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第十六部・クリスマス 編

三人を伴っての帰宅

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「へぇえ……。いきなり腰痛きたんだ? この十何分のうちに。ふぅーん」

「タスクが原因じゃないといーんだけどねぇ?」

「魔女の一撃か」

 そこにマティアスが参戦し、香澄は「え?」と首を傾げる。

 理解できていない香澄のために、アロイスがフォローする。

「マティアス、いきなりドイツの表現してもカスミは理解できないだろ」

「ドイツの表現?」

 佑はスマホで玄関の鍵を開けながら、香澄に説明した。

「ドイツだとぎっくり腰の事、〝魔女の一撃〟って言うんだよ」

「ふぅん……。……ふ、……ふふ……」

「あ、地味にウケてる」

 香澄は笑いながら玄関ホールの椅子に座り、靴を脱ごうとする。
 その前に佑が跪いて、自身の膝の上に香澄のふくらはぎをのせた。

「お腹一杯だろ」

 そう言ってパンプスを脱がせてくれるので、本当にサービス精神旺盛だ。

 香澄は食いしん坊と「勿体ない」根性で、つい食べ過ぎてしまう時がある。
 けれど食べ過ぎたと言うのは恥ずかしいので、いつも平気な顔をしている。

 だが佑はいつも、香澄の僅かな表情や、お腹をさする動作で腹具合を察している。
 そして苦しくならないように、細々とした事を手伝ってくれるのだ。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 香澄の礼に返事をしたあと、佑は客人に向かって言う。

「俺たちは着替えるから、お前たちは勝手に三階に行ってくれ。それぞれ割り振った部屋に荷物が置いてあるはずだ。三階なら自由に使っていいから、洗面所なりバスルームなり使ってくれ。ただし、二階は絶対にうろつくな」

「「へーい」」

「お邪魔します」

 とても軽く応じる双子に対し、マティアスは律儀に頭を下げて靴を脱いでいる。
 彼らは御劔邸の感想を口々に言いながら、先に階段を上がっていった。

「奴らには気を付ける事」

「うん」

 佑もいるので大丈夫とは思うが、心配性の彼にはしっかり返事をしておく。

 二階に上がったあと、香澄は自室でコートを脱ぎアクセサリーも外す。
 それからワンピースを丁寧に脱いで、ハンガーに掛ける。

 洗濯は、普段着は洗濯籠に入れておけば島谷が洗ってくれるのだが、ブランド物の服などは、専門のクリーニング店に任せているようだ。

 佑が作ってくれたこの一点物のワンピースについては、どうすべきかあとから彼に聞く事にした。

 客人がいるのであまりリラックスしすぎた格好は恥ずかしいので、Tシャツにスキニーに着替える。

 それから洗面所で、ポーイ・ドラテのクレンジングバームでメイクを落とす。

 スパチュラで白いバームを一塊取ると、両手で包んで温めるだけでどんどん乳化し、ミルク状になる。
 それを顔に丁寧に伸ばしていくと、メイクがスルスル落ちる。

 顔を洗ったあとの保湿力も高いので、リピート購入していた。

 お風呂はあらかじめ斎藤がお湯を沸かしてくれていたので、サッと入る事にする。

 考える事は沢山あるが、無心で髪を洗い、体も洗ってお湯に浸かって温まった。

 長時間外にはいなかったが、体が冷え気味になっていたのでお湯に浸かるとホッとする。
 ついでにふくらはぎや太腿を雑巾絞りをするように揉み、むくみを取る。

 風呂から上がり、拭き取り化粧水とブースター、化粧水、美容液、クリームを塗る。
 そして洗い流さないトリートメントを髪に揉み込み、ボディケアをする。

 最後はドライヤーで髪を乾かし、完成だ。

 部屋を出て佑の書斎を覗くと、部屋着になった彼が眼鏡をかけてデスクについていた。

「お風呂入ったよ」

「ああ」

「皆さんがリビングに来てもいいように、お茶か何か用意してるね」

「ん」

 佑の返事を聞き、香澄は階下に向かう。

(やっぱり眼鏡掛けてる佑さん、格好いいなぁ。あと、『お風呂入ったよ』のくだり、新婚みたい)

 香澄はニヤニヤするのを堪えながら、リビングにまだ誰もいないのを確認し、キッチンで水を飲んだ。

(夜だし、さっきコーヒー飲んだし、カフェインレスティーとかでいいかな?)

 ひとまずお湯を沸かしてティーカップを温めておく事にし、お腹一杯食べたあとだが、フルーツなら……と思ってラ・フランスを剥き始めた。

(一人一個で剥いてもいいよね? 余ったら食べるし……)

 ラ・フランスは大好物なので、ついつい食い意地の張った処理法を考えながら手を動かす。

 やがて足音がし、誰かが下りてきた。
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