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第十四部・東京日常 編

イタリアとドイツからのプレゼント

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 香澄は自ら佑の情報を話すタイプではない。

 彼がどれだけ有名な人かを分かっているし、側にいる自分にも注目されているからこそ、言動には気をつけている。

 香澄にはそんなつもりはなくても、付き合っている相手、プレゼントされた物、行った場所などで「マウントをとっている」と一方的に思う人はいる。

 だが香澄が長年仲良くしている友達は別だ。

 佑が許可してくれる範囲でなら、気心知れた友達に少し話すぐらいならいいのでは……と思っている。

 二十八歳になるまで付き合いが続いているのは、友達との価値観や距離感、一緒にいる時の空気感が心地いいからだ。

 失礼な事は言わないし、香澄と佑のプライベートを周囲に言いふらす人たちでもない。

 佑の事を知りたがっているのは、仲のいい香澄の恋人だからというのもあるだろうし、誰にも言わない前提での単なる好奇心が強い。

「また皆に会いたいな」

 呟いて香澄は微笑む。

「……思い上がりかもしれないけど、仲良くしている人以外からは、佑さんの事で変に思われてるのかな」

 麻衣や仲良くしている友達は、変わらず接してくれる。

「だがそれほど仲良くない子たちはどうだろう?」という不安はある。

 佑に婚約者がいるとマスコミが知った時、〝美人秘書Aさんの友達〟としてインタビューに答えた人を思うと気が滅入る。

 麻衣からはこう言われていた。

『御劔さんと付き合ったのをきっかけに、そんなに関わりがなかったくせに急に近付く人が出てくるから、気をつけるんだよ』

 幸いな事に、香澄の連絡先は友達が守ってくれている。
 なので「○○さんから連絡先を聞いたんだけど……」と話しかけてくる人は、今のところいない。

「でもクラス会をしたら、そういう人がいるのかな……」

 何も起こっていないのに、心配して不安になるのは精神的に不健康だ。
 分かっていても、「どう思われるか」と考えると気持ちがグルグルしてしまう。

 学生時代は香澄の事など歯牙にも掛けなかった人が、佑と付き合っていると知っただけで態度を変えるのかと思うと、微妙な気持ちになる。

「……まぁ、今考えても何も変わらないか!」

 気持ちを切り替え、ドイツ組とイタリア組のどちらを先に開けようかと悩む。

「んー、アロイスさんとクラウスさんは……、何を送ってくるかちょっと心臓に悪いから……最後にしておこうか」

 そう思い、常識人のイタリア組の荷物を開けた。

「んん」

 やけに大きな段ボールの中には、フィオーレ家の家族それぞれからプレゼントが入っているらしい。中にはさらに小さな荷物が入っていた。

 開けていくと、女性陣からはイタリアデザインらしい華やかなワンピースやアクセサリー、ランジェリーなど。
 ルカからは温かそうなマフラーと手袋、帽子の三点セットだ。

 さらに、マリアからのプレゼントも入っていた。

 ローマに滞在していた時、彼女に足のサイズを測られた。

『世界で一つだけの靴を贈るわね』と言われていたが、〝いつか〟の事だと思っていた。

 まさかそれが誕生日プレゼントになるとは思っていなかった。

 箱の中に入っていたのは、シンプルだがとても履きやすそうなショートブーツだ。

「わああ……! 佑さんに自慢したい!」

 世界でたった一つ、香澄のためだけという贅沢に、思わず小躍りする。

 彼女からのメッセージには『スィニョール・ミツルギの靴は、別の機会に送るわね』と書かれてあった。

 そしてマルコからのプレゼントには、小さな革袋の中に、銀色のメダイ――お守りが入っている。

『香澄さんを神様が守ってくれますように』

 カードには聖母マリアの絵が描かれ、マルコの字で一言それだけ書かれてある。

「……ありがとうございます」

 胸の内が温かくなり、香澄はそのメダイをスマホケースにつける事にした。

 その他にもビスコッティをはじめ、イタリアのお菓子やエスプレッソの粉など食品が沢山入っていた。

「さて……」

 香澄はドイツ組からのプレゼントに向き直る。

 こちらも大きな段ボールで送られていて、きっとクラウザー家ぐるみなのだろう。

 いざ開けてみてまず目に入ったのは大量のチーズだ。
 様々な種類のチーズが所狭しと入っていて、緩衝材のようだ。

「なるほど……。ありがたく頂きます」

 不意に双子がドイツ人とイモの関係を丁寧に話してくれた事を思いだしたが、さすがにイモは送ってこなかったようだ。

「うわふ」

 手近にあった紙袋を開くと、中から布に包まれた革製のバッグが出てきた。

「知らないけど、高いブランドのなんだろうなぁ……」

 何せドイツ組からのプレゼントは大きな段ボール三箱にわたり、恐らく一族をかけて祝ってきたのでは……と思う。
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