957 / 1,550
第十五部・針山夫婦 編
外野が口を挟まないでくれ
しおりを挟む
「言っておきたいのは、佑くんとの関係を否定したい訳じゃないって事。ただ、佑くんって、何があっても香澄ちゃんを手放さないと思うのよね。彼はきっと浮気せず香澄ちゃんを一途に想う。他の男によそ見しないように、いい彼氏でいようと努力しているだろうし、喧嘩しても破綻しないように気を付けていると思う」
「……いい事……だと思いますけど。……何か悪いんでしょうか?」
キョトンとした香澄に、美鈴は真剣な顔で続ける。
「私から見ても、佑くんって条件のいい男よ? ただ、そんな彼に全力で囲われて、〝他〟を知らないで生きていくのかなって思うと、少し微妙な気持ちになってしまって」
言われて、「一理あるな……」と感じた。
極上の男に毎日愛を囁かれ、ベッドでも愛されて、生活は一流の物で囲まれる。
この世のほとんどの女性が一度は望むのでは、という環境になり、確かに佑以外の男性を見る気持ちはまったくなくなった。
井内に告白された時だって動じなかった。
第三者的に見れば、井内は清潔感があって整った顔立ちをしているし、優しくて誠実な人だ。
大企業であるChief Everyの秘書課に籍を置いているし、彼を望む女性は多くいるだろう。
佑がいなければ、もしかしたら井内の手を取っていたかもしれない。
だがそれは、ただの〝If〟の話だ。
実際は佑がいたから、一ミリも心が傾かなかった。
そういう意味では、香澄は今後もずっと他の男性に目を向けないだろう。
黙って考える香澄を見て、佑は少し焦って口を挟む。
「それのどこが悪いんだ? 俺は浮気をしないし、香澄を一生愛するし結婚したいと思っている。問題ないじゃないか」
言われて、美鈴は赤葡萄ジュースが入ったグラスをクルクル回しながら返事をする。
「問題ないんだけど……。人生って経験が宝でもあるのよ。私と出雲って、社長令嬢と御曹司のお見合い結婚よ。でも『どうせ決められた相手と結婚するなら』って、その前にたっぷり恋愛を楽しんだ。バカな真似はしなかったけど、色んな人と関わって、様々な価値観を学んだわ。佑くんは、そういうものをすべて奪っちゃうんじゃないかな、って」
美鈴の言葉を聞き、佑は目を細める。
「香澄ちゃんは佑くん以外の男性を知らずに生きていく。勿論悪い事じゃない。一途なのは素晴らしいと思う。その分、佑くんは香澄ちゃんを必ず幸せにする義務がある。別の人と幸せになったかもしれない人生の代わりに、彼女を幸せにするの」
〝佑の存在が悪い〟とも言える言葉に、香澄は気まずくなって彼を気にする。
気を悪くしていないかと思ったが、彼は思いの外真剣な表情で美鈴の言葉を聞いていた。
「その自覚はある。俺は香澄の人生を独占している。だが責任は取る。一生添い遂げるし、必ず幸せにする。香澄も、彼女の家族も、この先の生活に困らないようにする。そのための貯えもあるつもりだ」
佑は美鈴をしっかり見つめ、覚悟を伝える。
「覚悟した上で、運命の女を愛そうとしているんだ。心配は分かるが、口を挟まないでくれ」
和やかな空気から一転、緊張感のある雰囲気になって香澄はゴクリと唾を嚥下する。
佑に真剣にすごまれて怯むと思いきや、美鈴はケロッとしたまま香澄に話を振ってきた。
さすが大企業の社長夫人なだけあり、度胸が据わっている。
「佑くんには悪い事を言ったわね。謝る。けど、私は香澄ちゃんに話してるの。どう思う?」
いっぽうで香澄はアワアワしたまま、返事に窮する。
「わ、私ですか? ……ええと……」
「香澄、ゆっくりでいいよ。納得できる答えを言ってくれ」
佑に言われ「真剣に考えないと」と思った香澄は、テーブルの上に出された料理を見ながら考える。
ちなみに出雲はこの空気になっても、「んま」と言いながらつまみを摘まんでいた。
「……確かに経験って大切だと思います。佑さんと出会って、一般人の世界にいたら知らない事を沢山知りました。〝普通〟ではない視点で、仕事や世界経済について考える機会も持てました。そういう意味で、佑さんは私に沢山の経験をくれます」
そう答えた香澄の手を、佑がそっと握った。
「けど、美鈴さんが仰りたい事も分かります。佑さんと出会った時、私はまともな恋愛を経験していませんでした。ぼんやりと『このまま出会いがなかったら、結婚相談所やマッチングアプリを頼るのかな』と思っていました」
初耳だったのか、佑が目を見開いてまじまじと見てくる。
「佑さんに出会って本当に幸せです。宝くじの一等に当選するよりずっと幸運です。……もっと恋愛経験があれば、彼を困らせる事もなかったのでは……と、思う事もあります。だからこそ、何もかも初めてですが、『もっと愛したい、愛されたい、力になりたい』という気持ちにもなれています」
「前の彼は、それほど好きじゃなかったの?」
チーズを口に放り込んだ美鈴に尋ねられ、香澄は苦く笑う。
「あまりいい思い出じゃないんです。彼は私のどこが好きと言わず告白してきて、私もそれになんとなく応えてしまいました。そのあとは〝そういう事〟ばかり求められていました。好きとかより、彼からは『シたい』しか感じませんでした。だから『男の子ってそういう事しか考えていないんだ』って嫌になりました」
「なにそのクソ男!」
美鈴が大きな声で言い、美しい顔を歪める。
出雲も溜め息をつき、脚を組み替えた。
「……いい事……だと思いますけど。……何か悪いんでしょうか?」
キョトンとした香澄に、美鈴は真剣な顔で続ける。
「私から見ても、佑くんって条件のいい男よ? ただ、そんな彼に全力で囲われて、〝他〟を知らないで生きていくのかなって思うと、少し微妙な気持ちになってしまって」
言われて、「一理あるな……」と感じた。
極上の男に毎日愛を囁かれ、ベッドでも愛されて、生活は一流の物で囲まれる。
この世のほとんどの女性が一度は望むのでは、という環境になり、確かに佑以外の男性を見る気持ちはまったくなくなった。
井内に告白された時だって動じなかった。
第三者的に見れば、井内は清潔感があって整った顔立ちをしているし、優しくて誠実な人だ。
大企業であるChief Everyの秘書課に籍を置いているし、彼を望む女性は多くいるだろう。
佑がいなければ、もしかしたら井内の手を取っていたかもしれない。
だがそれは、ただの〝If〟の話だ。
実際は佑がいたから、一ミリも心が傾かなかった。
そういう意味では、香澄は今後もずっと他の男性に目を向けないだろう。
黙って考える香澄を見て、佑は少し焦って口を挟む。
「それのどこが悪いんだ? 俺は浮気をしないし、香澄を一生愛するし結婚したいと思っている。問題ないじゃないか」
言われて、美鈴は赤葡萄ジュースが入ったグラスをクルクル回しながら返事をする。
「問題ないんだけど……。人生って経験が宝でもあるのよ。私と出雲って、社長令嬢と御曹司のお見合い結婚よ。でも『どうせ決められた相手と結婚するなら』って、その前にたっぷり恋愛を楽しんだ。バカな真似はしなかったけど、色んな人と関わって、様々な価値観を学んだわ。佑くんは、そういうものをすべて奪っちゃうんじゃないかな、って」
美鈴の言葉を聞き、佑は目を細める。
「香澄ちゃんは佑くん以外の男性を知らずに生きていく。勿論悪い事じゃない。一途なのは素晴らしいと思う。その分、佑くんは香澄ちゃんを必ず幸せにする義務がある。別の人と幸せになったかもしれない人生の代わりに、彼女を幸せにするの」
〝佑の存在が悪い〟とも言える言葉に、香澄は気まずくなって彼を気にする。
気を悪くしていないかと思ったが、彼は思いの外真剣な表情で美鈴の言葉を聞いていた。
「その自覚はある。俺は香澄の人生を独占している。だが責任は取る。一生添い遂げるし、必ず幸せにする。香澄も、彼女の家族も、この先の生活に困らないようにする。そのための貯えもあるつもりだ」
佑は美鈴をしっかり見つめ、覚悟を伝える。
「覚悟した上で、運命の女を愛そうとしているんだ。心配は分かるが、口を挟まないでくれ」
和やかな空気から一転、緊張感のある雰囲気になって香澄はゴクリと唾を嚥下する。
佑に真剣にすごまれて怯むと思いきや、美鈴はケロッとしたまま香澄に話を振ってきた。
さすが大企業の社長夫人なだけあり、度胸が据わっている。
「佑くんには悪い事を言ったわね。謝る。けど、私は香澄ちゃんに話してるの。どう思う?」
いっぽうで香澄はアワアワしたまま、返事に窮する。
「わ、私ですか? ……ええと……」
「香澄、ゆっくりでいいよ。納得できる答えを言ってくれ」
佑に言われ「真剣に考えないと」と思った香澄は、テーブルの上に出された料理を見ながら考える。
ちなみに出雲はこの空気になっても、「んま」と言いながらつまみを摘まんでいた。
「……確かに経験って大切だと思います。佑さんと出会って、一般人の世界にいたら知らない事を沢山知りました。〝普通〟ではない視点で、仕事や世界経済について考える機会も持てました。そういう意味で、佑さんは私に沢山の経験をくれます」
そう答えた香澄の手を、佑がそっと握った。
「けど、美鈴さんが仰りたい事も分かります。佑さんと出会った時、私はまともな恋愛を経験していませんでした。ぼんやりと『このまま出会いがなかったら、結婚相談所やマッチングアプリを頼るのかな』と思っていました」
初耳だったのか、佑が目を見開いてまじまじと見てくる。
「佑さんに出会って本当に幸せです。宝くじの一等に当選するよりずっと幸運です。……もっと恋愛経験があれば、彼を困らせる事もなかったのでは……と、思う事もあります。だからこそ、何もかも初めてですが、『もっと愛したい、愛されたい、力になりたい』という気持ちにもなれています」
「前の彼は、それほど好きじゃなかったの?」
チーズを口に放り込んだ美鈴に尋ねられ、香澄は苦く笑う。
「あまりいい思い出じゃないんです。彼は私のどこが好きと言わず告白してきて、私もそれになんとなく応えてしまいました。そのあとは〝そういう事〟ばかり求められていました。好きとかより、彼からは『シたい』しか感じませんでした。だから『男の子ってそういう事しか考えていないんだ』って嫌になりました」
「なにそのクソ男!」
美鈴が大きな声で言い、美しい顔を歪める。
出雲も溜め息をつき、脚を組み替えた。
23
お気に入りに追加
2,552
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる