上 下
1,028 / 1,550
第十六部・クリスマス 編

双子とマティアスが待つレストランへ

しおりを挟む
「ワンピースも、何もかも準備してくれてありがとう」

「いいや。着たい服があったかもしれないのに、俺が用意した物を着てくれてありがとう」

 バッグも仕事用の物から、佑が用意した物に貴重品だけ入れ替えてある。
 ラムレザーでできたチェーンショルダーバッグは、誰もが知るハイブランドの物だ。

「……うん、可愛い。世界一綺麗だ」

 佑は幸せそうに微笑むと、香澄の頬に唇を押しつける。

「佑さんも格好いいよ」

 佑はダークスーツの上に黒いチェスターコートを着て、グレンチェックのマフラーを軽く巻いていて、シンプルなのにどこから見ても完璧だ。

「ありがとう。香澄をエスコートするのに、俺が不抜けた格好をしていたらいけないからな」

 上品に微笑んだ佑は、香澄に褒められても調子に乗らず謙遜もしない。

 彼は世界中の人に「格好いい」と言われる人だ。

 加えてどんなアイテムや色が、自分を魅力的に見せるか熟知している。

 この上なくキメた彼が格好いいのは当たり前なのだが、驕ったところがないのは驚くべき事だし、そんな彼を改めて好きになる。

 やがてエレベーターは地下駐車場に着いた。

「お疲れ様です。これ、どうぞ」

 佑は警備員に、コートのポケットから出した缶コーヒーを手渡した。
 直立不動で立っていた警備員は、それを受け取って笑顔になる。

「ありがとうございます」

「すみません、御劔社長」

 お礼を言った二人に、佑は微笑みかけた。

「ささやかですが、これで体を温めてください」

「社長と赤松さんも、良い夜を」

 嬉しそうに笑う警備員に会釈をし、二人は車に向かう。
 車の前には小金井と小山内、呉代が待機していた。

「お疲れ様です。渋滞状況を調べましたが、ご予約の時間には間に合うと思います」

「お願いします」

 小金井に言って、佑は香澄を先に座らせ、自分はその隣に座る。
 すぐに全員乗ったあと、車が発進した。

「明日、クリスマスイベント当日だね」

 明日はTMタワーのホールでイベントが行われる。

 この日のためにイベント会社と計画を立てていた一大行事だ。
 佑も出るので警備員の数も大幅に増やし、万全に備えている。
 今日の業務も、ほとんどが明日のイベントの打ち合わせやリハーサルだった。

「没案になった、お立ち台の上からお菓子投げるの、餅まきみたいだよね」

 香澄がクスクス笑う。

 没になった案は、佑がラッピングされたアイシングクッキーを投げるというものだった。
 さすがに大勢いる状態で人がドッと押し寄せる事があるのはまずいので、それは没になった。

 しかし案としては面白い。

 佑も餅まきと言われ、ぶふっと笑う。

「餅まきって言うんじゃない」

「けど、佑さんからクッキーやマカロンをもらいたい女子は大勢いるだろうね。お餅でも。いっその事、ファンの事も考えてドームで餅まきやればいいのに」

「俺はアイドルか」

 佑に突っ込まれて香澄はケタケタ笑い、彼も笑う。

「司会者の芸能人の女の子、佑さんを見てうっとりしてたねぇ」

「…………ちょっと前まで学生だった子に興味はないよ」

 香澄がニヤニヤしてからかうと、佑は嫌そうな顔をして言い、逆にやり返す。

「お笑い芸人さんだって、香澄を見て鼻の下を伸ばしていたじゃないか」

「そんな事ないもん」

 そのやり取りを、助手席で呉代が「犬も食わねぇッスわ」と思っていたのを二人は知らない。

 そうこうしているうちに、予約時間前にはレストランに着く事ができた。
 ヨーロッパ調の館をイメージしたレストランは、ライトアップされていてムードがある。
 正面階段を上がると、中から男性が出て「いらっしゃいませ」と迎え入れてくれた。

「予約していた御劔です。連れのクラウザー二名とシュナイダーは来ていますか?」

「お待ちしておりました。お連れ様もお待ちです。まずコート類をお預かりしますね」

 クロークでコートを預け、二人は上階に案内された。
 レストランの内部もクラシックなムードで、足元には深紅の絨毯が敷かれてある。
 アンティークなランプが柔らかな光を灯し、ドア一枚隔てただけなのに別世界に感じた。

「こちらの個室になります」

 男性がノックしてドアを開くと、すぐ目に入ったのは全面のフランス窓だ。
 窓の向こうには夜景と東京タワーが見える。

 そして双子が声を掛けてきた。

「おー、何とか間に合ったみたいだね」

「先に一杯引っかけてるよ」

 白いテーブルクロスが掛けられたテーブルを、アロイス、クラウス、マティアスが囲んでいて、もうシャンパンを開けていた。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

処理中です...