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第十五部・針山夫婦 編
移動中の報告
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「先方は六本木ヒルズ滝タワーオーナーの平川様です。手土産には『エルバジ』のプレミアビールを用意致しました。昼食会のお誘いを頂いた時、社長は和洋中問わずとの事でしたので、先方が指定されました銀座『桜の花』の個室で……という事になっております。今回の昼食会でのお話は、所有ビルのワンフロアを使ってChief Everyを入れたいとの打診がメインになると思います。他、ハイブランド店舗が並ぶフロアにCEPの導入を……というお話の可能性もあります」
午前中のうちに、河野から託された資料を読んで頭に入れ、今は車の中でタブレットで確認しつつ佑に伝える。
佑はゆったりと脚を組んで目を閉じ、香澄の言葉を聞いている。
「赤松さんは同席するのか?」
「はい。もともとは河野さんが同席する予定でしたが、先方が『全員で』と仰いまして、秘書も含めお誘いを受けております」
「そうか、ありがたいな」
「懐石コースの内容ですが、黒毛和牛のしゃぶしゃぶがメインの他、石焼きステーキか銀ダラかを選べるようになっております。平川様の秘書の話では、平川様は近年脂ものが苦手との事で、お魚を選ばれるとの事です。念のため平川様の情報として、お耳に入れておきたいと思いました」
「ああ、ありがとう」
「予定時間は十二時から十四時までとなっております。その後、移動時間を少し多めに取り、広尾の『ボンデイカフェ』のアイドルタイムを使い、四十分の雑誌インタビューです」
アイドルタイムというのは、ランチとディナーの間にある休憩時間だ。
出版社の人の話では、撮影ありのインタビュー場所に飲食店を使う場合、アイドルタイムを利用すると大体OKがもらえるらしい。
他の客がいる時は肖像権などの問題が発生するし、インタビューを静かに行うためにもその時間帯は都合が良かった。
基本的に飲食店側も、店の宣伝になるなら割と快く受け入れてくれるそうだ。
「インタビューのテーマはクリスマスに向けて、俺の恋愛観について……とかだっけ?」
「はい。撮影は座り姿以外に、可能ならネクタイを解いたり、シャツのボタンを一つ二つ外すくらいの写真を頂けたら……という相談も受けています。その他、インタビューについてですが、女性に求める事、今の男性に必要な事、セックスライフについて……なども予定しているとの事です」
香澄は胸の奥に微妙な感情を抱くものの、仕事中なので資料を読み上げる事に徹する。
それをつまらなく思ったのか、佑が顔を覗き込んできた。
「赤松さんはこういうインタビューや撮影依頼、どう思う?」
「え?」
「どう思う? と言われても……」と香澄は顔を上げる。
佑を見ると、意味深な表情でこちらを見ている。
(『婚約者として嫌』とか言わせたいんだろうけど……)
彼の意図は分かるものの、仕事中に私情を持ち込みたくない。
「……社長は若者の絶大な人気を得ていますし、雑誌の売り上げは望めると思います。回答の中にChief Everyを絡めたファッション的な答えを紛れ込ませれば、こちらの売り上げにも繋がると思います」
淀みなく答えると、佑は溜め息をついた。
「分かった。そうしよう。君もブレないね」
「…………」
「秘書モードになると可愛げがない」と言われたような気になり、香澄は少し落ち込む。
インタビューについて話したくないと言えば嘘になるが、移動中は次の仕事に繋げる大切な時間だ。
「平川様の情報に戻ります」
気持ちを切り替え、香澄はこれから昼食を共にする平川について、予備情報などを読み上げていった。
**
約束の店に着くと、平川と秘書は先に席に着いていた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
「お招き預かり光栄です」
佑と平川はがっちりと握手をする。
そして佑は平川に、香澄が持っている手土産の袋を示す。
「こちら、平川さんのお好きな物をご用意しました。気に入って頂けたら光栄です」
「ありがとうございます。こちらも評判のいい菓子を用意しましたので、どうぞお召し上がりください」
香澄は平川の秘書と黙礼し合い、無言で互いの紙袋を交換する。
午前中のうちに、河野から託された資料を読んで頭に入れ、今は車の中でタブレットで確認しつつ佑に伝える。
佑はゆったりと脚を組んで目を閉じ、香澄の言葉を聞いている。
「赤松さんは同席するのか?」
「はい。もともとは河野さんが同席する予定でしたが、先方が『全員で』と仰いまして、秘書も含めお誘いを受けております」
「そうか、ありがたいな」
「懐石コースの内容ですが、黒毛和牛のしゃぶしゃぶがメインの他、石焼きステーキか銀ダラかを選べるようになっております。平川様の秘書の話では、平川様は近年脂ものが苦手との事で、お魚を選ばれるとの事です。念のため平川様の情報として、お耳に入れておきたいと思いました」
「ああ、ありがとう」
「予定時間は十二時から十四時までとなっております。その後、移動時間を少し多めに取り、広尾の『ボンデイカフェ』のアイドルタイムを使い、四十分の雑誌インタビューです」
アイドルタイムというのは、ランチとディナーの間にある休憩時間だ。
出版社の人の話では、撮影ありのインタビュー場所に飲食店を使う場合、アイドルタイムを利用すると大体OKがもらえるらしい。
他の客がいる時は肖像権などの問題が発生するし、インタビューを静かに行うためにもその時間帯は都合が良かった。
基本的に飲食店側も、店の宣伝になるなら割と快く受け入れてくれるそうだ。
「インタビューのテーマはクリスマスに向けて、俺の恋愛観について……とかだっけ?」
「はい。撮影は座り姿以外に、可能ならネクタイを解いたり、シャツのボタンを一つ二つ外すくらいの写真を頂けたら……という相談も受けています。その他、インタビューについてですが、女性に求める事、今の男性に必要な事、セックスライフについて……なども予定しているとの事です」
香澄は胸の奥に微妙な感情を抱くものの、仕事中なので資料を読み上げる事に徹する。
それをつまらなく思ったのか、佑が顔を覗き込んできた。
「赤松さんはこういうインタビューや撮影依頼、どう思う?」
「え?」
「どう思う? と言われても……」と香澄は顔を上げる。
佑を見ると、意味深な表情でこちらを見ている。
(『婚約者として嫌』とか言わせたいんだろうけど……)
彼の意図は分かるものの、仕事中に私情を持ち込みたくない。
「……社長は若者の絶大な人気を得ていますし、雑誌の売り上げは望めると思います。回答の中にChief Everyを絡めたファッション的な答えを紛れ込ませれば、こちらの売り上げにも繋がると思います」
淀みなく答えると、佑は溜め息をついた。
「分かった。そうしよう。君もブレないね」
「…………」
「秘書モードになると可愛げがない」と言われたような気になり、香澄は少し落ち込む。
インタビューについて話したくないと言えば嘘になるが、移動中は次の仕事に繋げる大切な時間だ。
「平川様の情報に戻ります」
気持ちを切り替え、香澄はこれから昼食を共にする平川について、予備情報などを読み上げていった。
**
約束の店に着くと、平川と秘書は先に席に着いていた。
「御劔さん、ようこそいらっしゃいました」
「お招き預かり光栄です」
佑と平川はがっちりと握手をする。
そして佑は平川に、香澄が持っている手土産の袋を示す。
「こちら、平川さんのお好きな物をご用意しました。気に入って頂けたら光栄です」
「ありがとうございます。こちらも評判のいい菓子を用意しましたので、どうぞお召し上がりください」
香澄は平川の秘書と黙礼し合い、無言で互いの紙袋を交換する。
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