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第十五部・針山夫婦 編
テレビ局へ
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ハナテレビの地下駐車場に入ると、香澄はあらかじめ渡されていた通行証を佑に渡し、自分も首から提げる。
車から降りて警備員に挨拶をし、いざテレビ局に入った。
テレビ局にはまだ数度しか入っていないが、広々としたホールは綺麗で、受付嬢も綺麗だ。
到着を待っていた番組ADが「お待ちしておりました」と笑みを浮かべ、二人を楽屋まで案内する。
「御劔社長には、先にメイクをして頂きます。いやぁ、メイク要らずと言われているだけあって、さすがお綺麗な顔をされていますね。念のため、ライトで肌が光る事などを考えて、軽くファンデーションなどを施させて頂きます」
「分かりました」
エレベーターではアイドルらしい若い女性二人と一緒になり、佑は物凄い視線を浴びていた。
一人は無言で息を呑み、大きな目を見開いて尊いものでも拝んでいるかのような顔だ。
もう一人はひたすら佑の横顔を凝視し、時々ハッと気づいては視線を逸らし、それでもまた見てしまう。
アイドルたちはいきなり声をかけては失礼と思っているのか、結局佑に話し掛けなかった。
(凄い……。皆が会いたがるアイドルにこんな目を向けられて、何とも思っていない男……)
香澄は逆に感心し、そして少し安心してしまう。
やがて目的のフロアに着き、二人は楽屋でコート類を脱ぐ。
佑はADに案内されてメイク室に行き、香澄はADに番組の進行説明を聞きに行った。
収録は夜の時間帯に放送される『アナタ・イズム』というトーク式の番組のものだ。
「真澄氏からのインタビューは事前に収録させて頂いています。他、仲がいいという俳優やモデルから一言、それを交えて御劔社長と司会者がトークを交えていきます。台本はお渡ししてある通りですが、メイクが終わったあと、いま一度楽屋で台本を確認して頂けたら幸いです」
「トーク内容は、台本通りと考えて宜しいですね?」
「はい。会話が盛り上がって脱線した場合、面白ければ使わせて頂きます。色々とこちらで編集しますけれど」
そう言って、ADは両手でチョキを作り、ちょきんとテープカットするジャスチャーをしてみせる。
「承知致しました。御劔は自身の発言を、本意ではない所で切り貼りされる事を好んでおりません。その事を気に留めて頂けたらと思います。こちらも争いは好みませんので」
香澄は真顔で言い、佑に不利になるような編集をすれば、弁護士に相談する事も辞さないと暗に仄めかす。
「承知しております。そこは気を付けますとも。天下の御劔社長ですから」
逆にADにチクリとやり返される。
「御劔の飲み物は、連絡致しました通り、ウーロン茶でお願い致します」
「はい」
「毎回テレビ取材の時に申し上げておりますが、御劔は目の色素が常人より薄いため、あまり強い照明を使わないようお願いします」
そう言って香澄はスタジオを確認する。
夜に放送する番組なので、落ち着いた雰囲気のセットだ。
ライトは間接照明を使い、セットもウッド調でそろえている。
香澄は佑が座る椅子に近づき、実際に座ってみた。
そして頭上のメインライトや、佑が浴びる各ライトを確認して頷く。
彼女の様子を見て、ADが尋ねてきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。ご配慮ありがとうございます。それでは、御劔の様子を見て参ります」
香澄はペコリと頭を下げ、佑がいるメイクルームに向かおうとする。
その時、番組ディレクターに声を掛けられた。
「ああ、あなたが河野さんの代理の赤松さんですか? あの、婚約者の」
「はい。お世話になっております」
余計な一言がついたが、香澄はビジネススマイルを浮かべたまま一礼をする。
「いやぁ、お美しいですね。ああ、私こういう者です」
「恐縮です」
香澄もスッと名刺を出して交換する。
ディレクターは香澄の名刺を確認したあと、遠慮のない視線でジロジロ見てくる。
嫌だなと思うが黙って微笑んでいると、とんでもない事を言われた。
「赤松さんはタレントデビューしないんですか?」
「えっ?」
香澄は思わず素っ頓狂な声を出し、周りから一瞬チラッと視線をもらう。
車から降りて警備員に挨拶をし、いざテレビ局に入った。
テレビ局にはまだ数度しか入っていないが、広々としたホールは綺麗で、受付嬢も綺麗だ。
到着を待っていた番組ADが「お待ちしておりました」と笑みを浮かべ、二人を楽屋まで案内する。
「御劔社長には、先にメイクをして頂きます。いやぁ、メイク要らずと言われているだけあって、さすがお綺麗な顔をされていますね。念のため、ライトで肌が光る事などを考えて、軽くファンデーションなどを施させて頂きます」
「分かりました」
エレベーターではアイドルらしい若い女性二人と一緒になり、佑は物凄い視線を浴びていた。
一人は無言で息を呑み、大きな目を見開いて尊いものでも拝んでいるかのような顔だ。
もう一人はひたすら佑の横顔を凝視し、時々ハッと気づいては視線を逸らし、それでもまた見てしまう。
アイドルたちはいきなり声をかけては失礼と思っているのか、結局佑に話し掛けなかった。
(凄い……。皆が会いたがるアイドルにこんな目を向けられて、何とも思っていない男……)
香澄は逆に感心し、そして少し安心してしまう。
やがて目的のフロアに着き、二人は楽屋でコート類を脱ぐ。
佑はADに案内されてメイク室に行き、香澄はADに番組の進行説明を聞きに行った。
収録は夜の時間帯に放送される『アナタ・イズム』というトーク式の番組のものだ。
「真澄氏からのインタビューは事前に収録させて頂いています。他、仲がいいという俳優やモデルから一言、それを交えて御劔社長と司会者がトークを交えていきます。台本はお渡ししてある通りですが、メイクが終わったあと、いま一度楽屋で台本を確認して頂けたら幸いです」
「トーク内容は、台本通りと考えて宜しいですね?」
「はい。会話が盛り上がって脱線した場合、面白ければ使わせて頂きます。色々とこちらで編集しますけれど」
そう言って、ADは両手でチョキを作り、ちょきんとテープカットするジャスチャーをしてみせる。
「承知致しました。御劔は自身の発言を、本意ではない所で切り貼りされる事を好んでおりません。その事を気に留めて頂けたらと思います。こちらも争いは好みませんので」
香澄は真顔で言い、佑に不利になるような編集をすれば、弁護士に相談する事も辞さないと暗に仄めかす。
「承知しております。そこは気を付けますとも。天下の御劔社長ですから」
逆にADにチクリとやり返される。
「御劔の飲み物は、連絡致しました通り、ウーロン茶でお願い致します」
「はい」
「毎回テレビ取材の時に申し上げておりますが、御劔は目の色素が常人より薄いため、あまり強い照明を使わないようお願いします」
そう言って香澄はスタジオを確認する。
夜に放送する番組なので、落ち着いた雰囲気のセットだ。
ライトは間接照明を使い、セットもウッド調でそろえている。
香澄は佑が座る椅子に近づき、実際に座ってみた。
そして頭上のメインライトや、佑が浴びる各ライトを確認して頷く。
彼女の様子を見て、ADが尋ねてきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。ご配慮ありがとうございます。それでは、御劔の様子を見て参ります」
香澄はペコリと頭を下げ、佑がいるメイクルームに向かおうとする。
その時、番組ディレクターに声を掛けられた。
「ああ、あなたが河野さんの代理の赤松さんですか? あの、婚約者の」
「はい。お世話になっております」
余計な一言がついたが、香澄はビジネススマイルを浮かべたまま一礼をする。
「いやぁ、お美しいですね。ああ、私こういう者です」
「恐縮です」
香澄もスッと名刺を出して交換する。
ディレクターは香澄の名刺を確認したあと、遠慮のない視線でジロジロ見てくる。
嫌だなと思うが黙って微笑んでいると、とんでもない事を言われた。
「赤松さんはタレントデビューしないんですか?」
「えっ?」
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