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第十六部・クリスマス 編

謝りたい

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「麻衣なんですけど、色々話してしまったので、基本的にお三方にはいい感情を抱いていないかもしれません」

 双子は軽く瞠目し、マティアスは表情を変えない。
 申し訳なさそうにする香澄を、佑がフォローする。

「彼女は香澄の親友だし、当たり前だろう。俺は騒ぎになるぐらいなら、お前たちに出て行ってもらうと決めている。本来の客は麻衣さんだからな」

 そう言われ、双子は肩をすくめる。
 と、マティアスが口を開いた。

「俺はカスミの親友が怒って当然の事をした。だから謝りたい。謝ればすべて済むとは思っていない。だが誠意を見せたい」

「マティアスさん……」

 彼の想いに胸を打たれた時、双子も続いて言う。

「僕らも女の子とケンカはやだからね、スナオに謝るよ」

「『ネコと和解せよ』だっけ? ネットにそんな写真があったけど、和解が必要な人とは和解しておきたいよね」

 香澄は三人の気持ちに感謝する。

「ありがとうございます。……麻衣はほんっとうにいい子なんです。私からも喧嘩しないようにと言ってあります。でも私を思ってくれるがゆえに怒ってしまう可能性もあります。けど、できたら仲良くしてほしいです。あの子も喧嘩がしたくて東京に来るんじゃないので」

「分かってるよ。俺たちだって女の子とケンカしたくない。怒られる原因は俺たちが作ったんだし、マイちゃんの気が済むまで怒られるよ」

 アロイスが理解を示してくれ、香澄は息をつく。

 そのタイミングで魚料理の平目が出された。

 身はフワフワで、ナイフで切らずともフィッシュスプーンでほぐれてしまう。
 クリーム仕立てのソースにつけて食べると、とても優しい味がした。

「麻衣はハッキリしていますが、ずっとネチネチ怒らないです。だから一回和解すればきっと大丈夫だと思います」

「筋の通らない事は嫌いな子なんだろーね。そういう子、好きだよ」

 魚料理を食べるまで、それぞれの料理に合わせた白ワインを飲んでいたが、肉料理が出る前に赤ワインが出される。

 そのあと、メイン料理の和牛フィレ肉が出された。

 お上品に二切れだけだが、フルコースで食べているので、もうすでに満腹だ。
 赤ワインのソースと肉の赤身、そして添えられた冬野菜の色鮮やかさが綺麗だ。

「美味いか? 香澄」

「うん、美味しい」

 いつもなら「うまい!」と言っているところだが、ここは高級レストランなので上品に返す。

「そうだ。帰りの話だけど、タスクのトコの車ってこの人数乗れないよね?」

「というか、お前たちは自分の車で来いよ」

 クラウスの問いかけに佑はサラリと同乗拒否する。

「ちぇー。せっかくカスミの隣に乗れると思ったのに」

「まぁまぁ、クラ。これから十日間ぐらい同じ屋根の下で過ごせるんだからさ」

「それもそーだね。マイちゃんも楽しみにしとこっと」

 軽い調子で言うクラウスに、香澄は半ば呆れて忠告する。

「麻衣は私の大切な親友ですから、手を出したら許しませんからね」

 釘を刺す香澄を見て、双子はニヤニヤ笑う。

「それだけ大事にする女の子って言ったら、ガゼン興味沸いちゃうなぁ」

「アロ、クラ」

 佑からのストップが掛かり、双子は楽しそうに笑いつつ、ペロッとメインディッシュを食べてしまう。

「はぁ……。一つ一つはお上品な量なのに、けっこう満腹になるね?」

「次の料理を出すタイミングも計算しているからな」

「そうだね。前に佑さんと行った湯葉のお店もお腹一杯になったなぁ」

 腹部を手でさすりつつ、香澄は以前に佑と美味しい湯葉懐石コースを食べた時の事を思いだす。

「えー? カスミ、俺たちに黙って湯葉行ったの?」

「年明けたら全員で寿司懐石いこーよ。タスク、良さそうな店に都合つけといて」

 双子に決められ、佑は溜め息をついて「分かった」と頷く。

「こう言ったら図々しいかもだけど、何か高級料理を食べられたら、麻衣が喜ぶかも。佑さん、お願いします」

 けれど香澄に言われれば話は違う。

「よしきた。任せておけ」

 あからさまな対応の変化を見ても、双子は今さら呆れもしない。
 最後はデザートが運ばれてきた。

「カッコイイ!」

 バニラアイスとカットされた苺にベリーソースが掛かり、サックリと焼き上げたパイが芸術的に盛られている。

「はぁ……幸せ……」

 美味しいデザートを味わったあと、コーヒーでホッと一息つく。
 満腹で幸せで、ついでに少し酔っ払ってぽーっとしている香澄を、佑が覗き込んできた。

「満足したか?」

「うん……。しあわせ……」

 グラスに残っているシャンパンを飲み干し、香澄はまた息をつく。
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