880 / 1,544
第十四部・東京日常 編
かしましくお喋りをしながらの食事
しおりを挟む
「その……ずっと休んでいたくせに海外行ってたとか、そんな余裕があるなら働けって思われても仕方がないと言いますか……」
「あー。そういうの、もしかしたらほーんの少しいるかもだけど。違うからね?」
水木に「違う」と言われ、香澄は不安げに彼女を見る。
「赤松さんって鬱になった本人なのに、『鬱で休むのは甘え』って思ってるクチ?」
「い、いえ……。でも私、一般的な病気療養よりずっと長く休んでしまって」
俯く香澄の肩を、隣に座っていた水木がポンと叩いた。
「うちの会社って、何度も表彰されてるホワイト企業だよ。私はそれが誇りだし、社長の事も尊敬してる。そういう会社で働く社員も、意識は高く持っていてほしいの。『鬱は甘え』って言ってるのは、ブラック企業体質の人だと思うよ。鬱は病気だし、リフレッシュのために旅行に行くのは全然アリ! 私はChief Everyの社員として、赤松さんにそう考えてほしいな」
キッパリと言われ、水木の意識の高さに香澄は呆然とする。
「意識が高い」というと、どこかバカにしたようなニュアンスで使われる事が多いが、水木は本当の意味で意識が高い。
Chief Everyの社員として誇りを持ち、一人の人としても志を高く持とうとしている。
何かあるとすぐ落ち込み、「自分のせい」と卑屈になる癖がある香澄から見て、その姿はとても眩しく思えた。
「……すみま……。……ありがとうございます」
謝ろうとしたが「いけない」と思い、感謝の言葉を口にする。
すると成瀬が赤ワインを飲んでケロリと言った。
「飯山みたいなのがいたら、何か言ってたかもしれない。でもあいつらがいなくなって、皆生き生きしてるからね。あいつら『私たちはできる女です』って高圧的だったから、仕事し辛かったんだよね。チーフデザイナーにも歯向かってたしねー。退職した原因は、赤松さんをいじめたからだろうけど、ザマーミロって感じ」
成瀬がケロリと毒を吐き、赤ワインを呷る。
それに荒野も同意する。
「今の企画部、すっごくいい雰囲気だよ。それに赤松さんって社長秘書でしょ? 負い目を感じるなら一般社員より、秘書課にだと思う。でもあの人たちだって自分の仕事で精一杯だしね。風の噂で、赤松さんがいなくなったあとの座を狙ってる人がいる……って聞いたけど、それは社長が望まないでしょー。そうさせないように、河野さんが入ったと思うしね。てか、そもそもうちの社長は女性秘書をつけない人だったし」
その言葉を聞いて、香澄はドキッとする。
「社長秘書、狙っている人がいるんですか?」
「そりゃあねぇー……。いないって言ったら嘘になるよね。でも社長の防御が完璧だから、赤松さんは心配しなくていいと思うよ」
「そう……ですか?」
不安げに小首を傾げた香澄に、ニヤニヤした水木が言う。
「社長ったら、会社に赤松さんがいる時といない時とで、大分テンション違うよ。基本的に社員にもフレンドリーな人だけど、赤松さんがいると心の扉がかなり開いている感じかな。いない時はちょーっとだけ『話し掛けていいのかな?』って躊躇う雰囲気がある」
「な……なるほど……」
普段、自分目線からの〝御劔社長〟しか知らなかったので、彼女たち目線の感想は参考になる。
「ていうか、今はもうほぼ全員が『社長は赤松さんしか目に入っていない』って認識してるから、実質赤松さんは無敵だからね?」
「そ、そういうの困るんです。社長がいるからって、何でも許される人になりたくないんです」
焦って胸の前でブンブンと手を振る香澄を見て、三人は生暖かい笑みを浮かべた。
「赤松さんは大丈夫だよねー。そう言ってられる限り、いろーんな事が大丈夫だと思う」
「そうそう。だから私たちも〝社長の特別〟でも『好きだなー』って思ったし」
「……あ、ありがとうございます……」
よく分からないが褒められて、香澄はペコリと頭を下げる。
そうこうしているうちに前菜が運ばれてきた。
写真映えする前菜のあとにスープ、そしてサラダがテーブルに置かれる。
サラダは北海道産のホタテを使ったもので、「さすが北海道。赤松さんありがとう」意味もなく褒められた。
(美味しい……)
柔らかく甘みのあるホタテをむぐむぐと食べながら、「佑さんも一緒ならいいのに」と思ってしまう。
佑は今日、会社が終わったあとに会食があるらしく、それが終わり次第ホテルに戻ってくる予定だ。
「赤松さんって、社長と二人きりの時に『佑』って呼び捨てにしてるの?」
「ふむっ」
いきなりそう言われ、香澄は柚子風味のドレッシングで噎せた。
「たーくんとか、たっくんとか?」
「いや、意外と佑様とか? やらしーぃ」
「ち、違います! 普通に『佑さん』です……」
消え入るような声で白状した香澄を、三人がニヤァ……と笑って見守る。
「へぇぇ……。『佑さん』ねぇ……。御劔邸でディナーをする時は、『あーん』とかしているのかなぁ?」
成瀬がニヤニヤ笑って質問し、香澄は顔を引き攣らせる。
