優しい女性〟と思うだろう。

「……社交界にどう説明したか……だが」

 ガブリエルはすべてを持っていながら、生い立ちと性癖ゆえに決まった相手を持たなかった。

 それが突然結婚したのだから、社交界は大騒ぎになっただろう。
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