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第十五部・針山夫婦 編

もっと佑さんとイチャイチャしてください

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「はい、香澄ちゃん」

 彼はボトルを傾け、香澄のグラスに注いでいく。

「ありがとうございます」

 小さな泡を立てて金色の液体が注がれていくのを、香澄はニコニコして見ていた。

「今日の主役は香澄ちゃんだからな」

「そうなんですか?」

 出雲はニヤッと笑い、佑のグラスにシャンパンを注ぎながら続ける。

「以前はもっと頻繁に佑と会っていたんだけど、りらが生まれたし、佑は香澄ちゃんファーストになって、あまり会えてなかったんだ。だから美鈴が一応落ち着いた今、全員で集まりたいって思っていてね。外食はまだ難しいかもしれないけど、自宅なら大丈夫だろって思って」

 言われて、香澄は慌てて謝る。

「な、なんかすみません! もっと佑さんとイチャイチャしてください」

「ぶっふ!」

 香澄の言葉を聞き、美鈴が噴きだした。

「……香澄、イチャイチャって……」

 佑はやや引いた目で見てくるし、出雲も笑って撃沈している。

「いやいや、気にしなくていいよ。男同士の友情なんて、長く会ってなくても大して変わらない。それに会ってないって言っても、連絡取ってない訳じゃないからね」

 出雲にフォローされ、香澄はペコペコと頭を下げる。

「そうですか、なら良かった……。改めて、お招き頂きありがとうございます」

「どういたしまして」

 出雲はニッコリ笑い、自分のグラスにシャンパンを注いでボトルを置き、美鈴のグラスには別のボトルからシャンパンに似た炭酸を注いだ。

 香澄がグラスを見ているのに気づいた美鈴は、「あはは」と笑う。

「ノンアルコールのシャンパンよ」

「あっ、なるほど」

「せっかくだから、気分だけでも参加しないとね!」

 そう言った美鈴は、グラスを持って掲げた。

「はい、乾杯しましょ! 佑くん、香澄ちゃん、さっきはごめんなさい。これからも宜しくね!」

「乾杯」

「よろしくお願いします、乾杯!」

「かんぱーい!」

 乾杯してからシャンパンの芳醇な香りを嗅ぎ、一口飲む。
 飲み口はスッキリしているが、口内にフワッとフルーティーさが広がった。

「前菜です」

 そう言って料理人が四人の前に横長のプレートをだす。

「足赤海老のエチュベ、百合根のムース、戻り鰹のカルパッチョです」

 黒いプレートには、右に蒸した海老があり、真ん中には小さなグラスに入った白いムースに、食用菊が散らされている。
 左側には美しい色をした鰹に、ハーブと小さくカットされたレモンがのせられていた。

 フレンチの調理法では色んな呼び方があると聞かされていたので、エチュベというのもその中の一つだろう。

 美鈴が「さあ食べましょう」と言い、海老に手を伸ばした。

 一瞬、海老をどうすべきか考えた香澄は、手づかみの美鈴を見て安堵する。

 香澄の心配を察したのか、彼女はにっこり笑った。

「おしぼりがあるから、存分に手で食べてね」

「はい」

「あー! 可愛い子見ながら食べる飯はうまい!」

 美鈴は中年男性のように言って豪快に笑ってから、ムッシャア! と海老を囓る。

「香澄、剥けるか?」

 佑が気遣ってくれ、香澄は慌てて頷く。

「うん、大丈夫。お刺身の海老を剥くので慣れてるから」

 返事をしつつ、香澄はブリンとした海老を囓る。

「香澄ちゃんって料理すんの?」

 出雲に尋ねられた香澄が返事をする前に、佑が自慢げに言う。

「めっちゃする。凄い美味い」

 人前で褒められるのがむず痒く、香澄は海老をむぐむぐと噛む。

「なんの料理が得意なんだ?」

「オールマイティじゃないかな。ベーシックな家庭料理は得意だし、色んな物をバランス良く作ってくれる」

 出雲が一つ質問したのに対し、佑は十ほどの褒め言葉を返す。

 嬉しいのだが、照れてしまった香澄は無言で百合根のムースをスプーンで口に入れる。
















 あけましておめでとうございます!
(ちゃんとしたご挨拶イラストは次話で)


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