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第十六部・クリスマス 編

すき焼き

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「凄いじゃないですか。きっと楽しいと思いますよ」

「……なんなら、キャンピングカーを買って回るのもいいかもな」

 今考えたというように呟き、マティアスは白ワインを飲む。

 そこで女将が佑と香澄の飲み物を持ってきて、乾杯となった。

「ん! 美味しい」

 さすが高価なジュースだけあり、濃厚だ。

「香澄、ワインも好きに飲んで」

 佑はボトルで頼んだので、もう一つ持ってきてもらったワイングラスに赤ワインを注ぐ。

「ありがとう」

「少しずつ味を覚えていってごらん」

「うん」

 ちろりと赤ワインを飲んでみると、ジュースを飲んだあとなので渋みが舌にくる。
 けれど口腔を満たす芳醇さがあり、その香気とアルコールにホッと体温が上がった気がした。

「美味しい……かも。佑さんもジュース飲む?」

「じゃあ、香澄が飲んだのを一口頂こうかな」

 佑は香澄のグラスを手に取り、香りを確認してから一口飲む。

「ん、美味しい」

「でしょー」

 いつもなら双子がここで茶々を入れてくるが、マティアスは何も言わず自分の白ワインを飲んでいる。

 やがて先付、前菜が運ばれた。

 マティアスから東京のどこが楽しかった、印象に残ったという話を聞きながら、香澄は美味しい料理に舌鼓を打つ。

 やがてメインであるすき焼きの具材が出された。
 玉ねぎ、白滝、ネギ、たけのこ、焼き豆腐、松茸が綺麗に盛られ、別の皿にはサシの入った米沢牛が綺麗に並んでいる。

「すごい。美味しそう」

 佑と行動を共にするようになって、すき焼きの肉がとても大きくサシが入っているのにカルチャーショックを受けた。

 それまで香澄は、奮発してスーパーで買った和牛しか知らなかったからだ。

 黒っぽい皿の上に綺麗に肉が並べられ、黒と赤の対比が美しい。

 けれどまだまだ庶民的な考えが抜けない香澄は、「食べ放題のお店のお肉はもっとてんこ盛りだから、やっぱりお上品な盛りだな」と考えてしまっていた。

 材料が揃ったところで女将がすき焼きを作ってくれ、和室にいい匂いが充満する。

「香澄、遠慮しないで沢山肉を食えよ?」

「う、うん」

 本来ならすき焼きが終わったあとに飯物、椀、香の物が出されるらしい。
 しかし佑は香澄のために、すき焼きの肉と一緒に白米を食べられるよう取り計らってくれた。

「カイ、俺も遠慮しない」

「分かってるよ。お前にご馳走するのが今回の目的だから。好きなだけ食って腹を満たしてくれ」

 玉子の入った器に焼けた肉が入れられ、香澄は「いただきます」と言って大きな肉を味わい始めた。

「ん……っ。んむ、ん、……おいし」

 サシの入った肉は、口に入れるとトロッと柔らかく甘みがある。
 玉子を纏ってツルリと滑る肉をまず単体で楽しみ、二枚目からは白米と一緒に食べた。

 しばらく三人は、無言ですき焼きを平らげていく。
 肉食の成人男性が二人いるからか、どんどん追加の肉を頼んで何皿頼んだのか分からなくなる。

 香澄も夢中になって食べ、満腹になって「もう終わり」と決めたあとは、大人しく味噌汁と漬物を食べた。

 そのあとも、佑とマティアスはたわいのない話をして肉をつつき、相当食べた辺りで食事が終わった。

「たっぷり食べたねぇ」

 香澄は上品な味の漬物をポリポリと食べ、お腹をさする。

 最後に季節のフルーツとしてシャインマスカットと和梨がだされ、飲み物を楽しむ。

 その頃合いで、香澄はマティアスに礼を言った。

「あの、マティアスさん。今回はお礼を言いたくて。……助けてくださってありがとうございました」

「問題ない。間に合って良かった」

 彼らしく、恩着せがましくなく返事をする。

「マティアスさんがいなければ、私はここにいませんでした。……知らない人に気を許してはいけないと、きちんと学びました」

「分かっているならそれでいい。それに俺は、カスミに大きな恩と借りがある。いつでもボディガードとして役立ててくれ」

「……ありがとうございます」

 感謝しつつも、マティアスは自分があっさり許してしまったがばかりに、ずっと「香澄の力にならなければ」と思っているのだろうかと心配になってしまった。
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