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第十七部・クリスマスパーティー 編
〝分かってる〟のに何もないフリ
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「どうかしたか? 赤松さん」
「えっ? い、いえっ……。す、すみません……っ」
焦って前を向くと、佑がこちらを見て小さく笑っているのが分かった。
(うう……。恥ずかしい……)
香澄は体を火照らせ、冷や汗を垂らす。
(駄目、駄目。あとで裸になるのに、汗掻いたら駄目)
愛し合う前、当然シャワーか風呂には入る。
だが脱がせられた時に、汗の匂いがするのは絶対に嫌だ。
香澄はなるべくリラックスしようと思い、美味しかった朝食を思いだし始めた。
出社後、佑は年内最後の社内会議に出た。
香澄は社長秘書室で、「いつも通りです」という顔をして必死に過ごす。
松井の態度は変わらないのに、彼の動きや咳払いに、香澄は過敏なまでに反応していた。
やがて佑と河野が会議から戻り、香澄は時間を確認してランチ会食に向けて準備を始める。
「あ……あの。社長ですが……」
あとはコートを着て社長秘書室を出るだけ、という時になり、香澄は思いきって口を開く。
すると松井がいつものように柔和な笑顔で返事をした。
「はい、聞き及んでいます。社長は所用でランチ会食のあとは直帰されると。年末ですし、ゆっくりして頂きたく思っています。年内業務は終わっていますし、赤松さんもゆっくり休んでください」
「……は、はい……」
そこまで完璧にカバーされると、逆に居たたまれない。
そこで河野が会話に参加してくる。
「明日は飲み会ですね。飲まされるかもしれませんが、潰れないようにしてくださいね。赤松さんの側には社長が座るでしょうけど、人気者ですからあちこちのテーブルに移動すると思います。忘年会の席まで、赤松さんの面倒を見たくありませんから」
「大丈夫です。忘年会が終わったあとは札幌からくる友人を迎えに行くので、一杯程度しか飲みません」
しっかり頷き、香澄は腕時計を確認してコートを着た。
(……アイメイク落ちてない、リップよし、ファンデ……よれてない、よし)
香澄は鏡を見てメイクをチェックし、すぅっ……はぁ……と呼吸を整えてからバッグを手に歩きだした。
「それでは、ランチ会食後、直帰させて頂きます。お疲れ様でした」
二人に挨拶をし、香澄は社長室に続くドアをノックする。
「どうぞ」
佑の声がし、香澄は「失礼致します」と隣室に入った。
「社長、そろそろお時間ですが大丈夫ですか?」
「ああ、今行く」
そう言ったあと、佑はパソコンをシャットダウンさせ立ち上がる。
コートを着始める彼を見ると意識してしまい、恥ずかしくなって視線を外す。
(皆〝分かってる〟のに何もないフリをしているのが、恥ずかしい……)
じわじわと赤面しながら、香澄は佑と一緒に社長室を出てエレベーターに乗った。
「赤松さん、午後の準備はできてる?」
不意に佑が社長モードのまま、プライベートの予定について尋ねてきた。
(ええっ!? 何て答えたらいいの!?)
