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第十四部・東京日常 編
何やってるの!? あの人!
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「そうだ。佑さんなら、いつも書き置きをしてくれるはずで……」
書き置きを求めてまたあちこち探すと、リビングのテーブルにメモが置いてあった。
「良かったー……」
ピラリとメモを手に取り「なになに?」と読むが、その目が驚きに見開かれる。
『ホテルのジムとサウナで熱を下げてくる』
ひっくり返った声を出したあと、香澄は信じられないと首を横に振った。
「ジム!? 何やってるの!? あの人!」
香澄は慌ててウォークインクローゼットに向かい、被るだけのワンピースを着る。
そして洗面所で髪を梳かし、薄付きのリップをサッと塗り、スマホをウォレットに入れてたすき掛けにする。
カードキーをひっつかみ、急いで部屋を出た。
**
ラグジュアリーフロアには共用スペースがあり、そこにジムやプール、ラウンジなどがある。
ジムに向かうと、宿泊客に紛れて佑の姿があった。
「もう……」
溜め息をついた香澄は、ジムの隅で彼を待つ。
佑は運動着姿で、マスクをしたままランニングマシーンでひたすら走っていた。
香澄はムスッとしてベンチに座り、佑を睨んで待つ。
(心配したのに! なんで動いてるの? まだ熱あるんでしょう?)
自分を大切にしない佑の行動に、初めて腹が立った。
いつもの「イチャイチャがしつこい」とかそんなレベルではない。
本当に心配しているのに、それを裏切る行動を取られてショックだった。
むくれたまま仕事用のスマホを開くと、松井から『八時に高村医師が、ホテルまで往診してくれます』と連絡が入っていた。
現在は六時半前で、往診までに朝食をとってもまだ余裕がある。
(……あれだけ心配して看病したのに、こういう熱の下げ方をされるなんて……。馬鹿みたい)
「心配したのに」と恩を着せたい訳ではない。
けれど佑だって香澄が心配しているのを分かった上で、安静にして医師がくるまで大人しくしてくれるものと思っていたのだ。
あれだけ気を揉んで色々したのに、そのすべての努力や心配、想いを否定された気持ちになった。
情けなくて、悔しくて、目が潤んできてしまう。
洟を啜り、手で目元を拭った時、目の前に誰かが立った。
「た――」
佑かと思って顔を上げたが、目の前にいるのは面識のない男性だ。
「……あの?」
「誰か待ってるの? それともジムの使い方が分からない? ここにいるって言う事は、上の階に泊まってるんでしょ? 観光? なら一緒に回ろうか? 君みたいな可愛い子だったら、何でもご馳走してあげるけど」
一目見て「軽そう」と思った男性は、まだ若い。
金は持っていそうだがどこかギラついていて、ベンチャー企業の社長という雰囲気だ。
「人を迎えに来ただけですので、結構です」
ペコリと頭を下げてから佑を見ると、男性の声を聞いてこちらに気付いたようだ。
彼はランニングマシーンを止めて、タオルで手早く手すりなどを拭いている。
ラグジュアリーホテルで、早朝からナンパをする人はそういない。
ジムにいる他の客も男性を白い目で見ていた。
一人で普段着の香澄は、場にそぐわない格好をしているのもあり、居たたまれない。
皆、体を鍛える目的でジムにきているのに、香澄がきたせいでナンパが始まってしまい、迷惑をかけた気持ちになったからだ。
「そんなこと言わないでさ、ウェアなら買ってあげるから、一緒に汗掻かない?」
男性がニタリと笑った時、彼の肩をマスクを外した佑がトントンと指でつついた。
「えっ……。あ、あ! み、御劔さん。えっ? この子が迎えに来た相手って、御劔さんですか?」
格の違う相手が現れて男性は仰天する。
そして一瞬にして、媚びる顔つきになった。
「せっかくお会いできたご縁ですから、朝食をご一緒しませんか? 僕は名古屋で新規事業を立ち上げている――」
「すみませんが、今は興味ありません。プライベートなので失礼します」
佑が顔色一つ変えずに言い、男性はさすがに空気を察したようだ。
「でしたら名刺を……」
「ご縁があれば、一回目を逃しても二回目が訪れるそうです。きっとまた別の場所でお会いできるでしょう」
佑の言葉に、男性は「さすが御劔さん」という顔をした。
「彼女は私の婚約者ですので、みだりに声を掛けられませんようお願いします」
「す、すみません。失礼致しました。……では、またご縁を信じて!」
佑は男性と握手し、会釈をする。
それで〝終わり〟だと察した男性は、思っていたよりあっさりと立ち去っていった。
助けてもらったので、香澄は一応礼を言う。
「……ありがとう」
だが彼を許した訳ではないので、まだムスッとしている。
「探したか? ごめん」
香澄の雰囲気を鋭敏に察した佑は、スポーツドリンクを飲んで彼女の隣に座る。
書き置きを求めてまたあちこち探すと、リビングのテーブルにメモが置いてあった。
「良かったー……」
ピラリとメモを手に取り「なになに?」と読むが、その目が驚きに見開かれる。
『ホテルのジムとサウナで熱を下げてくる』
ひっくり返った声を出したあと、香澄は信じられないと首を横に振った。
「ジム!? 何やってるの!? あの人!」
香澄は慌ててウォークインクローゼットに向かい、被るだけのワンピースを着る。
そして洗面所で髪を梳かし、薄付きのリップをサッと塗り、スマホをウォレットに入れてたすき掛けにする。
カードキーをひっつかみ、急いで部屋を出た。
**
ラグジュアリーフロアには共用スペースがあり、そこにジムやプール、ラウンジなどがある。
ジムに向かうと、宿泊客に紛れて佑の姿があった。
「もう……」
溜め息をついた香澄は、ジムの隅で彼を待つ。
佑は運動着姿で、マスクをしたままランニングマシーンでひたすら走っていた。
香澄はムスッとしてベンチに座り、佑を睨んで待つ。
(心配したのに! なんで動いてるの? まだ熱あるんでしょう?)
自分を大切にしない佑の行動に、初めて腹が立った。
いつもの「イチャイチャがしつこい」とかそんなレベルではない。
本当に心配しているのに、それを裏切る行動を取られてショックだった。
むくれたまま仕事用のスマホを開くと、松井から『八時に高村医師が、ホテルまで往診してくれます』と連絡が入っていた。
現在は六時半前で、往診までに朝食をとってもまだ余裕がある。
(……あれだけ心配して看病したのに、こういう熱の下げ方をされるなんて……。馬鹿みたい)
「心配したのに」と恩を着せたい訳ではない。
けれど佑だって香澄が心配しているのを分かった上で、安静にして医師がくるまで大人しくしてくれるものと思っていたのだ。
あれだけ気を揉んで色々したのに、そのすべての努力や心配、想いを否定された気持ちになった。
情けなくて、悔しくて、目が潤んできてしまう。
洟を啜り、手で目元を拭った時、目の前に誰かが立った。
「た――」
佑かと思って顔を上げたが、目の前にいるのは面識のない男性だ。
「……あの?」
「誰か待ってるの? それともジムの使い方が分からない? ここにいるって言う事は、上の階に泊まってるんでしょ? 観光? なら一緒に回ろうか? 君みたいな可愛い子だったら、何でもご馳走してあげるけど」
一目見て「軽そう」と思った男性は、まだ若い。
金は持っていそうだがどこかギラついていて、ベンチャー企業の社長という雰囲気だ。
「人を迎えに来ただけですので、結構です」
ペコリと頭を下げてから佑を見ると、男性の声を聞いてこちらに気付いたようだ。
彼はランニングマシーンを止めて、タオルで手早く手すりなどを拭いている。
ラグジュアリーホテルで、早朝からナンパをする人はそういない。
ジムにいる他の客も男性を白い目で見ていた。
一人で普段着の香澄は、場にそぐわない格好をしているのもあり、居たたまれない。
皆、体を鍛える目的でジムにきているのに、香澄がきたせいでナンパが始まってしまい、迷惑をかけた気持ちになったからだ。
「そんなこと言わないでさ、ウェアなら買ってあげるから、一緒に汗掻かない?」
男性がニタリと笑った時、彼の肩をマスクを外した佑がトントンと指でつついた。
「えっ……。あ、あ! み、御劔さん。えっ? この子が迎えに来た相手って、御劔さんですか?」
格の違う相手が現れて男性は仰天する。
そして一瞬にして、媚びる顔つきになった。
「せっかくお会いできたご縁ですから、朝食をご一緒しませんか? 僕は名古屋で新規事業を立ち上げている――」
「すみませんが、今は興味ありません。プライベートなので失礼します」
佑が顔色一つ変えずに言い、男性はさすがに空気を察したようだ。
「でしたら名刺を……」
「ご縁があれば、一回目を逃しても二回目が訪れるそうです。きっとまた別の場所でお会いできるでしょう」
佑の言葉に、男性は「さすが御劔さん」という顔をした。
「彼女は私の婚約者ですので、みだりに声を掛けられませんようお願いします」
「す、すみません。失礼致しました。……では、またご縁を信じて!」
佑は男性と握手し、会釈をする。
それで〝終わり〟だと察した男性は、思っていたよりあっさりと立ち去っていった。
助けてもらったので、香澄は一応礼を言う。
「……ありがとう」
だが彼を許した訳ではないので、まだムスッとしている。
「探したか? ごめん」
香澄の雰囲気を鋭敏に察した佑は、スポーツドリンクを飲んで彼女の隣に座る。
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