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第十七部・クリスマスパーティー 編
思いがけない来客
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「社長も生島さんには感謝していると言っていました。……って、私から言うのも変な話なんですが」
「そうですか? なら良かったです。ホント、赤松さんはもうちょっと気を付けたほうがいいですよ。さすがにオフィス内なら大丈夫かもしれませんが、自社ビルとは言えどんな人が入ってくるか分かりませんから。ま、次の正月イベントは社長の側にいるか、オフィスで大人しくしてる事ですね」
「はい。気を付けます」
ペコリと頭を下げた香澄を見て、生島は松井と河野に視線を向けて二人にも会釈をする。
「じゃ、そろそろ戻ります」
「はい。ありがとうございました」
生島を見送ってから室内に戻り、「生島さんっていい人ですね」と思わず表情が緩む。
「彼は営業のエースらしいですが、やはり気が利くんでしょうね。個人的に話をしてもユーモアのある人だと思いますし、学生時代もきっと人気者だったと思います」
「ん? 河野さん、生島さんに憧れてますか?」
「いえ、私は自分を陰キャだと自覚していますから。陽キャに憧れても光を浴びすぎて消滅します」
よく分からない表現に、香澄は思わず笑う。
「そんな陰キャの私は、これからクリスマスライブ二日目を満喫して参ります。それでは、お先に失礼致します」
いつのまにコートを着てマフラーを巻いた河野は、ピッタリ三十度のお辞儀をしてから社長秘書室を出ていった。
「好きな事があるっていいですね」
「そうですねぇ」
松井とほのぼのと言ったあと、家で双子がぶーぶー言いながら待っていると思いだし、笑みを零す。
「私も家にお客様がいるので、そろそろ帰宅します」
「はい。お疲れ様です。私は昨日、妻とディナーを楽しんで少し胃が重いので、今日は妻が作ってくれた胃に優しい食べ物です」
「ふふ、素敵ですね」
香澄はパソコンの電源を落としてデスク周りを整頓したあと、隣室でコートとマフラーを身につけ、「お先に失礼致します」と頭を下げた。
コンコンと社長室のドアをノックすると、「どうぞ」と返事があった。
香澄は「失礼致します」と言ってドアを開ける。
「あっ……」
だが社長室には来客があり、香澄は慌ててマフラーを外そうとした。
M-techの社長、真澄がいたのだ。
「あぁ、香澄ちゃんいらっしゃい。入っていいよ」
気軽に話し掛けられ、香澄はおずおずと「いいんですか?」と尋ねる。
「赤松さん、仕事の話はもう終わったから、中に入って待っていていいよ」
ソファに座っていた佑にも言われ、香澄は「失礼致します」と再度頭を下げてから、マフラーを外す。
「いやいや、香澄ちゃん。本当に俺の用事は終わったから、マフラー取らなくていいよ」
お洒落髭をたくわえた真澄は快活に笑い、香澄に遠慮するなと手で制する。
「Chief Everyのアプリのアップデートが終わって、次に増やしたら良さそうなメニューとかを話し合っていたんだ。そのあと普通にクリスマスの事とか話してた。本格的な話し合いならちゃんとした場で話してるし、ホント気にしないで」
「はい」
テーブルの上を見るとお茶も出ておらず、香澄は「一言声を掛けてくれたら、すぐにお茶を出したのに……」と申し訳なくなる。
香澄の視線を見て察したのか、真澄が笑う。
「いや、お茶とかは俺が『いらない』って言ったからいいんだ。じゃあ佑、そろそろお暇する。あと二日だな。お疲れさん」
佑と真澄は立ち上がってトントンとお互い拳をぶつけ合い、真澄は「じゃあ」と足取り軽く社長室を出ていく。
「……社長。本当に一言くだされば」
「彼はもう仕事を切り上げたあとだし、これで良かったんだよ。さて、帰る支度をするから少し待っていてくれ」
佑はデスクに戻ってメールがないか確認し、パソコンをシャットダウンするとコートフックから黒いチェスターコートとえんじ色のマフラーを外し、身につける。
「秘書室は?」
「河野さんは先に上がりました。松井さんはまだ残っていますが、いつものように施錠確認をして帰宅されると思います」
「分かった」
佑はもう一度室内を確認したあと、「行こうか」と一緒に社長室を出る。
Chief Everyのオフィスはスマートロック化されていて、オートロックになったドアを、権限を持たせたICカードで開閉する事になっている。
佑はマスターキーを保有し、社長秘書は一般社員と同じ権限に加え、社長室のドアを開ける権限も持っている。
