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第十七部・クリスマスパーティー 編

『したい』を考えてごらん

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「俺たちぐらいの金持ちが一番ほしいのは時間なんだ。カスミが結婚して専業主婦になるとして、タスクと一緒に世界中を回ってエライ人とパーティーしたり、遊んだりしないとなんない。遊ぶのも仕事のうちなんだ。それを考えると、自宅で家事をする手間は、金を払って誰かにしてもらうのがベストだと思うよ」

 アロイスに言われ、香澄は「そうですね……」と甘めの白ワインを飲みつつ頷く。
 そんな彼女を見て、佑が言った。

「香澄が手料理を作ってくれるなら、一緒にしたいし、二人の時間を大切にしたい。でも『毎日やらなきゃ』と思うと負担になるだろう?」

 佑はそう言って、香澄の頭をポンポンと撫でてくる。

「その……。古い考え方かもしれないけど、ちゃんと家事をしないと、子供に〝お母さん〟って思われないかもとか、〝専業主婦〟ってなんだっけ? っていう気持ちになっちゃって」

「古い!」

 すかさず、クラウスが突っ込んできた。

「専業主婦っていうのが、そもそも古い考え方なんじゃないかな。僕らの国の女性は男性と対等に渡り合って働いてる。産休や育休も当たり前にとってるし、休暇をとるのも当然と思ってる。ドイツと日本を比べて、何が悪いって言いたいんじゃないし、カスミのムッティが専業主婦なのを悪いって言うんじゃない。ただ、タスクと暮らせば一般的な日本人の生活じゃなくなる。そこにまで、従来の〝当たり前〟を当てはめなくてもいいんじゃない?」

 クラウスにしては珍しく言葉を選びながら言う。
 それに佑が付け加えた。

「Chief Everyは社員に配慮した会社でいるつもりだ。その理念を作ったのは俺で、俺は香澄を家庭に押し込んで『ステレオタイプの専業主婦になれ』なんて言わない」

「う……うん」

 言われて、Chief Everyがホワイト企業であると思いだす。

 男性社員も気軽に育休を取っているし、オフィスの一角には企業内保育所もある。
 仕事は実力重視で、女性管理職はゴロゴロいる。

 古い考えから脱却し、常に時代の最先端を走りたいという佑の考えが、会社にも生かされている。

「そういう俺が、美味い料理を作って掃除をして、子供の面倒を見ていないと『母親じゃない』って言うと思うか?」

「……ううん」

 佑はそんな事を言わない。
 問題は香澄の固定概念だ。

 それを察したのか、佑は香澄のポニーテールを弄びつつ、穏やかな声で言い聞かせる。

「香澄の価値観や常識は、幼少期から形成されただろう。俺は香澄の考え方、ご両親の育て方や生きてきた環境を否定しない。でも俺たちがこれから築こうとしているのは、俺たちの家庭だよ? 誰を気にしなくてもいいんだ。お義母さんが香澄を愛情いっぱいに育てたのはとても尊い事だ。でもその当時と、香澄がこれから子供を産む時代とでは三十年近い時間が経っている。子育ても家庭のあり方も、アップデートしていていいんだよ」

「ん……」

 佑はコクンと頷いた香澄の頭を、よしよしと撫でてくれる。
 その時、赤ワインを飲んでいたアロイスが言った。

「カスミはもうちょっと言いたい事や、やりたい事のビジョンを明確に持つとハッピーになれるかもね。カスミって『人に迷惑を掛けたら駄目』『皆の模範にならないと』って考えて、自分で自分の首を絞めてるでしょ? ストレス溜まる一方だよ。『してはいけない』じゃなくて、『したい』を考えてごらん。俺たちを見なよ! なーんも我慢してない!」

 自信満々に言われ、香澄は「それもそうですね」と笑った。

「なんかありがとうございます。いつも励ましてくれて、怒らずに応援してくださる皆さんのお陰で救われています」

 そんな彼女の頭を、佑がよしよしと撫でる。

「人は……特に大人はすぐ変われない。長年の癖を注意されるようなものだ。急に『ポジティブになりたい』と言っても、すぐには変われない」

「……ん」

「そのままでもいい。けど、『少し生きづらそうだな』と思った時は、お節介ながら『こう考えてみたらどう?』って提案したい。俺は現状何も困っていないから、香澄は無理に自分を変えようとしなくていい。ただ、どうしたら楽しく過ごせるかを考えて、気が付いた時に考え方を変えてみる程度でいいよ」

「……うん。ありがとう」

 ほろ酔いの香澄は、ほんわりと微笑む。

 佑も、双子たちも優しい。
 何も言わないがマティアスだって見守ってくれている。

(いい人達だなぁ……)

 そう思った時、佑が壁時計を見て双子たちに言った。
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