「あー。そういうの、もしかしたらほーんの少しいるかもだけど。違うからね?」
水木に「違う」と言われ、香澄は不安げに彼女を見る。
「赤松さんって鬱になった本人なのに、『鬱で休むのは甘え』って思ってるクチ?」
「い、いえ……。でも私、一般的な病気療養よりずっと長く休んでしまって」
俯く香澄の肩を、隣に座っていた水木がポンと叩いた。
「うちの会社って、何度も表彰されてるホワイト企業だよ。私はそれが誇りだし、社長の事も尊敬してる。そういう会社で働く社員も、意識は高く持っていてほしいの。『鬱は甘え』って言ってるのは、ブラック企業体質の人だと思うよ。鬱は病気だし、リフレッシュのために旅行に行くのは全然アリ! 私はChief Everyの社員として、赤松さんにそう考えてほしいな」
キッパリと言われ、水木の意識の高さに香澄は呆然とする。
「意識が高い」というと、どこかバカにしたようなニュアンスで使われる事が多いが、水木は本当の意味で意識が高い。
Chief Everyの社員として誇りを持ち、一人の人としても志を高く持とうとしている。
何かあるとすぐ落ち込み、「自分のせい」と卑屈になる癖がある香澄から見て、その姿はとても眩しく思えた。
「……すみま……。……ありがとうございます」
謝ろうとしたが「いけない」と思い、感謝の言葉を口にする。
すると成瀬が赤ワインを飲んでケロリと言った。
「飯山みたいなのがいたら、何か言ってたかもしれない。でもあいつらがいなくなって、皆生き生きしてるからね。あいつら『私たちはできる女です』って高圧的だったから、仕事し辛かったんだよね。チーフデザイナーにも歯向かってたしねー。退職した原因は、赤松さんをいじめたからだろうけど、ザマーミロって感じ」
成瀬がケロリと毒を吐き、赤ワインを呷る。
それに荒野も同意する。
「今の企画部、すっごくいい雰囲気だよ。それに赤松さんって社長秘書でしょ? 負い目を感じるなら一般社員より、秘書課にだと思う。でもあの人たちだって自分の仕事で精一杯だしね。風の噂で、赤松さんがいなくなったあとの座を狙ってる人がいる……って聞いたけど、それは社長が望まないでしょー。そうさせないように、河野さんが入ったと思うしね。てか、そもそもうちの社長は女性秘書をつけない人だったし」
その言葉を聞いて、香澄はドキッとする。
「社長秘書、狙っている人がいるんですか?」
「そりゃあねぇー……。いないって言ったら嘘になるよね。でも社長の防御が完璧だから、赤松さんは心配しなくていいと思うよ」
「そう……ですか?」
不安げに小首を傾げた香澄に、ニヤニヤした水木が言う。
「社長ったら、会社に赤松さんがいる時といない時とで、大分テンション違うよ。基本的に社員にもフレンドリーな人だけど、赤松さんがいると心の扉がかなり開いている感じかな。いない時はちょーっとだけ『話し掛けていいのかな?』って躊躇う雰囲気がある」
「な……なるほど……」
普段、自分目線からの〝御劔社長〟しか知らなかったので、彼女たち目線の感想は参考になる。
「ていうか、今はもうほぼ全員が『社長は赤松さんしか目に入っていない』って認識してるから、実質赤松さんは無敵だからね?」
「そ、そういうの困るんです。社長がいるからって、何でも許される人になりたくないんです」
焦って胸の前でブンブンと手を振る香澄を見て、三人は生暖かい笑みを浮かべた。
「赤松さんは大丈夫だよねー。そう言ってられる限り、いろーんな事が大丈夫だと思う」
「そうそう。だから私たちも〝社長の特別〟でも『好きだなー』って思ったし」
「……あ、ありがとうございます……」
よく分からないが褒められて、香澄はペコリと頭を下げる。
そうこうしているうちに前菜が運ばれてきた。
写真映えする前菜のあとにスープ、そしてサラダがテーブルに置かれる。
サラダは北海道産のホタテを使ったもので、「さすが北海道。赤松さんありがとう」意味もなく褒められた。
(美味しい……)
柔らかく甘みのあるホタテをむぐむぐと食べながら、「佑さんも一緒ならいいのに」と思ってしまう。
佑は今日、会社が終わったあとに会食があるらしく、それが終わり次第ホテルに戻ってくる予定だ。
「赤松さんって、社長と二人きりの時に『佑』って呼び捨てにしてるの?」
「ふむっ」
いきなりそう言われ、香澄は柚子風味のドレッシングで噎せた。
「たーくんとか、たっくんとか?」
「いや、意外と佑様とか? やらしーぃ」
「ち、違います! 普通に『佑さん』です……」
消え入るような声で白状した香澄を、三人がニヤァ……と笑って見守る。
「へぇぇ……。『佑さん』ねぇ……。御劔邸でディナーをする時は、『あーん』とかしているのかなぁ?」
成瀬がニヤニヤ笑って質問し、香澄は顔を引き攣らせる。
32
お気に入りに追加
2,509
あなたにおすすめの小説
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる