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第十五部・針山夫婦 編

針山美鈴

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 そして歩きながら佑に言う。

「運転手には帰ってもらっといて。帰りはうちの運転手に送らせるから」

「じゃあ、うちの車は一旦帰しておく」

 佑は待機している小金井にジェスチャーを送り、一度帰るよう指示した。

 針山邸はザ・豪邸という感じの白っぽい大きな邸宅で、ヨーロッパの屋敷を思わせる。

 玄関前の階段を上って両開きのドアから中に入ると、エレガントな内装が二人を迎えた。

 中にはスラリとした美女が立っていて、佑と香澄に笑いかけてきた。

「こんばんは! あなたが香澄ちゃん? うわぁ! 可愛い! ちょっとハグさせて?」

 ワンレングスのロングヘアを緩く巻いた彼女は、一七〇センチメートル近くありそうな長身だ。
 ローゲージのニットにスキニーを穿いたシンプルな格好だが、逆にスタイルの良さが際立つ。

 派手めの顔立ちの美人で、第一印象は芸能人かモデルか……という感じだ。

「初めまして、赤松香澄です」

 ペコリと下げた頭が戻りきらないうちに、香澄は彼女にガシッと抱き締められていた。
 そんな彼女を見て、佑が呆れたように言う。

「美鈴さん、最初からグイグイくるな」

「やだわ。最初からいい印象を植え付けるのが大切なのよ」

 佑の言葉に彼女――美鈴が言い返す。

 親しげな様子を見て、二人の仲がいいのを察した香澄は嬉しくなった。

「いやぁ~……可愛いわね? というか、素材がいい。お肌ツルツルじゃない。佑くん、よくこんな純朴そうな子を騙して、札幌から連れて来たわね? いやぁ、参った参った」

「人聞きの悪い事いうのやめてくれ」

 佑にグイッと肩を引かれ、香澄は美鈴から引き離される。

「まぁ、話は中でしよーや。玄関さみーわ」

 出雲はうぇっぷし、と特徴的なくしゃみをして、先にリビングに向かう。

「それもそうね。いらっしゃい、香澄ちゃん」

「お邪魔します」

「お邪魔します……」

 二人は靴を脱ぎ、揃えられていたスリッパに足を入れる。
 コート類はハンガーに掛け、玄関のフックに掛けさせてもらった。

 天井を見上げると、吹き抜けにはシャンデリアが下がっている。

(シャンデリア、お金持ちのお屋敷には当たり前にあるんだな)

 木製の隠しドアの奥は、きっとシューズクローゼットになっているのだろう。

「香澄ちゃん、こっち」

 美鈴に手を引かれてリビングダイニングに入ると、思わず「うわぁ……」と感嘆の声が漏れた。

 走れるのではないだろうか、というぐらい広いリビングダイニングは、ゴージャスだがとても居心地がよさそうだ。

 七十インチはありそうな巨大液晶テレビがあるのは、御劔邸と変わらない。

 ソファセットは少し変わっていて、床から一段下がった場所にラウンドソファの形状になっていた。
 中央には小さめのテーブルがあり、円形のソファが囲んでいる。

 ポーッとソファを見ていると、横で美鈴が快活に笑う。

「あのソファ、居心地良さそうでしょ。特注なの。リビングって家族が一番長く過ごす場所だし、皆でゆっくりできる場所にしたいって思ったのよね。出雲とああでもない、こうでもないって言い合って、最終形態があれよ!」

 美鈴は自慢げに言い、胸を張る。

「素敵です……!」

 さらに、リビングにはバイオエタノール暖炉もあり、全体的にモダンながらセンスが良く、憧れの豪邸という感じだ。

 奥の部屋にはグランドピアノがあるのが分かり、つい興味を示してしまう。

「ピアノ、気になる? そう言えばクラシックが好きな子だっけ」

「あ、いえ! 素敵だなと思っただけで……」

 ジロジロ見て失礼ではないか心配したが、美鈴は特に何も気にせず話を続ける。

「私、ピアノやってたのよね。最近は暇つぶしとかストレス発散にしか弾かないんだけど、派手な曲を思いっきり弾くと爽快だわぁ」

「分かります。ショパンのポロネーズとか好きな曲に入り込んで弾くと、スカッとします」

「うそ! 私もポロネーズ好き! 何番?」

 話が合った美鈴が喜び、マニアックな話題になる。

「うーん、王道で六番も好きですし、二番とか五番も好きなんです」

「分かるー! あと私、一番も割と好きよ。あと『革命エチュード』を思いっきり弾くのも好き」

「それ! 私も大好きです!」

 嬉しくなって、香澄は笑顔になりコクコクと頷く。
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