1,008 / 1,536
第十六部・クリスマス 編
すき焼き
しおりを挟む
「凄いじゃないですか。きっと楽しいと思いますよ」
「……なんなら、キャンピングカーを買って回るのもいいかもな」
今考えたというように呟き、マティアスは白ワインを飲む。
そこで女将が佑と香澄の飲み物を持ってきて、乾杯となった。
「ん! 美味しい」
さすが高価なジュースだけあり、濃厚だ。
「香澄、ワインも好きに飲んで」
佑はボトルで頼んだので、もう一つ持ってきてもらったワイングラスに赤ワインを注ぐ。
「ありがとう」
「少しずつ味を覚えていってごらん」
「うん」
ちろりと赤ワインを飲んでみると、ジュースを飲んだあとなので渋みが舌にくる。
けれど口腔を満たす芳醇さがあり、その香気とアルコールにホッと体温が上がった気がした。
「美味しい……かも。佑さんもジュース飲む?」
「じゃあ、香澄が飲んだのを一口頂こうかな」
佑は香澄のグラスを手に取り、香りを確認してから一口飲む。
「ん、美味しい」
「でしょー」
いつもなら双子がここで茶々を入れてくるが、マティアスは何も言わず自分の白ワインを飲んでいる。
やがて先付、前菜が運ばれた。
マティアスから東京のどこが楽しかった、印象に残ったという話を聞きながら、香澄は美味しい料理に舌鼓を打つ。
やがてメインであるすき焼きの具材が出された。
玉ねぎ、白滝、ネギ、たけのこ、焼き豆腐、松茸が綺麗に盛られ、別の皿にはサシの入った米沢牛が綺麗に並んでいる。
「すごい。美味しそう」
佑と行動を共にするようになって、すき焼きの肉がとても大きくサシが入っているのにカルチャーショックを受けた。
それまで香澄は、奮発してスーパーで買った和牛しか知らなかったからだ。
黒っぽい皿の上に綺麗に肉が並べられ、黒と赤の対比が美しい。
けれどまだまだ庶民的な考えが抜けない香澄は、「食べ放題のお店のお肉はもっとてんこ盛りだから、やっぱりお上品な盛りだな」と考えてしまっていた。
材料が揃ったところで女将がすき焼きを作ってくれ、和室にいい匂いが充満する。
「香澄、遠慮しないで沢山肉を食えよ?」
「う、うん」
本来ならすき焼きが終わったあとに飯物、椀、香の物が出されるらしい。
しかし佑は香澄のために、すき焼きの肉と一緒に白米を食べられるよう取り計らってくれた。
「カイ、俺も遠慮しない」
「分かってるよ。お前にご馳走するのが今回の目的だから。好きなだけ食って腹を満たしてくれ」
玉子の入った器に焼けた肉が入れられ、香澄は「いただきます」と言って大きな肉を味わい始めた。
「ん……っ。んむ、ん、……おいし」
サシの入った肉は、口に入れるとトロッと柔らかく甘みがある。
玉子を纏ってツルリと滑る肉をまず単体で楽しみ、二枚目からは白米と一緒に食べた。
しばらく三人は、無言ですき焼きを平らげていく。
肉食の成人男性が二人いるからか、どんどん追加の肉を頼んで何皿頼んだのか分からなくなる。
香澄も夢中になって食べ、満腹になって「もう終わり」と決めたあとは、大人しく味噌汁と漬物を食べた。
そのあとも、佑とマティアスはたわいのない話をして肉をつつき、相当食べた辺りで食事が終わった。
「たっぷり食べたねぇ」
香澄は上品な味の漬物をポリポリと食べ、お腹をさする。
最後に季節のフルーツとしてシャインマスカットと和梨がだされ、飲み物を楽しむ。
その頃合いで、香澄はマティアスに礼を言った。
「あの、マティアスさん。今回はお礼を言いたくて。……助けてくださってありがとうございました」
「問題ない。間に合って良かった」
彼らしく、恩着せがましくなく返事をする。
「マティアスさんがいなければ、私はここにいませんでした。……知らない人に気を許してはいけないと、きちんと学びました」
「分かっているならそれでいい。それに俺は、カスミに大きな恩と借りがある。いつでもボディガードとして役立ててくれ」
「……ありがとうございます」
感謝しつつも、マティアスは自分があっさり許してしまったがばかりに、ずっと「香澄の力にならなければ」と思っているのだろうかと心配になってしまった。
「……なんなら、キャンピングカーを買って回るのもいいかもな」
今考えたというように呟き、マティアスは白ワインを飲む。
そこで女将が佑と香澄の飲み物を持ってきて、乾杯となった。
「ん! 美味しい」
さすが高価なジュースだけあり、濃厚だ。
「香澄、ワインも好きに飲んで」
佑はボトルで頼んだので、もう一つ持ってきてもらったワイングラスに赤ワインを注ぐ。
「ありがとう」
「少しずつ味を覚えていってごらん」
「うん」
ちろりと赤ワインを飲んでみると、ジュースを飲んだあとなので渋みが舌にくる。
けれど口腔を満たす芳醇さがあり、その香気とアルコールにホッと体温が上がった気がした。
「美味しい……かも。佑さんもジュース飲む?」
「じゃあ、香澄が飲んだのを一口頂こうかな」
佑は香澄のグラスを手に取り、香りを確認してから一口飲む。
「ん、美味しい」
「でしょー」
いつもなら双子がここで茶々を入れてくるが、マティアスは何も言わず自分の白ワインを飲んでいる。
やがて先付、前菜が運ばれた。
マティアスから東京のどこが楽しかった、印象に残ったという話を聞きながら、香澄は美味しい料理に舌鼓を打つ。
やがてメインであるすき焼きの具材が出された。
玉ねぎ、白滝、ネギ、たけのこ、焼き豆腐、松茸が綺麗に盛られ、別の皿にはサシの入った米沢牛が綺麗に並んでいる。
「すごい。美味しそう」
佑と行動を共にするようになって、すき焼きの肉がとても大きくサシが入っているのにカルチャーショックを受けた。
それまで香澄は、奮発してスーパーで買った和牛しか知らなかったからだ。
黒っぽい皿の上に綺麗に肉が並べられ、黒と赤の対比が美しい。