社員食堂やジムなどの共有スペースは、そこで勤める者が朝に大元になるカードキーで開く仕組みだ。
「そうですか? なら良かったです。ホント、赤松さんはもうちょっと気を付けたほうがいいですよ。さすがにオフィス内なら大丈夫かもしれませんが、自社ビルとは言えどんな人が入ってくるか分かりませんから。ま、次の正月イベントは社長の側にいるか、オフィスで大人しくしてる事ですね」
「はい。気を付けます」
ペコリと頭を下げた香澄を見て、生島は松井と河野に視線を向けて二人にも会釈をする。
「じゃ、そろそろ戻ります」
「はい。ありがとうございました」
生島を見送ってから室内に戻り、「生島さんっていい人ですね」と思わず表情が緩む。
「彼は営業のエースらしいですが、やはり気が利くんでしょうね。個人的に話をしてもユーモアのある人だと思いますし、学生時代もきっと人気者だったと思います」
「ん? 河野さん、生島さんに憧れてますか?」
「いえ、私は自分を陰キャだと自覚していますから。陽キャに憧れても光を浴びすぎて消滅します」
よく分からない表現に、香澄は思わず笑う。
「そんな陰キャの私は、これからクリスマスライブ二日目を満喫して参ります。それでは、お先に失礼致します」
いつのまにコートを着てマフラーを巻いた河野は、ピッタリ三十度のお辞儀をしてから社長秘書室を出ていった。
「好きな事があるっていいですね」
「そうですねぇ」
松井とほのぼのと言ったあと、家で双子がぶーぶー言いながら待っていると思いだし、笑みを零す。
「私も家にお客様がいるので、そろそろ帰宅します」
「はい。お疲れ様です。私は昨日、妻とディナーを楽しんで少し胃が重いので、今日は妻が作ってくれた胃に優しい食べ物です」
「ふふ、素敵ですね」
香澄はパソコンの電源を落としてデスク周りを整頓したあと、隣室でコートとマフラーを身につけ、「お先に失礼致します」と頭を下げた。
コンコンと社長室のドアをノックすると、「どうぞ」と返事があった。
香澄は「失礼致します」と言ってドアを開ける。
「あっ……」
だが社長室には来客があり、香澄は慌ててマフラーを外そうとした。
M-techの社長、真澄がいたのだ。
「あぁ、香澄ちゃんいらっしゃい。入っていいよ」
気軽に話し掛けられ、香澄はおずおずと「いいんですか?」と尋ねる。
「赤松さん、仕事の話はもう終わったから、中に入って待っていていいよ」
ソファに座っていた佑にも言われ、香澄は「失礼致します」と再度頭を下げてから、マフラーを外す。
「いやいや、香澄ちゃん。本当に俺の用事は終わったから、マフラー取らなくていいよ」
お洒落髭をたくわえた真澄は快活に笑い、香澄に遠慮するなと手で制する。
「Chief Everyのアプリのアップデートが終わって、次に増やしたら良さそうなメニューとかを話し合っていたんだ。そのあと普通にクリスマスの事とか話してた。本格的な話し合いならちゃんとした場で話してるし、ホント気にしないで」
「はい」
テーブルの上を見るとお茶も出ておらず、香澄は「一言声を掛けてくれたら、すぐにお茶を出したのに……」と申し訳なくなる。
香澄の視線を見て察したのか、真澄が笑う。
「いや、お茶とかは俺が『いらない』って言ったからいいんだ。じゃあ佑、そろそろお暇する。あと二日だな。お疲れさん」
佑と真澄は立ち上がってトントンとお互い拳をぶつけ合い、真澄は「じゃあ」と足取り軽く社長室を出ていく。
「……社長。本当に一言くだされば」
「彼はもう仕事を切り上げたあとだし、これで良かったんだよ。さて、帰る支度をするから少し待っていてくれ」
佑はデスクに戻ってメールがないか確認し、パソコンをシャットダウンするとコートフックから黒いチェスターコートとえんじ色のマフラーを外し、身につける。
「秘書室は?」
「河野さんは先に上がりました。松井さんはまだ残っていますが、いつものように施錠確認をして帰宅されると思います」
「分かった」
佑はもう一度室内を確認したあと、「行こうか」と一緒に社長室を出る。
Chief Everyのオフィスはスマートロック化されていて、オートロックになったドアを、権限を持たせたICカードで開閉する事になっている。
佑はマスターキーを保有し、社長秘書は一般社員と同じ権限に加え、社長室のドアを開ける権限も持っている。
社員食堂やジムなどの共有スペースは、そこで勤める者が朝に大元になるカードキーで開く仕組みだ。
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