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第十七部・クリスマスパーティー 編

帰宅、そしてうさぎ

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「ぼかすよ」

 アロイスは普段のおふざけを見せず、真剣にリップの境界をぼかしていく。

(贅沢だなぁ。プロのメイクさんにやってもらってるみたい。というか、イケメン三人にヘアメイクしてもらうって……。私、何様だろう)

 時々、我に返っては混乱しかける。

 自分はごく平凡な女なのに、どうしてこんないい目に遭っているのだろう、と。
 いつもなら、佑の側にいる時にハッとする事が多いのだが。

「よーし、OKかな? 飲み食いしたら落ちちゃうかもだけど、タスクに見せる分には上出来だろ」

 アロイスが明るい声で言い、クラウスと一緒に鏡を覗き込む。

「うんうん、可愛い。無造作ポニテも抜け感があって、隙のあるセクシーさだよね。で、このルームウェアのキュートさでしょー? ははっ、ぜってぇあいつ、やらしい目でカスミを見るね」

「そう! で、俺たちが一番に見た事をすっげぇ怒る」

 双子は頷き合い、ハイタッチをして拳をぶつけ合ったりだの一連のハンドシェイクをする。

 最初に双子に会ってから、この独特な儀式のような手の流れをずっと見て「何て呼ぶんだろう?」とずっと疑問に思っていた。

 けれど結局のところ、佑に聞くと「ハンドシェイクだよ」と言われるのだった。

「ハンドシェイク」と聞くと、普通に手を握る握手を想像する。

 だがそれも立派なハンドシェイクで、こちらの仲間内の特別なやり取りも、やはりハンドシェイクなのだそうだ。

「もういいですか? ありがとうございます」

 香澄はメイクや髪型のチェックをし、立ち上がって双子に頭を下げた。

「楽しかった! いじらせてくれてありがとね!」

「お礼はほっぺにキスだけで……、って、いまリップつけたばっかだった」

 アロイスが目だけで天井を仰ぎ、溜め息をつく。

「キスは遠慮しますが、何かお礼は考えておきますよ」

「OK、楽しみにしてる。そろそろ下いこっか。料理ができてるかもしれないし」

「つまみ食いはダメですよ?」

「カスミはムッティみたいだなぁ」

 香澄は三人と笑い合いながら、一緒にリビングに戻った。

 三人はベストにネクタイという姿なのに、自分だけルームウェアでどこか心許ない。

 だが満場一致でうさぎパーカーがいいと言う事なので、流れに任せておいた。



**



 そして十八時半に佑が帰宅した。

「おかえりなさい」

 どんな反応をするかな? とドキドキしつつ香澄が玄関ホールまで迎えに行くと、佑は「か……」と名前を呼びかけて笑顔のまま固まった。

「えっと……その。このルームウェアは以前から持ってて……」

 パーカーの裾をギュッと握って太腿を隠そうとする香澄は、自分がいかがわしいポーズを取っている事に気づいていない。

 佑の目はムチッとした太腿に釘付けになり、それからレッグウォーマーに包まれた膝下、パーカーのフードについているウサギ耳を見て……目を閉じ眉間を揉んだ。

 はぁー……と溜め息をついた佑を見て、香澄は「ダメか……」と心の中で項垂れる。

 チラッとリビングのほうを見ると、双子たちが物陰からこっそり覗いて、ニヤついていた。

「あ……あの。中、入ろうよ」

「……分かった。ひとまず話を聞こうか」

 佑は靴を脱いで家に上がり、香澄の手首を握って階段を上がっていく。

 佑はリビングの入り口でクスクス笑っている双子をジロッと睨んだが、特に相手にせず二階に上がっていった。





「えっと……」

「……うさぎか」

 佑は鞄を置き、溜め息をついてフードをピラリと摘まむ。

「ヘアメイクもいつもと違う気がするけど、もしかして双子にやってもらった?」

「……う、うん……」

 そこで佑は二回目の溜め息をついた。

「可愛い……けどさ。……自分の女に、他の男の手が入った俺の気持ちにもなってくれよ」

 コートとジャケットを脱いでハンガーに掛けた佑は、溜め息をついてソファに座る。

「……ごめんなさい」

 シュンと項垂れた香澄は、佑の膝の上に乗る。
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