けれどまだまだ庶民的な考えが抜けない香澄は、「食べ放題のお店のお肉はもっとてんこ盛りだから、やっぱりお上品な盛りだな」と考えてしまっていた。
材料が揃ったところで女将がすき焼きを作ってくれ、和室にいい匂いが充満する。
「香澄、遠慮しないで沢山肉を食えよ?」
「う、うん」
本来ならすき焼きが終わったあとに飯物、椀、香の物が出されるらしい。
しかし佑は香澄のために、すき焼きの肉と一緒に白米を食べられるよう取り計らってくれた。
「カイ、俺も遠慮しない」
「分かってるよ。お前にご馳走するのが今回の目的だから。好きなだけ食って腹を満たしてくれ」
玉子の入った器に焼けた肉が入れられ、香澄は「いただきます」と言って大きな肉を味わい始めた。
「ん……っ。んむ、ん、……おいし」
サシの入った肉は、口に入れるとトロッと柔らかく甘みがある。
玉子を纏ってツルリと滑る肉をまず単体で楽しみ、二枚目からは白米と一緒に食べた。
しばらく三人は、無言ですき焼きを平らげていく。
肉食の成人男性が二人いるからか、どんどん追加の肉を頼んで何皿頼んだのか分からなくなる。
香澄も夢中になって食べ、満腹になって「もう終わり」と決めたあとは、大人しく味噌汁と漬物を食べた。
そのあとも、佑とマティアスはたわいのない話をして肉をつつき、相当食べた辺りで食事が終わった。
「たっぷり食べたねぇ」
香澄は上品な味の漬物をポリポリと食べ、お腹をさする。
最後に季節のフルーツとしてシャインマスカットと和梨がだされ、飲み物を楽しむ。
その頃合いで、香澄はマティアスに礼を言った。
「あの、マティアスさん。今回はお礼を言いたくて。……助けてくださってありがとうございました」
「問題ない。間に合って良かった」
彼らしく、恩着せがましくなく返事をする。
「マティアスさんがいなければ、私はここにいませんでした。……知らない人に気を許してはいけないと、きちんと学びました」
「分かっているならそれでいい。それに俺は、カスミに大きな恩と借りがある。いつでもボディガードとして役立ててくれ」
「……ありがとうございます」
感謝しつつも、マティアスは自分があっさり許してしまったがばかりに、ずっと「香澄の力にならなければ」と思っているのだろうかと心配になってしまった。
11
お気に入りに追加
2,501
あなたにおすすめの小説
【女性向けR18】幼なじみにセルフ脱毛で際どい部分に光を当ててもらっています
タチバナ
恋愛
彼氏から布面積の小さな水着をプレゼントされました。
夏になったらその水着でプールか海に行こうと言われています。
まだ春なのでセルフ脱毛を頑張ります!
そんな中、脱毛器の眩しいフラッシュを何事かと思った隣の家に住む幼なじみの陽介が、脱毛中のミクの前に登場!
なんと陽介は脱毛を手伝ってくれることになりました。
抵抗はあったものの順調に脱毛が進み、今日で脱毛のお手伝いは4回目です!
【作品要素】
・エロ=⭐︎⭐︎⭐︎
・恋愛=⭐︎⭐︎⭐︎
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
――鬼の伝承に準えた、血も凍る連続殺人事件の謎を追え。
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
巨大な医療センターの設立を機に人口は増加していき、世間からの注目も集まり始めていた。
更なる発展を目指し、電波塔建設の計画が進められていくが、一部の地元住民からは反対の声も上がる。
曰く、満生台には古くより三匹の鬼が住み、悪事を働いた者は祟られるという。
医療センターの闇、三鬼村の伝承、赤い眼の少女。
月面反射通信、電磁波問題、ゼロ磁場。
ストロベリームーン、バイオタイド理論、ルナティック……。
ささやかな箱庭は、少しずつ、けれど確実に壊れていく。
伝承にある満月の日は、もうすぐそこまで迫っていた――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!
風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。
婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約?
憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。
アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。
※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。
格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。
【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない
かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が
シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。
女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。
設定ゆるいです。
出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。
ちょいR18には※を付けます。
本番R18には☆つけます。
※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。
苦手な方はお戻りください。
基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる