上 下
886 / 1,536
第十四部・東京日常 編

お客さん、厄介な病気ですね

しおりを挟む
「社長、お邪魔虫は帰りますので、赤松さんにゆーっくり一日の疲れを癒やしてもらってください」

「またいつでも誘ってくださいね~」

「赤松さん、じゃあね」

 口々に言い、三人は出入り口に向かう。

「お気を付けて」

「ありがとう!」

「社長、失礼します」

「失礼しまーす」

 三人は最後までかしましく、廊下に出ていく。

 香澄はホテルを出るまで見送ろうとしたが、「いいよ~」と言われてしまった。

 エレベーター前でしばし雑談し、ゴンドラが着いて三人が乗る。

「じゃあ、今日はありがとうございました! お気を付けて帰ってくださいね」

「赤松さん、またねー!」

「社長を癒してあげてねん」

「社長とゆっくり過ごしてねー」

 エレベーターのドアが閉じきるまで、三人は好きな事を言っていた。

(楽しかったなぁ)

 部屋に戻ろうとしたが、カードキーを持たずに出てしまって、オートロックが掛かっているのに気づく。

「えっと……。なんか、ごめんなさい」

 部屋のチャイムを押すと、佑がすぐにドアを開けてくれた。

「ありがとう」

 微笑んで部屋に入ろうとしたが、いきなりグイッと腕を引っ張られた。

「きゃっ……、ん、――む」

 ドアに体を押しつけられ、奪うようにキスをされる。

 ちゅ……、ぷちゅ……と唇をついばまれ、口を小さく開くと唇を舐められて、甘噛みされた。

「……は……ぁ。……たす……くさん?」

 訳が分からなくて佑を見ると、彼は密着したまま不機嫌そうな顔で見つめてくる。

「――女子会、楽しかった?」

「……? うん」

「女性が集まるとオヤジっぽい猥談になるって言うけど、その餌食になってた?」

 ギクッとした香澄は、ブンブンと首を横に振る。

「そんなんじゃないよ。普通の女子会、女子トーク」

「じゃあ、なんであんなきわどいスケッチがある? しかも女性器にラビアリングをつけた絵まで」

「う……うー……」

〝あれ〟を見られていたのを失念し、香澄は言葉に詰まる。

「で、でも……女子同士だし……」

「香澄?」

「にゅっ」

 名前を呼ばれると同時に、顎を掴まれて頬を押された。
 すると唇がタコのように突きでる。

 そんな顔をしているのに、佑はまじめに見つめてきた。

「さっき言ったように、相手が女性でも、香澄の裸や性器を想像されるのは嫌だ。香澄を恥ずかしがらせていいのは俺だけだし、香澄のスケッチをしていいのも俺だけだ」

(あれ……)

 このパターンは……と思い、香澄は「もひかひへ」と不明瞭に言う。

 香澄の言葉を聞こうと、佑はパッと手を離した。

「……もしかして、私のあそこを描いた事がなかったから、先を越されて嫉妬してる?」

 違ってほしいと思うものの、この一年の付き合いで、佑が相当な変態である事は分かっている。

 佑はムスッと黙ったまま、「悪いか」と言いそうな目で見つめ返してきた。

(ああああ……)

 香澄は頭を抱えたくなる気持ちになったあと、キッと佑を睨んだ。

「駄目だからね! 成瀬さんは沢山勉強して、ヌードデッサンもして、想像だけで描けるようになっただけなんだから。私は絵のためにお股見せないからね!」

 佑はいっそう不機嫌になり、目を細める。

「そんな顔をしても駄目です!」

 プイッと横を向いた香澄は、佑の腕を逃れてスタスタとリビングに戻る。

「なぁ」

「きゃあっ」

 だが耳元で呼ばれたかと思うと、いきなり背後から抱き上げられた。

 佑はソファに座り、香澄を膝の上にのせてスカートの中に手を入れてくる。

「……このスカート、初めて穿くな?」

「そ、そうですが何か」

「俺の前では穿いてくれないのに」

「他にも服が一杯あります。そういうクレームは対応しかねます」

「香澄の〝初〟は全部俺がほしい」

「……お客さん、厄介な病気ですね」

 佑のあまりの面倒さに突っ込みを入れ、香澄はポンポンと彼の頭を撫でる。

 そんな香澄を、佑は少し恨みがましそうな目で見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。 −−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!! イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

処理中です...