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第十五部・針山夫婦 編

かぶりつきたくなる桃尻

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 サッと体と髪を洗い、温まってからバスルームを出る。

 フェイス、ボディケアをしてから、半袖Tシャツとスウェットを着た。

 それほど美容に気を遣っている訳ではないが、肌がすべすべしていると香澄が喜んでくれる。
 加えて冬場は乾燥しやすいので、皮膚トラブルを防ぐ意味でしっかり保湿はしていた。

 日本ではフェイスケアをしていたり、香水を使っていると少し冷やかす意味も込めて「美容男子」と言われる。

 だが佑が知っている限り、海外の知り合いは皆香水を纏っていた。

 香澄がパリの街角で「今すれ違った男性、すっごくいい匂いがした」と言っていた時は、追いかけて何の香水を使っているか聞きたくなった。

 佑にとっての美容は、皮膚トラブルを避けるためと、経営者として、メディアに出ている者として最低限の外見を整えるためのものだ。

 香りについては、双子がこだわっているのを見て自然に頭にすり込まれ、気分を変えるためや自分のパフォーマンスを上げるための物と捉えている。

 外見に気を遣っていると、ビジネスでもプラスに働く事が多いのは事実で、損をした場面はすぐ考えつかない。
 勿論、外見ばかり気にしていては仕事にならないので、程よい距離感で美容と付き合えていると思っている。

 ヘアスタイルに至っては、美容師に『不動の御劔カット』と言われるほどで、あまりイメチェンしていない。

 愛したら一途という性格に通じているのか、食べ物でも他の事でも、何か気に入ったらそればかりを追う性格だ。

 個人的には、コロコロと見た目や印象が変わるより、『御劔佑はこのイメージ』というものがあったほうが、安心感を与えられるのではと思っている。

 香りについては、気に入った物をコンプリートしたい欲があるので、お気に入りブランドの香水はすべて揃えているし、限定品が出た時は必ず買っている。

 けれど色んな香りをその時その時楽しむよりは、気に入った物を使いがちだ。

 揃えた香水は、瓶が並んでいるのを見て満足するだけという事も多い。

 なので香澄が「今日はこの香りを試してみよう」と使ってくれるのはありがたかった。

 フェイスケアをしたあとに水をコップ二杯飲んで、いつも通りストレッチをする。

 火照った体を冷やしがてら一度書斎に向かい、パソコンを立ち上げてメールをチェックした。
 サッと目を通してから電源を落とし、肩甲骨まわりを解しながら寝室に向かった。

 布団に潜り込むと、香澄の体温で温まっている。
 温もりを求めた香澄がくっついてきて、思わずクスッと笑った。

「お待たせ」
「んー」

 香澄はまたうなり、佑を抱き締めてすぅぅっと匂いを嗅ぐ。
 遠慮なくすーはーすーはーしてから、最後にすぅぅっ……はぁぁっとウード&ベルガモッドを堪能する。

「うん……」

 そして納得して頷いてから、佑の脚の間に自分の脚を絡ませ、また眠る体勢に入った。

 微笑んだ佑はしばらく香澄のまっすぐな髪を撫で、キャミソール越しの背中、タップパンツ越しのお尻を手で確かめる。

(すごくシたいけど、疲れてるだろうから我慢しよう)

 ここで我慢できる自分を、自分で褒める。褒めちぎる。

(週末までお楽しみは取っておこう。……いや、週末まで待たなくてもいいかな? 香澄の調子次第で……)

 最初の決心がすぐにグラつき、魅惑的なお尻を撫でながら悪戯をしようかしないか迷う。

 香澄と一緒に寝ていると、桃の甘い香りがしてかぶりつきたくて堪らない。

(おまけに桃尻だよな……)

 今時の中年男性でも言わなさそうな事を思ってから、佑はタップパンツの中に手を入れた。

 無駄毛のない肌はつるりと佑の指を受け入れる。

 指先に少し力を込めると、弾力がありながらフワフワのお尻に指が食い込んだ。

 お尻の谷間を指先で撫でていると、香澄が「んーっ」とうなりながら身じろぎをする。
 胸板にぐりぐりと頭を擦りつけ、眠たそうに何度もうなる。

 悪戯心で指先を少し潜り込ませようとすると、中途半端に勃起した屹立を、スウェット越しに掴まれた。

「わるいこ!」

 力一杯掴まれた訳ではないので、痛くはない。
 ただ驚いたのと香澄の寝ぼけ声がおかしくて、佑は手を止めると彼女を抱き締めてクツクツと笑いだした。

「もー……だめ。……ねるの……」

 とうとう香澄に文句を言われ、佑は笑いながら謝る。

「ごめん。本当にごめん。つい癖で」
「こんど」

「……うん。今度」

(本当に今日は疲れてるよな。悪い事をした)

「ごめん。おやすみ」

 香澄の後頭部を支え、優しくキスをすると、ほんの少し唇をついばまれた。

(今はこれで満足しないと)

 そう思い、自分も眠る事にした。



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