香澄は目をまん丸にしてまた固まり、パクパクと唇を喘がせる。
「じゅ、準備は…………。……えっと……。ば、万端です……????」
自分でも分からない言葉が口を突いて出て、言った側から混乱する。
すると佑がクツクツと笑い、余計に恥ずかしい。
佑は一歩香澄に距離を詰めると、壁に手をついて耳元に顔を寄せてきた。
「嬉しいよ。期待してる」
「っ…………」
その声だけで膝から力が抜けそうになり、香澄は懸命に足に力を入れる。
地下一階に着くまで、佑は香澄に触れはしないものの、顔を寄せたままずっと香澄の香りを嗅いでいた。
**
ランチ昼食は先方が指定した和食料理店になり、香澄は相手方の秘書と同様に同席し、佑たちと一緒に懐石コースを頂く。
相手は芸能事務所の社長三井で、佑も個人的に酒を飲む間柄だ。
もともと佑がメディアに露出し始めた頃から、自分の事務所に入らないかと誘ってきた人らしいのだが、佑は自分のマネジメントは自社で……と言って断ったらしい。
「えっ? い、いえっ……。す、すみません……っ」
焦って前を向くと、佑がこちらを見て小さく笑っているのが分かった。
(うう……。恥ずかしい……)
香澄は体を火照らせ、冷や汗を垂らす。
(駄目、駄目。あとで裸になるのに、汗掻いたら駄目)
愛し合う前、当然シャワーか風呂には入る。
だが脱がせられた時に、汗の匂いがするのは絶対に嫌だ。
香澄はなるべくリラックスしようと思い、美味しかった朝食を思いだし始めた。
出社後、佑は年内最後の社内会議に出た。
香澄は社長秘書室で、「いつも通りです」という顔をして必死に過ごす。
松井の態度は変わらないのに、彼の動きや咳払いに、香澄は過敏なまでに反応していた。
やがて佑と河野が会議から戻り、香澄は時間を確認してランチ会食に向けて準備を始める。
「あ……あの。社長ですが……」
あとはコートを着て社長秘書室を出るだけ、という時になり、香澄は思いきって口を開く。
すると松井がいつものように柔和な笑顔で返事をした。
「はい、聞き及んでいます。社長は所用でランチ会食のあとは直帰されると。年末ですし、ゆっくりして頂きたく思っています。年内業務は終わっていますし、赤松さんもゆっくり休んでください」
「……は、はい……」
そこまで完璧にカバーされると、逆に居たたまれない。
そこで河野が会話に参加してくる。
「明日は飲み会ですね。飲まされるかもしれませんが、潰れないようにしてくださいね。赤松さんの側には社長が座るでしょうけど、人気者ですからあちこちのテーブルに移動すると思います。忘年会の席まで、赤松さんの面倒を見たくありませんから」
「大丈夫です。忘年会が終わったあとは札幌からくる友人を迎えに行くので、一杯程度しか飲みません」
しっかり頷き、香澄は腕時計を確認してコートを着た。
(……アイメイク落ちてない、リップよし、ファンデ……よれてない、よし)
香澄は鏡を見てメイクをチェックし、すぅっ……はぁ……と呼吸を整えてからバッグを手に歩きだした。
「それでは、ランチ会食後、直帰させて頂きます。お疲れ様でした」
二人に挨拶をし、香澄は社長室に続くドアをノックする。
「どうぞ」
佑の声がし、香澄は「失礼致します」と隣室に入った。
「社長、そろそろお時間ですが大丈夫ですか?」
「ああ、今行く」
そう言ったあと、佑はパソコンをシャットダウンさせ立ち上がる。
コートを着始める彼を見ると意識してしまい、恥ずかしくなって視線を外す。
(皆〝分かってる〟のに何もないフリをしているのが、恥ずかしい……)
じわじわと赤面しながら、香澄は佑と一緒に社長室を出てエレベーターに乗った。
「赤松さん、午後の準備はできてる?」
不意に佑が社長モードのまま、プライベートの予定について尋ねてきた。
(ええっ!? 何て答えたらいいの!?)
香澄は目をまん丸にしてまた固まり、パクパクと唇を喘がせる。
「じゅ、準備は…………。……えっと……。ば、万端です……????」
自分でも分からない言葉が口を突いて出て、言った側から混乱する。
すると佑がクツクツと笑い、余計に恥ずかしい。
佑は一歩香澄に距離を詰めると、壁に手をついて耳元に顔を寄せてきた。
「嬉しいよ。期待してる」
「っ…………」
その声だけで膝から力が抜けそうになり、香澄は懸命に足に力を入れる。
地下一階に着くまで、佑は香澄に触れはしないものの、顔を寄せたままずっと香澄の香りを嗅いでいた。
**
ランチ昼食は先方が指定した和食料理店になり、香澄は相手方の秘書と同様に同席し、佑たちと一緒に懐石コースを頂く。
相手は芸能事務所の社長三井で、佑も個人的に酒を飲む間柄だ。
もともと佑がメディアに露出し始めた頃から、自分の事務所に入らないかと誘ってきた人らしいのだが、佑は自分のマネジメントは自社で……と言って断ったらしい。
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