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第十五部・針山夫婦 編
お疲れ様
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「持つべきものは友……」
呟きながら少しむくんだふくらはぎを揉み、しばしばと目を瞬かせる。
「あ、そうだ。佑さんに家賃渡すの忘れてた。誕生日のお祝いしてもらってたから……。って、言い訳したら駄目だ。滞納になっちゃう。明日お金下ろさないと」
ずっと横になりながら電話をしていたせいか、眠気もMAXになってきた。
「ごめんなさい。先に寝ます……」
佑に謝り、香澄はフェリシアに照明を落としてもらう。
目を閉じて眠るまで、そうかからなかった。
**
「ただいま」
佑が真澄と仕事の話四割、友達としての会話を六割楽しんで帰ったのは、二十三時過ぎだ。
『おかえりなさい。タスクさん』
相変わらず一番にフェリシアが迎えてくれる。
午前零時を過ぎると、フェリシアはナイトモードになって音声機能がつかなくなる。
以前はフェリシアすら迎えない時間に帰っていたので、健康なものだ。
荷物もコートもそのままで、佑はまっすぐ二階に上がる。
主寝室を覗いて誰もいないのを確認し、香澄の部屋まで行って微笑した。
羽根布団がもっこりと盛り上がり、彼女が就寝しているのが分かる。
「疲れたよな。松井さんも荒療治するもんだから」
今朝、松井からのメールにはこうあった。
『赤松さんの復帰は、デスクワークから徐々に慣らすのではなく、初日から重ための仕事について頂き、ショック療法で感覚を取り戻して頂くのがいいと思います』
そう書かれていて少し驚いた。
そこまでしなくても……と思ったが、『いつまでもぬるま湯の環境では赤松さんのためになりません』との事だ。
香澄が仕事をしたいと言うのなら、気持ちを尊重して仕事をさせるべき。
彼女が根を上げたなら、望むように休ませればいい、という主張だ。
オフィスでのデスクワークが簡単と思わないが、外部の人間と触れ合う分、外での仕事のほうが気を遣う。
秘書の仕事は要人を支える重要な仕事であると、松井は己の仕事に誇りを持っている。
それを佑の婚約者だからという理由で、中途半端にさせるのは良くないと思っているのだろう。
やるならやる、やらないならやらない。
『赤松さんが休んでいた事を責めるつもりはありません。ですが復帰したならきちんと働いて頂いたほうがお互いのためです』と言っていた。
佑の婚約者という立場だからこそ、中途半端な立ち位置は良くないとも釘を刺された。
確かに〝仕事〟ならきっちりさせたほうがいい。
そう思って佑は松井の案を呑み、今日一日香澄に同行してもらった。
傍から見て、香澄は精一杯やってくれていたと思う。
途中で「精神的にギリギリそうだな」と感じる事はあったが、休む前に叩き込んだ事を忘れず、きちんと対応できていた。
荷物を置いてマフラーを取り、佑は枕元に跪く。
「お疲れ様」
サラリと前髪を撫で、形のいい額に唇をつける。
「ん……」
そのとき香澄が小さくうめき、佑の手を両手で握ってきた。
布団の中でぬくもっていた小さな手が、外気で少し冷えていた佑の手を温める。
「……たすく、……さん」
もにゃもにゃと寝ぼけながら香澄は両腕を伸ばし、佑の頭を抱き締めてきた。
「ただいま」
「ん……好き……」
返事になっていない言葉に、思わず笑みがこぼれる。
ひとまず着替えないとと離れかけた時、香澄は眉間にしわを寄せて子供のようにぐずりだした。
「……うー……一緒に寝る……」
(やばい。可愛い。抱きたい)
頭の中にシンプルな単語が三つ出てきて、佑は一人悶える。
「おいで」
呼びかけると、香澄はまた両腕を差しだしてきた。
少しかがんで香澄を横抱きにすると、佑は悠々と歩いて自分の寝室まで運ぶ。
「寝る準備をするから、待ってて」
「んー」
羽根布団をめくって香澄を寝かせると、すぐにモソモソとダンゴムシのように丸まってゆく。
(面白いな。猫でも飼ってるみたいだ)
佑はクツクツと笑ってから、着替えてバスルームに向かった。
呟きながら少しむくんだふくらはぎを揉み、しばしばと目を瞬かせる。
「あ、そうだ。佑さんに家賃渡すの忘れてた。誕生日のお祝いしてもらってたから……。って、言い訳したら駄目だ。滞納になっちゃう。明日お金下ろさないと」
ずっと横になりながら電話をしていたせいか、眠気もMAXになってきた。
「ごめんなさい。先に寝ます……」
佑に謝り、香澄はフェリシアに照明を落としてもらう。
目を閉じて眠るまで、そうかからなかった。
**
「ただいま」
佑が真澄と仕事の話四割、友達としての会話を六割楽しんで帰ったのは、二十三時過ぎだ。
『おかえりなさい。タスクさん』
相変わらず一番にフェリシアが迎えてくれる。
午前零時を過ぎると、フェリシアはナイトモードになって音声機能がつかなくなる。
以前はフェリシアすら迎えない時間に帰っていたので、健康なものだ。
荷物もコートもそのままで、佑はまっすぐ二階に上がる。
主寝室を覗いて誰もいないのを確認し、香澄の部屋まで行って微笑した。
羽根布団がもっこりと盛り上がり、彼女が就寝しているのが分かる。
「疲れたよな。松井さんも荒療治するもんだから」
今朝、松井からのメールにはこうあった。
『赤松さんの復帰は、デスクワークから徐々に慣らすのではなく、初日から重ための仕事について頂き、ショック療法で感覚を取り戻して頂くのがいいと思います』
そう書かれていて少し驚いた。
そこまでしなくても……と思ったが、『いつまでもぬるま湯の環境では赤松さんのためになりません』との事だ。
香澄が仕事をしたいと言うのなら、気持ちを尊重して仕事をさせるべき。
彼女が根を上げたなら、望むように休ませればいい、という主張だ。
オフィスでのデスクワークが簡単と思わないが、外部の人間と触れ合う分、外での仕事のほうが気を遣う。
秘書の仕事は要人を支える重要な仕事であると、松井は己の仕事に誇りを持っている。
それを佑の婚約者だからという理由で、中途半端にさせるのは良くないと思っているのだろう。
やるならやる、やらないならやらない。
『赤松さんが休んでいた事を責めるつもりはありません。ですが復帰したならきちんと働いて頂いたほうがお互いのためです』と言っていた。
佑の婚約者という立場だからこそ、中途半端な立ち位置は良くないとも釘を刺された。
確かに〝仕事〟ならきっちりさせたほうがいい。
そう思って佑は松井の案を呑み、今日一日香澄に同行してもらった。
傍から見て、香澄は精一杯やってくれていたと思う。
途中で「精神的にギリギリそうだな」と感じる事はあったが、休む前に叩き込んだ事を忘れず、きちんと対応できていた。
荷物を置いてマフラーを取り、佑は枕元に跪く。
「お疲れ様」
サラリと前髪を撫で、形のいい額に唇をつける。
「ん……」
そのとき香澄が小さくうめき、佑の手を両手で握ってきた。
布団の中でぬくもっていた小さな手が、外気で少し冷えていた佑の手を温める。
「……たすく、……さん」
もにゃもにゃと寝ぼけながら香澄は両腕を伸ばし、佑の頭を抱き締めてきた。
「ただいま」
「ん……好き……」
返事になっていない言葉に、思わず笑みがこぼれる。
ひとまず着替えないとと離れかけた時、香澄は眉間にしわを寄せて子供のようにぐずりだした。
「……うー……一緒に寝る……」
(やばい。可愛い。抱きたい)
頭の中にシンプルな単語が三つ出てきて、佑は一人悶える。
「おいで」
呼びかけると、香澄はまた両腕を差しだしてきた。
少しかがんで香澄を横抱きにすると、佑は悠々と歩いて自分の寝室まで運ぶ。
「寝る準備をするから、待ってて」
「んー」
羽根布団をめくって香澄を寝かせると、すぐにモソモソとダンゴムシのように丸まってゆく。
(面白いな。猫でも飼ってるみたいだ)
佑はクツクツと笑ってから、着替えてバスルームに向かった。
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