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第十五部・針山夫婦 編

そろそろお暇しようか

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「……可愛い」

「そう? 良かった」

 満面の笑みで「良かったな」と言われると思っていたので、内心「あれ?」と首を傾げる。

 そう思っていると、佑が溜め息をついた。

「……そういうの好きなんだ。というか、ハンドメイドのアクセサリーは盲点だった」

 佑は自分では思いつかないプレゼントに、心底悔しそうな顔をしていた。
 それを美鈴が笑い飛ばす。

「あはは! でしょー。アクセサリーと言えば、宝石を贈ればいいって思ってる男とは違うのよ」

 彼女の言葉を聞いて、佑が俯く。
 その向かいで、出雲も堪えた表情をしていた。

「美鈴、それけっこう刺さるから言ってやるな」

「あらそう? 自分にない知識はどんどん吸い取ってアップデートすればいいのよ」

 二人が会話している間、佑はジッと香澄の耳についたイヤリングを見ている。

「……あの、佑さんにもらったのも嬉しいからね?」

「……ん、分かってる」

 言いながらも彼は深刻そうな表情をしていて、嫌な予感しかしない。

「…………調べておく」

 佑は香澄の頭をポンポンと撫でつつボソッと呟いたが、香澄は聞き逃さかった。

(プ、プレゼントが増える……!)

 真顔になって冷や汗を掻いた時、佑が話題を変えた。

「さて、そろそろお暇しようか。いつもならもっと厚意に甘えるけど、美鈴さんやりらちゃんの負担になってはいけないから」

 佑が立ち上がり、香澄も慌ててジュースの残りを飲んで立った。
 そんな二人を見て、美鈴が残念そうな声をだす。

「やだぁ。もっといてもいいのに」

「また今度」

 佑が微笑んだタイミングで、りらがむずがった。

「おっとっと。りらっち今行くよ」

 美鈴は足早にりらのもとへ向かい、「あら、おむつだ」と言って奥へ消える。

 香澄は佑と一緒に荷物を持ち、玄関に向かう。

「香澄ちゃん、また来てくれな。美鈴も気に入ったみたいだし、あいつの話し相手になってくれたら助かる」

「はい。こちらこそお姉さんができたみたいで嬉しいです」

 ニコニコした香澄はコートを着て、マフラーを首に巻く。

「はぁ、いい子だなぁ。佑、〝次〟はないだろうから、嫌われないようにな」

 また出雲がうっかりな事を言うが、佑は慣れている。

「言われなくても。お前こそ美鈴さん支えてやれよ」

「分かってるよ」

 軽く言い合って二人は拳と拳をトンとぶつける。

 その〝男友達〟という様子に、香澄は憧れた。

(私も佑さんとポンポン言い合って、笑わせるようになれたらいいな)

 無い物ねだりをしてしまうが、香澄は自分が面白い人でないのを分かっている。
 そして友人と婚約者とでは、どうしても扱いが異るのも承知している。

 けれど欲張りな香澄は〝友人ポジ〟も望んでしまう。

 香澄が麻衣の事を話す時、佑も同じ事を考えているとは知らず、香澄は一人悶々とするのだった。

 やがてりらを抱っこした美鈴が、玄関まで見送りに来てくれた。

「香澄ちゃん、絶対また来てね。りらも待ってるから」

「はい。りらちゃん、またね」

 目をくりくりさせたりらに指を近付けると、ギュッと握られて胸の奥がキューッと疼く。

「りらちゃん、大きくなったらお姉さんとデートしようね」

 香澄の言葉に、美鈴がクスクス笑った。

「あらー、いいねー、りら」

 母娘を見て、香澄はにやつきが止まらない。

 彼女たちを見守ってから、出雲が切りだした。

「じゃあ、うちの車に乗ってってくれ」

「悪い、そうする」

 佑と香澄はすでに靴を履いてドア前に立っていて、出雲もサンダルをつっかける。
 美鈴はりらを抱っこしたまま、片手を振った。

「私はここまでね。二人ともまた来てね」

「はい! お元気で。出掛けられるようになったら、デートしましょうね」

 香澄は美鈴と手を振り合ったあと、ペコリとお辞儀をして佑と一緒に玄関を出た。
 出雲はペタペタとサンダルの音を立てて離れまで行き、運転手を連れてきた。

 やがてガレージから車が出て、正面の門が自動で開く。

「じゃあな、また」

 出雲に手を振られ、二人とも挨拶をする。

「ごちそうさま、出雲」

「ごちそうさまでした」

 二人は挨拶をして車に乗り、出雲に手を振る。

 運転手は御劔邸の位置を把握しているのか、家の場所を確認せず車を発進させた。
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