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第十六部・クリスマス 編

〝友人〟なら当たり前だ

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 そしてマティアスはすぐにTMタワーに向かい、警備員に話し掛ける。

「タスク・ミツルギに会いたい」

「え? ……どういう……。社長はアポイントのない方にはお会いしませんが……」

 警備員は女性――香澄を抱いたマティアスを胡散臭そうに見て、困惑している。

「彼女はChief Everyの社員だ。タスク・ミツルギの秘書で婚約者のカスミ・アカマツだ。嘘だと思うなら直接連絡をすればいい」

 そう言われ、警備員は奥に引っ込んで内線から受付に電話をした。

「あー、もしもし。一階警備室ですが、アカマツカスミさんという秘書の方はいらっしゃいますか?」

 問いかけてすぐ明瞭な返事をもらったのか、警備員の顔つきが変わる。

「え、いえ。いま海外の方が気絶したアカマツさんを、お姫様抱っこしてるんですよ。それで社長に会わせろと言っていて……」

 受付から「お待ちください」と言われたのか、警備員は受話器を持ったまま不審げな目でマティアスを見てくる。

「えっ? 社長自らこちらにいらっしゃる!? は、はい! 待っています!」

 警備員は呆然としたまま、受話器を下ろした。

「……い、今、御劔社長がこちらまでいらっしゃるようです。一階は人気ひとけが多いので、オフィスエレベーターがあるほうでお待ちください」

 そう言って警備員はマティアスをビルの奥にいざなう。
 マティアスは香澄を抱いたまま、壁にもたれかかり佑を待つ。

(また怒鳴られても仕方ないが、カスミを助けた経緯を説明しよう。あと、アロクラを呼んでおかなければ。あの男たちが今も倒れていると思えないが、一応現場に戻って確認したほうがいい。コーヒーショップにも手がかりがあるかもしれない)

 エレベーターは数基あるが、佑は社長室から来るだろうから、目の前のエレベーターからは来ないかもしれない。

 香澄を見ると、無防備にくうくう眠っている。

(即効性の睡眠薬だろうな。即効性は持続時間は短いはずだ。別の場所にカスミを運ぶつもりだったなら、持続時間の長い物も混入した可能性がある)

 可能ならどこかに寝かせてあげたいが、このビルに香澄を寝かせるベッドはあるのだろうか。

 高層ビルの場合、他のフロアがマンションになっている事も多いが、佑なら自分の家を持っているだろうか。

 考えていると奥からカツカツと足音が聞こえ、スーツ姿の佑が姿を現した。

「香澄!!」

 彼はぐったりとした香澄の姿を見て、蒼白になって固まったあと、残る距離を走ってきた。

「マティアス! どういう事だ!」

 表情を険しくする佑を見て、マティアスは「やっぱりな」と思いつつ冷静に説明する。

「カスミが謎の男二人と女一人に、誘拐されかけていた。俺はコーヒーショップの前で、男がカスミを担いで出てきたところに遭遇した。恐らく中で女に声を掛けられ、薬の入ったコーヒーを飲まされたのだと思う」

〝薬〟という単語を聞いて、佑の唇が震える。

「男二人は撃退したが、女は逃がした。多分、今コーヒーショッに戻っても、奴らはいないと思う」

「そう……か……。…………礼を言う……」

 佑は両手を差しだし、マティアスから香澄を抱き受ける。

 香澄の無防備な寝顔を見て、佑は一瞬泣きだしそうな表情になり――、ぐっと堪えてマティアスを見た。

「お前がいなかったら、香澄は誘拐されていただろう。近場だと思って油断した俺の落ち度だ。改めて礼を言う」

「構わない。俺はカスミを一生かけて守ると誓った。〝友人〟なら当たり前だ」

 マティアスはいつもと変わらず冷静な口調で言う。
 佑は溜め息をつき、警備員を見る。

「知らせてくださってありがとうございます。この女性は、最重要人物として覚えておいてください」

 警備員は佑を前にして、蒼白になっていた。

「は、はい。申し訳ございません……」

「この女性は私の婚約者です。どうかこれからもしっかり警備をお願いします」

「はいっ」

 佑は直立不動になった警備員に会釈し、「来てくれ」とマティアスに顎をしゃくる。

 二人は一階のさらに奥に進み、エレベーターに乗る。
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